第10話 2 中学生の護衛

 食べ終わって食卓も片した後、ファイも交えて話し合いを再開した。


「ナイト君。イギリスが日本を狙うとしたらやはり魔術の植民地が欲しいからかい?」


「それ以外ないな。抗争を起こそうが起こさまいが、日本という土地が手に入ればいい。魔術結社なんてそれしか考えてないと思うが?」


「そこまで日本って大事なの?戦争してるなら駐屯地とかで物資とかも調達できるから植民地は欲しいだろうけど……」


「戦争しているからこそ、欲しいのよ」


 抗争を起こさないために今話し合いをしているのに、すでに戦争をしているという。一般社会では紛争は起きていても、戦争は起きていない。しかし、こと魔術社会では常に戦争中なのだ。


「少し前の冷戦みたいなもの。戦争はしているけど、勃発はしてないだけ」


「日本は魔術的な意味では未開拓だから、目ぼしいものがあるかもしれない。極東が取れるなら、地理的にも有利になれる。日本はね、なかなか有意義な場所だよ」


「一番の理由は神器があるかもしれないからだ。日本なんて国の中で神話がやたら多いから特にな」


「神器?」


 ファイが神器について説明すると、今度はエデンが何かわからないと質問が出た。これにもファイが説明し、説明されたことによって余計にわからなくなってしまっていた。


「……見たことのない場所に行きたいから、戦ってるの?」


「それもあるけど、どの組織が魔術の始祖かってことで争っている部分もある。誰が最初の魔術師なのか、その直属の血統は誰なのか。……こっちも下らないね」


「自分たちが魔術師として最初の存在だ。他の組織に属するお前たちは偽者だ。魔術師なんかじゃない。そんな口論を今でもしてるぞ?」


「それがわかってどうなるの?」


「さあ?」


 それが下っ端の正直な心の内。理由なんて上の者が勝手に考えて、下の者に命令するだけ。戦争を実際にやるのは全て下っ端。上の者がやることは命令と、戦争事後処理。


「……エレナやファイ先生はどうしてそんな身勝手な組織に所属してるの?」


「ボクは孤児だった。それを拾ってくれたのがローマ教だったから、かな?救ってくれた恩返し」


「孤児?」


 ファイは別段気にしたようにはしていないが、エレナは誰とも目線を合わせようともしない。何となく宗谷たちは事情がわかったが、何も言わなかった。


「魔術師は産まれた時から体に魔術刻印が描かれている。要するに何色かの線で描かれた星だね。それが魔術師である何よりの証拠になる。体に刻まれたものだから、どうやっても消えることはない。……そんなことも知らない一般人の親が子供にそんなものがあったらどう思う?」


「……」


「桜ヶ丘さんが今想像した通りだよ。『気持ち悪い』。そう思って路地裏や教会に捨てる親が後を絶たない。そうやって捨てられた内の一人がボク」


 親が人間だとよくあるケースだ。先祖に魔術師がいて、隔世遺伝で魔術師として産まれることがある。または相手が魔術師とは知らずに子供を産み、子供を見てから知ることもある。魔術刻印を隠す方法はいくらでもある。


「戦争はいけないことだと思う。けど、人助けとして組織があるのは正しいことだ。教会を名乗ってる以上、神の教えを守ればいいのにっていつも思う。……その神がエデンにいるはずって思うからエデンに行きたがる人が多いのかもしれないけどね」


「利潤と目的がごちゃ混ぜになっているのが魔術結社の現状。だからどんな犠牲も厭わない組織になってきているの」


 魔術師はエデンのことになると盲目になる。ファイやエレナ、昌也、宗谷たちの方が少数派なのだ。エデンなど信じず、疑問を覚える。そう思うのが少数派。魔術師としてエデンを夢見るのは当たり前、そういう風にイギリス国魔術結社では入ってきたばかりの子供に教える。洗脳と何も変わらない。


「例え話として、何一つ不自由なく、永遠に暮らせる場所がある。そこには苦痛といえるものは何もなく、いるだけで幸せになれる。もしかしたら不死になれるかもしれない。……そんな場所が本当にあるなんて、信じるか?」


