第18話 復興

「失礼しました。少しふざけすぎましたね。では本題に入らせていただきます」


 現状はこうだ。


 ひとまずは魔法によって水抜き自体は完了しているらしい。僕の作った堤防もうまく機能しているようで、修理や増強の必要はないようだ。


 被害は甚大で、残念ながら亡くなってしまっている方も出てきているらしい。行方がいまだわかっていない人もいるらしく、瓦礫をどかしながら捜索を続けている。


 町の8割が浸水し、川の付近の家は倒壊、半壊している家がほとんど。離れていても1階部分が浸水していて使えない状態になっていたりと、建物にも甚大な被害が出ているとか。


 運ばれてきていた荷は水に浸り、売り物にならない状態で、損失は計り知れないレベルで膨れ上がっているらしい。


 被害を受けた者たちには、ひとまずは外れに建てた仮設の小屋で詰め込むようにして避難してもらっているが、町の規模が大きいためにもちろん住んでいる人も多いわけで、建設が間に合っていないとか。


「それでも、ククレア様のお陰で士気が保たれ、何とか暴動なども起きずにやってこれております」


「へへん!すごいでしょう!」


 フィレノアの言葉に、誇るように背筋を伸ばしてはドヤ顔を披露する。


「ああ、本当に凄いよ。ありがとう」


 素直にほめられると思っていなかったのか、少し驚いたような表情を見せては耳まで赤く染め上げて横を向いてしまう。


 本当に凄いことをしてくれたのだから、ほめないわけがあるまい。


 これほどまでの被害が出ていればどこから手を付けていいのか分からないだろう。それだけで士気というのはどんどんと落ちていくものだ。


 どかしてもどかしても次から次へと現れてくる土砂や瓦礫。もしかしたらその瓦礫の中から自身の所有物が出てくるかもしれない。


 それも泥でぐちゃぐちゃになり、押しつぶされて壊れてしまった大切なものが。


 今回被害を被っているのはそこに住んでいた人たち。家は壊され、顔の知る者に亡くなってしまった人がいる方も少なくはないはずだ。


 ただ、外を見てみると皆前向きな表情でせっせと復興に勤しんでいる様子が見える。


 その中には時折笑顔を浮かべる者もいる。


 自分たちの好きなこの町を、自分たちの力で復興してまた以前のような繁栄を取り戻す。そんな希望と、そう遠くない未来の光景を思い浮かべながら必死に作業する姿。


 そんな勇敢な彼ら、彼女らがこちらを見ては尊敬のまなざしを向けながら一礼するのだ。それを見ていれば、どれほどククレアが頑張ってくれたかというのは言葉なくとも伝わってくる。


 王妃という立場でありながら、実際にこの場に訪れ自ら作業に乗り出している。


 汚れた服を変えようともせず、荒れた髪を一切気にも留めずに。





 何とか土砂をどかして作られた簡易的な道に、木材を背負った者たちが額に汗を浮かべながら歩いている。


「よし、僕も仕事をしようかな」


 土砂、瓦礫なら僕の魔術を使えば多少はどかせるはずだ。


 魔力切れの反動か、いつもより重い体を奮い起こし魔術を発動する。


 土砂を固め、ブロック状に成形してはアイテムボックスへと収納する。瓦礫は細かく分解し、同じく土砂で固めてブロック状にする。


「復帰すぐなんだから、あまり無理してはいけないわ」


 相当疲れているはずなのに、顔色一つ変えずに僕と同じ作業を行うククレア。


 フィレノアはその様子を見ると、おそらくこれもまたククレアが考えてくれたであろう復興の流れの記された書類を持って駆けていった。


「僕は恵まれているな。ククレアと言いフィレノアと言い、国民と言い」


 太陽の角度を見るに、時刻はお昼時と言ったところだろう。


 ふとあたりを見渡すと、小高い丘のようになっているところから湯気が上がっているのが見える。


 作業がひと段落ついた者たちがそこに集まり、白衣を着た者たちから器を受け取っては美味しそうにそれを食べている。


 炊き出しだ。


 みんなそれぞれ自分の仕事を見つけて不満を漏らさずにできることをしてくれている。


 先日までのあの雨が嘘のような快晴からのぞかせる明るい太陽は、まるでそんな僕たちの背中を押してくれているように見えた。

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