カルミナント〜魔法世界は銃社会〜

不破焙

序章 ようこそ愛しき共犯者

プロローグ 魔女である

 ――熱い。

 肌を刺すような熱気で少女は目覚める。


 ――熱い、熱い!

 見慣れた日常を炎が焦がす。


 ――熱い! 熱い! 熱い!

 人里離れた森の中、その一軒家は燃えていた。


 家屋の周りには十数人の影。

 激しい炎を怒号で鼓舞する。


「殺せーッ!! この家の住人を殺せーッ!」


(どうしてそんなに叫んでいるの?

 どうしてそんなに怒っているの?

 どうしてそんなに……


 怒鳴り続ける影の中から、

 祭服姿の男が一歩前へと踏み出した。


「聞け! この村の住人たちよ。

 これは神託である。制裁である。

 ここを隠れ家とするあの女こそ――」


(そうだった、私は――)


「魔女であるッ!!」


 魔女狩り――

 隣人が隣人を焼き殺すこの凶行により、

 使も発見され、殺された。


 その時、三人の偉大な魔法使いが立ち上がる。


 彼らは魔法を使えない者との決別を選択。

 手を取り合い『もう一つの世界』を作り上げた。

 彼らに続き全ての魔法使いが移住を決断。

 魔法使いは元の世界と一切の関係を断ち切った。


 そして、地球上からあらゆる神秘が消え去った。

 それから三百年以上の時が流れる。

 三百年……インターネット、宇宙開発、

 そして核兵器など、人類が革新的な進化を

 遂げるのにあまりにも十分な時間。


 当然、魔法世界のみな訳は無く――



 ――魔法世界・とある廃れた商店街――


 魔法世界都市のとある商店街。

 活気は無く、閉ざされたシャッターと

 今日の空模様が辺りを灰色に染める。

 普段ならせいぜい不良数人が一服している程度の

 その場所は、物々しい雰囲気が漂っていた。


 商店街の出入り口を塞ぐ特殊車両。両手には銃と盾。

 顔には防具を装備した真っ黒な集団がひしめく。

 腰に掛けた無線から声がする。


『作戦開始! 突入せよ!』


 黒の集団が動く。狙いは一点。

 とある建物の地下への階段。その奥にあるドアの先。

 先頭集団がドアを蹴破る。


「動くな! 封魔局だ! 

 第一級魔法連合契約違反で、

 このバーにいるもの全員制圧する!」


 ドアの先。地上とは違い多くの人がいるその広いバーで、

 完全武装の男が叫ぶ。


 店内は混乱を極めた。封魔局の名に怯える者。

 杖を取り出し敵意を見せる者。

 すぐさま銃をぶっ放したバーのマスター。


 飛び交う弾丸と罵声。

 雷、炎、攻撃魔術と防御魔術、

 そして銃の閃光で現場は七色に光る。


 荒れた空間。

 戦いながらも冷静に状況を見る大男が一人。

 彼もこの場から逃れたい者の一人であったが、

 だからこそ、チャンスを逃すまいと神経を尖らせていた。


(封魔局かよ。俺の取引がバレたか? 裏口の方は……

 逃げる奴らと裏から突入してきた奴らで大渋滞。

 脱出ルートも……封魔局員がなだれ込んで行ってるな。

 マスターは……チッ、もう死んでやがる。)


 完全武装の封魔局員を前に

 次々と逮捕あるいは死亡する者たち。

 次第に人数比にも差がついてくる。

 そしてついに、大男の周りも囲まれる。


(どうする?

 は約三百発。

 正面突破しかないか。――何ッ!?)


 大男が気づく、顔を露出さてた封魔局員の姿に。

 赤い髪に橙色の瞳の女。

 魔法世界、特に闇社会に生きる者で、

 を知らない者は少ない。


「お初に、≪魔弾≫のアトラス。

 私のことは……ご存じのようで。」


「……勝てんな。やむを得まい。」


 アトラスと呼ばれた大男が懐に手を伸ばす。

 周りの封魔局員が銃を突きつける。


「動くな!」


「お前らの捜し物は……これだろ?」


 取り出されたのは棒状のスイッチ。

 目の前の女が術を使おうと

 モーションに入った刹那――

 アトラスはそのボタンを押してしまう。


 瞬間、何も無い空間に裂け目が現れる。

 裂け目はアトラスの巨体を一瞬で吸い込み消してしまう。

 残された者たちに動揺が走る。

 赤髪の女は未だ残り続けている裂け目に向かって呟いた。


「逃したか! まさか本当に……

 に行ったのか!?」

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