「信じない」


「それを本気で信じてるのが魔術師っていう勝手な奴らだよ」


「……エレナは?どうして?」


 純粋な問い。理由がない以上、組織に所属している利点などない。組織が腐敗していると知って、それでもなお所属し続ける理由は少ない。両手の指があれば収まる。


 エレナは一度だけファイの横顔を見て、意を決したかのように息を吸い込んでから話し出した。


「最初は本当に単純だった。あたしも魔術師で、両親も所属していたから。何も疑うことなく、組織にいることが当たり前だって思った」


「じゃあ、今は?」


「組織にも良い点がある。悪い点は正していかないといけないけど、悪い点ばかり見ていたら駄目だって思ったことがあって……。良い点を増やしていければいいなって思ったから、所属している。あとは、戦争が大嫌いだから」


「戦争を起こさないために、努力してるってこと?」


 エレナは小さくうなずいた。だからこそ彼女は亜希の護衛を引き受けている。親友を危ない目に遭わせたくないというのももちろんある。


「昔、ある人にひどいことを言ってね。それでその人、すごく怒ったわ。涙が止まらなかった。ひどいこと言ったのに、あたし自覚がなかったの。それで……皆幸せってわけじゃないって知って……それからかな?組織で頑張ろうって思ったのは」


「エレナ、その人って今幸せ?」


「……さあ。でもその人も戦争反対だから、戦争が起こらなければ幸せじゃないかな?」


 亜希はその回答に満足したのか、今度は宗谷たちの方に顔を向けてきた。この流れはまずい。


「夏目さんは?どうして今の組織に所属してるの?」


(―やっぱりきた。どうする?誤魔化すか?)


(当たり障りない程度に話すさ)


 美也と軽く相談して、本当に表面の部分だけ言うことにした。全てを話す義務はなく、理解してほしくもなかった。三人とは関わっている組織が違うのだ。


「祖父が俺と同じイギリス国魔術結社に所属してたんだ。だから俺も所属することにした。馬鹿げた妄想の被害に遭う人間を減らすために」


「エデンを、お爺さんも信じていなかったってこと?」


「信じられる要因が少なすぎる。祖父は第二次世界大戦の経験者で、たくさんの人が目の前で死んでいくのを見たらしい。……大抵の大戦争は、魔術絡みだぞ?」


「えっ⁉」


 真実を知らない亜希は驚いていたが、ローマ教の二人はうなずいた。一般人が知る歴史は一般人用のものであり、魔術が関わっている部分を除いた歴史なのだ。


「戦争中なら、魔術による人体実験も軍上層部が人体実験を行っていました、というように言い逃れできる。もちろん領地が増えればエデンを見付けられる可能性が上がるし、魔術師の犠牲を一般人で賄うことができる。……言い方は悪いが、魔術師が自分たちの身を守るため、エデンを見付けるために表立った戦争は便利なんだ」


「……私、魔術師のこと、わからなくなってきた。エレナやファイ先生、夏目さんのような人もいるのに、そんなひどいことをする人たちもいるなんて……」


「それは人間だからだ。お前が言ってるのは、苛めの現場をある人が止めたのを第三者の目から『助けてくれる人もいるのに、どうして苛める人がいるのか?』って疑問に思うのと変わらないぞ?」


 魔術師も人間であり、差は魔術が使えるかどうかだけ。それだけのことで魔術師は人の上に立ち、残虐なこともする。


 人間社会にもある社会階層が、人間と魔術師にもあるという話。それを勝手に魔術師が決めているだけ。


「桜ヶ丘さん、ボクたちが組織に所属している理由は納得したかな?」


「あ、はい。……皆、それぞれ頑張っていたんですね」


「納得してくれたなら何より。さて、本題の桜ヶ丘さんの護衛についてだ」


(―やっとかよ。本題に入るまでの説明が長いんだよ)


(しょうがないだろ?一から話さないと理解できないんだから。話さないといけないことも多いからな)


