若き天才国王の苦悩
べちてん
第1話
「「「「「国王陛下万歳!!アインガルド王国万歳!!」」」」」
ここ、アインガルド王国に新たな国王が誕生した。名はレイフォース・アインガルド、齢14歳にして低、中、上、王、神級とある中の神級魔術を操る者。
王太子の頃から発揮されてきた天才としか言いようのない己の力、自身の私利私欲に惑わされることなく、国民の声を政治に反映させてきた素晴らしい人柄。
大陸の2分の1にも届くほどの広大な領土を持つアインガルド王国、レイフォースは国民からの信頼も厚く、他国との協力も惜しまない。
故に、常に合理的な考えをする彼の王位継承に対して反対の意を抱くものは、国内にも、国外にも存在しなかった。
「……どうしてだ、僕は継がないといったはずだぞ……」
本人以外は。
生まれた頃からひたすらに言われてきた言葉、「お前はこの国の為、世界の為に尽くさねばならぬ。」
朝起きて、着替えて向かう大広間、豪華な食事ときらびやかな室内を前に何より先に言われる言葉。
僕は分からなかった。なぜ僕がこの舐め腐った世界の為に尽くさねばならないのか。
僕は小さい頃から国王である父上の仕事を近くで見ていた。
それを見てひとつ言えることは、あんなもの僕がやったら草臥れて死んでしまうということだ。
なんだあの膨大な量の仕事は、おかしいだろ!
毎日流れ込んでくる事件やら災害やらの報告書、それにいちいちサインするなんてめんどくさくてたまったもんじゃない。
報告書の中でも、まだ何も対応は行われていないものに関してはまだわかる。そのまま何も行われていないからだ。何をするのか書いてあるのだろ?それは確認するべきだ。もしおかしなことを行うようであったら大変ではないか。
ただ行ったことの報告、お前はだめだ。
なぜだ!もうすでに対応が終わった後なのだろ!?もしその書類にサインがされなければすべて元に戻すのか!?
戻さないだろッ!!
世界中の国王や、それに準ずるものを全員この世から消し去りたいのか!?冗談じゃない!
確かに報告は大事だ。ただ、それは本当に国王ではないとならない仕事なのだろうか。
あげればキリがない。おい貴族お前ら、もちろん貴族にもいい人がいるのはわかっている。だが言わせてもらいたい。
パーティーで国民たちが頑張って作ったご飯を口にするだろう。なぜ吐く!
いや、体調が悪くなって吐いてしまうのはしょうがない。体調が悪いのに無理はしてはいけない。吐くと楽になるからな。
ただな、おなか一杯なのにまだ食べたいからってせっかく胃に入れたものを吐きだす。
いや、きたねぇよッ!!!
食事というのは、長い期間をかけ、様々な人を経て我々に辿り着いた、いわば奇跡のようなものだと僕は思っている。
それを無駄にする行為は断じて許されない。
他にも解決しなければならないものは山積みだ。
この王族に加わっている間にできる限り解決しようと努力してきた。
実際、細かい問題ではあるが解決に向かったものも多い。さすがに先ほどのような大事を解決するのは厳しかったが、積極的に国民のみんなとコミュニケーションを取りながら頑張って来た。
僕には弟がいる。
国王にはその弟になってほしかった。だから弟が国王になるように裏でこそこそと手を回してきた。
それすら「レイフォース殿下は自身の立場など気にせず、親身になって私たちの話を聞いてくださる。弟を幸せにしようと輝かしい未来を捨ててまで……。やはり彼こそが次期国王にふさわしい。」とか言って美談にしている。
冗談じゃない!
ただ僕は怠けたいだけ……、この話はやめておこう。
僕は弟が王位を継承したら王族から脱退して静かに田舎で農業でもやろうと思っていた。
権力にまみれた今の境遇から抜け出したかった。
田舎のいざこざのない静かな土地で過ごしたかった。
そう伝えた時、「それもいい夢だ。応援しているぞ。」と言ったのは父上、お前じゃあないか……。
今僕は、お城のベランダに立って何かをするたびに歓声を上げる国民に向かって手を振っている。
おそらく顔は引きつっているだろう。ただ、この距離からそれは見えないのだろうな。
後方で両親が「立派になって……」とか言いながら涙ぐんでいる。
うん、夢応援して?僕農家になりたいんだけど。
だから今すぐにでも弟に王位を継承してほしい。ていうか父母、お前らまだ30代じゃん、全然働けるよね?
はぁ、どうせ楽したいとかいう考えだろうなぁ……。
国王の仕事が大変だと言うのは痛いほどわかっている。休むなと言いたい訳では無いのだ。
ただ、もう少し頑張って欲しかった。
僕は農家になったときに少しでも楽に暮らすために、精一杯勉強を頑張って来た。
平民として楽に暮らすために、平民が抱えている問題を解決して回っていった。
すべては僕の輝かしい未来の為だったというのに……。
まあでも、こうなってしまったものは仕方ない。現在行っている通り、公に発表してしまえば今更取り消すことなどできない。
大変悔しいが、無念極まりないが、こうなってしまったのだからやれるだけやるしかないのだろうな。
「はぁ、やるしかないかぁ……。」
そう呟いても、その声は歓声によってもみ消され、誰の耳にも届かない。
ただ、笑顔で手を振るレイフォース・アインガルドの様子が人々の記憶に刻まれていった。
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