第21話
さすがククレアだ。
もし僕が1人でこのシステムを完成させろと言われれば不可能だっただろう。
「まあ、仕組みとしては簡単なものなのだけれど、ひとまずはこれで大丈夫よね?」
「ああ、完璧だ。これの見張りは……、まあ適当に役職でも立てておくよ」
氾濫が発生する危険水位まで水が上昇すると、王宮内の管制室に合図が届く。
その合図は町や村にも共有され、避難行動をとらせたうえで騎士団を派遣するのだ。
「問題がないわけではないのだがな……」
先ほど大丈夫だといったが、僕たちの目線は執務室の机の上に山積みに置かれた魔石に向いていた。
「これ全てを川に設置するのよね……、しかも1つの川あたりに何個も」
システムが完成して終わりというわけにはいかない現実。
これを設置しなければせっかく研究した意味もないのだ。
「ひとまずは騎士団に設置を頼むのだが、まあそのあれだ。量産よろしく。じゃっ!」
正直この魔法付与は僕の技術では失敗のリスクが大きすぎて無理だ。
他の仕事もあるのだから、ここはすべてククレアに任せるほかない。
……泣いて助けを求めてきそうだったのでフィレノアを連れて執務室から抜け出した。ごめん!
「さて、抜け出したはいいもののすることがないな」
「そうですね。仕事はすでに片付いているので王宮内を回ってみてはいかがですか?」
「そうだな」
この王宮には僕含めたくさんの人が働いている。
塵ひとつ存在していないのだから、もちろんこの国で最高峰の技術を誇る掃除係のみんなや、料理を提供する料理人のみんな。
防衛関係を任せている大臣や、物流の管轄をしてくれている大臣を始めとするたくさんの大臣、貴族のみんな。
そして、フィレノアやティニーのようにメイド、侍女など、数えればきりがない。
そんな働いてくれている人たちの上司は誰か。
メイドだったらメイド長。確かにそうだ。
だが、一番上が誰になるかと言えばそう。僕である。
たまにはねぎらいの言葉1つや2つ掛けてあげたほうがいいのだろう。
王太子であったころはよくやっていたのだが、王位を継承してからはあまりできていなかったので、久しぶりの見回りだ。
「へ、陛下!」
「お疲れ様」
「ありがとうございます。陛下、本日はどのようなご用件で?」
「う~ん、これと言って用事はないな。頑張っている様子を見に来ただけだ」
執務室に一番近いところにある経済管理局の入っている大部屋へとやって来た。
何度も言うが、国土が広大の為に前を通るたびに地獄のようなオーラが漂っているのを肌で感じる。
これほどまでに忙しいところであるのだ。
ただ、面白いことに僕が入った途端にそのオーラは初めからなかったかのように消え去り、職員から疲労の表情が見られなくなるというのだから、やはり労いは大事ということなのだろう。
一応僕も内政を行うことがあるのだが、分野別にそれぞれ知識のあるものに任せた方が効率がいい。
すべてを国王がやる必要はないし、いい感じに権力は分散しなければいけないと思う。
「実は陛下、少し困っている案件がございまして、少し相談に乗っていただいてもよろしいでしょうか」
ん?相談?
「いいが、別に僕はそこまで経済がわかるわけではないぞ?」
「あはは、冗談がお上手ですね。陛下が苦手だとおっしゃられるのであれば、我々は経済のけの字もままならない小童ですよ」
……この国の人は何とも僕を神格化する傾向にあるようだ。
非常に困る。
「お前もほめるのが上手だな。で、用件はなんだ?」
立ち話もなんだから、ということで、場所を移して小会議室へと移動した。
フィレノアにお茶を用意させて机越しに経済担当大臣のヘルキンスと向き合う。
「陛下は先日の“レイフォース陛下即位記念セール”の件を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ。なんともばかばかしいから記憶の割と鮮明なところに入っているよ」
「そちらの方が何とか収まったのですが、えっと、“祝、国王陛下結婚セール”というものが開催されておりまして」
な、なんだそれは……。いや、祝ってもらうのはありがたいのだが。
「あはは、それはその反応になられますよね」
頭を抱えてうずくまる僕を見てヘルキンスも苦笑いを浮かべた。
「そちらの方は即位記念の際に発表された声明のお陰で何とかなったのですが、先日のクルカ川氾濫の王妃殿下の功績がどんどんと広まっておりまして……」
そういいながら取り出した1枚の新聞にはこう記されていた。
『大特価!祝クルカ川の奇跡セール!』
「……なるほど、これのダブルパンチというわけか」
「えっと、そちらの下を見ていただけますか?」
『ククレア殿下を一目見る行進
各地にある町村より、ククレア王妃殿下を1目見ようと民衆が列をなして街道を徒歩で王都へと向かっています。それにより、街道を利用した物流が停滞しています。』
「トリプルパンチです」
小会議室の中に、机にあたまを打ち付ける大きな音が響いた。
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