第16話 雨

 僕は雨があまり好きではない、


 確かに恵みの雨であり、雨が降らないと作物は育たず、国も保ててはいけないということはわかっている。


 それでもあまり好きではないのだ。


 なんとなく薄暗いし、ジメジメとしているし、そして何より……


「陛下!クルカ川で氾濫が発生したとのことです!」


 何かとトラブルが起こるのだ。










 扉を3度叩き、返事を待たずして飛び込んできた彼が告げてくれたのは、ここから南側に少し行ったところで川の氾濫が発生したというもの。


 情報によると、今回氾濫を起こしたのはクルカ川というこの国で1位2位を争うほどの大きな川である。


 因みに、実は王都の近くには1つ大きな川が流れており、流通や漁や水など、様々な用途に活用している。


 その川の名前もクルカ川である。


「……この世の終わりだぁ」


「陛下、そんなとんでもないことをおっしゃらないで、何とか解決策をお考え下さい」


「そうだな。被害の状況はどうなっている?」


「はい。こちらに入ってきている資料によりますと、反乱した場所はテルネモの近くで、テルネモはほぼ全域が甚大な被害を受けているようです。なかなかにまずいかと」


「はぁ!?テルネモ全域だ??」


 明らかに伝達が遅くはないだろうか。


 氾濫が発生しそうになったというタイミングで報告に来てもらわないと、手遅れになりかねない。


 テルネモと言えば、ここ王都から少し行ったところにある都市であり、そこそこの人口を誇っていたはずだ。


 それもそのはずで、この国の物流の拠点はテルモネなのだから。


 王都に近く、国の中心に近くて街道が集まっている。


 そして、クルカ川に面している。


 それが壊滅的となると……


「これはまずいことになったぞ。……仕方ない」


 これはすぐに解決しなければ、被害がテルモネだけではすまなくなってしまうかもしれない。


 他国からの物流、国内の物資運搬が滞れば、経済が混乱してしまう恐れがある。


「よし、僕が直接出向くことにする。こっちのことはククレアと進めてくれ」


「了解いたしました」


 こういう時、国王はどんと玉座に構え、部下に指示を下していくというのが正しいだろう。


 ただ、今はどうやらそれでは間に合わないような状況らしい。


 撥水を付与したローブを身にまとい、最低限の荷物を持ってベランダからクルテゥーカ湿地方面へと飛行で向かう。


 馬車で飛ばして4日と言った距離を、僕の洗練された飛行魔術で2時間。


 この飛行中にもどうするのかを考えなければならない。


 クルカ川は昔から氾濫をよく起こす河川だったために、父の時代に堤防を築いた。


 国の歴史というのは、治水の歴史である。


 過去、幾度も国が川の氾濫によって崩壊してきている。


 それほどまでに氾濫というのは危険で怖いものなのだ。


 泥を含んだ水が、壁のように押し寄せてはあらゆるものを流してしまうのだから。


 今回氾濫が発生してしまったということは、その堤防を優に超えるほどの水が流れた、または堤防が一部壊れてしまったかになるだろう。


 どちらにせよ、堤防をどうにかしないことにはいくら水を取り除こうともすぐに入ってきてしまう。


 土魔術をフルで使えば多少何とかなるだろう。


 ひとまず応急処置だけは行ってあとはいまフィレノアが今準備を進めてくれているであろう、災害復興チームに丸投げにする。


「それにしても雨が強い」


 ただでさえ横殴りのバケツをひっくり返したような大雨。


 それに加え、僕自身が速度を出して動いているというわけで、撥水のローブを羽織っていたところで隙間からたくさんの水が侵入してくる。


 ひとまず風魔術で空気の層を作り出し、ローブから1センチあたりですべての水が弾かれるように魔術を組んだ。


 そして、その空気の層の温度を20度くらいにすることにより、快適な空の旅を実現しようというわけだ。


 ただ、復興にかかる魔力はしっかりと温存していないといけないため、できるだけ節約しながら。










「こりゃ随分……」


 しばらくして、テルモネが見えてきたが、町中濁流にのみこまれ、川の町との境目が不明瞭になってしまっている。


 どうやら今回の氾濫の原因は堤防の高さらしい。


 堤防の守れる水位を超えてしまったようで、水が溢れ出てきている。


 一刻も早く土を盛らねば、さらに被害が拡大してしまうかもしれない。


「急ごう」


 1国の王として、できるだけ早く。

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