 ようやく宗谷たちがこの家に来た理由に取り掛かれた。亜希の護衛をするために何をすればいいのか話し合いにきたのだ。


 ファイが片してあった資料をもう一度テーブルの上に並べて、皆の目に触れるようにしてくれた。


「この男、ルーベニック・クロウズが桜ヶ丘さんを狙ってると考えた理由から話そう。本来刑務所にいるはずの人間が日本に入国した。そして、魔術鳩を利用して昨日捕まった彼、井実祐太と連絡を取り合っていたからだ」


「魔術鳩から得た情報ですね」


「そのルーベニックって人が日本にいるってイギリスに連絡して一件落着ってならないんですか?」


「無駄だ。イギリスは問題責任から逃れるために、ルーベニックの仲間と思われる集団が脱獄させて、日本に逃がしたって国の公式発表にするだろうな。いいか?魔術結社のトップが国のトップなんだ。それくらい権力を使って何としてでも誤魔化す。魔術結社としてのイギリスは動くことはない」


 何が真実であっても、イギリスは自分たちの手を介入させない。日本を手に入れるために、ローマを貶めるために犯罪者をわざわざ使ったという可能性を宗谷たちは考えていた。犯罪者が勝手にやったこととして処理するためだ。


「一般社会としても、犯罪者が逃げた国の治安部隊が捕まえないといけないだろうから、イギリスは介入できないね」


「一番問題を起こさない方法が、夏目さんがルーベニックを止めること。でも、平日の護衛はあたしたちローマ教でやります」


「……平日に襲われたら意味がないだろ?」


 いつ襲ってくるのかわからないのだから、平日も護衛をさせられるものだと思い込んでいた。休日だけとは、護衛と呼べるのか疑問だ。


「平日に襲われたらすぐに呼びます、電話で。携帯電話は持っていますよね?」


「……もしかしてお前たちの学校って魔術結界張ってあるのか?」


「そうだよ。教師や生徒の中にたくさん魔術師もいる。学校にいる間は基本的に安全だと思ってもらって構わない」


「だから休日だけか。じゃあ、休日はどうやって護衛すればいい?お前もずっと家にいるわけじゃないだろ?」


 引きこもりではない限り、休日ずっと家の中にいる人間は少ない。家の近くもローマ教の魔術師が護衛をしているだろうが、イギリスで問題を解決してほしいローマにとって、宗谷たちに護衛を変わってほしいのだろう。


「そこは簡単です。休日はデートをすればいいの」


「……あ?」


「誰と誰が?」


「亜希と夏目さんが」


 美也はすぐに理解し、遅れて宗谷も理解したが、亜希だけは理解できていなかった。誰も発言せずに数十秒待った後、亜希は突然立ち上がった。


「ええー!私と、夏目さんで⁉」


「何か問題ある?亜希って今誰かと付き合ってるとかないでしょ?」


「そうだけど!どうしてデートしないといけないの……?」


「休日に男女が並んで歩いてるように見えるのがデートだからかな?これはあくまで一般向けの偽装。どうせ魔術師ならナイト君が魔術師っていうのがわかるから」


「一般向けの偽装?」


 魔術師が相手なのに、どうして一般人に対して偽装をしなければならないのか。その理由をファイが続けて説明した。


「ルーベニックの仲間に魔術師じゃない人間がいるかもしれない。人間が魔術の存在を知ったら手に入れたくなるから。便利な商品が発売されたら欲しくならない?それと同じで、魔術は便利だから欲しがる人が出てくる。特に犯罪者にとってね」


「魔術を警察とかが知らなければ、いくらでも逃げられるから。これからも犯罪を続けるために、逃げられる手段を欲しがるの」


「人間でも、魔術を使えるようになるの?」


「ほぼ無理」


 魔術を使える人間のことを魔術師と呼び、魔術を使えない人間のことを一般人と呼ぶ。その使えない人間がいきなり魔術を使えるようになるかというと、宗谷が答えたようにほぼ無理というのが結論だった。


「人間が魔術を使えるようにするには、人間に魔術刻印を移植するしかない。人体実験の一つの成果だが、成功したのは三万人に一人。その一人は、隔世遺伝で魔術刻印が現れなかった魔術師の子孫だった」


「ローマも似たような結果を出しているよ。そんな結果を知らない人間は甘い蜜を求めて群がる。それが得られないってわからないからね」


「魔術師はどうして人間を利用したりするの?ただの囮?」


 囮という側面は確かにある。自分が逃げる時間稼ぎのために利用する者もいる。それよりももっと大きな理由がある。


「魔術師は魔術師をある程度感知できるけど、人間はわからない。害のない魔術師でも、その人間が魔術師だってわかるけど、凶悪な人間はわからない。爆弾を持っていても、魔術師はわからないから」


「こっそり何かをしたいなら、一般人を利用した方が気付かれないの。一般人相手だと、魔術師としての利点が少ないから」


「あとは近代兵器の対処だな。殺傷能力が高いから、魔術を使っても対処が難しい。魔術師も使うけど、魔術師のことは感知できるから罠じゃない限り不意打ちを受けたりしない」


 魔術師は今まで魔術師と戦うことを主にしてきた。昔の武器や大砲程度なら魔術でどうとでもなったのだが、近代兵器はそうもいかない。ミサイルや爆弾、ライフルなどは弾速や殺傷能力の高さから、対処も大変で、それこそまともに受けたら死んでしまう。


「デートはそういう意味だけど、夏目さんとのデート、嫌?」


「嫌っていうか……今日会ったばっかりだから、よく知らないし……。そんな人と二人っきりでデートなんて……」


「二人っきりじゃないから大丈夫だよ」


「そうそう、あたしとか傍で見張っているから……」


「ん?エレナもデートだよ?桜ヶ丘さんと、ナイト君と、三人で」


 ファイの言葉でエレナは石になっていた。亜希は口を大きく開け、宗谷たちは面倒と言わんばかりにため息をついた。


「デ、デートって本来男女二人で行くことですよね⁉怪しくないですか!」


「そ、そうよ!男一人に女の子二人は怪しいわ‼」


「日本ではそうかもね。でも相手はきっとイギリス人だよ。怪しいことなんてないから大丈夫。男二人に女の子一人だったら怪しいけど、何とかなるって。ボクたち側の護衛をすぐ脇に置いておきたいっていうのもあるけど」


「俺なんか気にしないで、二人で買い物でもしてればいいんだよ。俺は近くにいるだけ」


 ファイが説明し、宗谷が助け舟を出した。護衛のためとはいえ、会ったばかりの男とデートに行くというのは苦行だ。


「うぅ……それならまだ、まし……なのかも」


「えっ、決定事項なの⁉」


「デートを発案したのはあたしだし、夏目さんを呼び出したのもあたしだけど……。まだ……ともデートしたことないのに……」


「こんな男とデートに行くことになってご愁傷様でした。護衛はしっかりするから、そこだけは安心していい」


「はぁ~。夏目さんに襲われたらどうしよう……」


「襲うわけないだろ!」


(―信用されてないことで)


 どこまで本気でどこまで冗談なのかわからないが、エレナは宗谷たちのことを本当に嫌っている節がある。


「さて、デートする場所を決めようか。電車やバスを使わないで行ける場所が望ましいかな?」


「……先生も決めるのに関わるつもりですか?」


「場所を知っていればボクたちも護衛できるからね。邪魔はしないから」


「……いっそ、邪魔してよ……」


 エレナのつぶやきは亜希には聞こえたが、宗谷たちとファイには聞こえなかった。亜希も意味が理解できなかったのか、発言を拾うことはなかった。


「あ、俺はこの街に来たばっかりだから、全然わからないぞ?」


「じゃあ二人が案内してあげればいいじゃないか。それで行きたいお店に寄らせてもらえば?」


「それでいいと思います。人が多いところで魔術を使うことはないでしょうから」


「そうなの?」


「一般人に魔術の存在は秘匿せよ。それが魔術結社全体で決めた取り決めだから」


「そんなの、犯罪者が守るわけないだろ?」


 魔術結社での取り決めは、魔術結社に所属する魔術師のためのものだ。犯罪者となったルーベニックが守る道理はない。


「何かの事故に装うことも出来るからね。でも、魔術が使われたらナイト君もボクたちもわかるからすぐに対処できる。……護衛といいつつ、今回の犯人をあぶり出しにするのがデートの目的だ。すまないけど桜ヶ丘さん、協力してくれるかな?」


「……犯人が捕まれば、傷付く人が減りますよね?そのためなら……協力します」


「ありがとう。……十時にそこの駅に集合でどうかな?」


「俺は構わない。二人は?」


「私も別に……。エレナも大丈夫でしょ?」


「うん。じゃあ、時間と集合場所はそれで」


 明日の予定が決まり、護衛の件の話し合いは終わったように思えたが、あとほんの少しだけ残っていた。


「最後にナイト君、魔具の確認しようか」


「……魔具って何?」


「そういえば説明してなかったかも。魔具っていうのは基本的にあたしたちの魔術を補助してくれる道具のこと。さっき説明した神器の劣化版とでも思って。効果はそれぞれで、魔術の種類と同じくらいあるから確認しようってこと。それこそ辺り一面を焦土に変える、なんて魔具もあるから」


「危なっ⁉」


 魔具は強力なものから些細な効果のものなど、多岐にわたる。それでも、魔術師にしか使えない魔術を宿した道具だから、何も知らない一般人が使っても暴走することはない。


「使い捨てだったり、何回も使えたり、曖昧な部分も多いから確認しないと。ちなみにボクの魔具はこれ」


 そう言ってファイが見せたのは銀色の腕時計。はめている左腕から外して、テーブルの上に置いた。エレナも自分のカバンから魔具を取り出した。出てきたのは三本の銀色のナイフ。


「これが、魔具……?」


「そうとは思えないでしょ?効果は二人とも同じ。魔術の暴走を防いでくれることと、魔術の行使で概念を短縮してくれる。色々考えなくても、魔術を使えるの」


「すごいね!難しい魔術とかってすごく頭を使わないと使えないんでしょ?それがすぐ使えるなんて……」


「限界はあるけどね。あたしのは回数制限があるから。十回も魔具を使ったらこのナイフ壊れるわ」


 二人が見せてくれたので、宗谷たちも見せなくてはならない。ポケットにあることを確認し、それをテーブルの上に置いた。両手に納まるくらいの小さな木。これが宗谷たちの魔具だ。


「木……ですか」


「夏目さん、この木にはどんな効力があるの?やっぱりエレナたちみたいに魔術の補助?」


「それは言えない。この木の力は誰にも言わないって決めてるんだ」


「……ふむ。それでボクたちに被害はないのかな?」


「あんたたちが敵対することがなければ」


 宗谷に言える限界だった。イギリス国魔術結社の中には気付いている魔術師もいるだろうが、自分たちの口を割ることはしなかった。


 魔術師の魔術刻印を消すことができる、それはつまり、魔術師を人間に変えてしまうということ。魔術という存在を消すことができる力なのだ。


「被害がないなら、いいか。全部答えてくれるとは思ってないから」


「先生、そんなのでいいんですか?」


「いいよ。ボクたちだって全てを彼に教えているわけじゃない。全部打ち明けられたら返って信用ならないよ」


 相手のことを完全に信用し、自分の身の回りのことを全て話してしまう。信用を得ようと思ってそうするのは逆効果だ。誰にでもそうしてしまうということは、秘密が守れない人物として組織から見放される。知らされる情報は偽情報が多くなる。


「じゃあ、武器を教えてくれるかな?近距離なのか遠距離なのか、それくらいは教えてくれるだろう?」


「近距離。……開け」


 証拠を見せるように、宗谷は木に手を乗せ呟いた。小さかった木が大きくなり、それを持って刀を抜いた。刃こぼれ一つない整った刀身がリビングにある照明を反射して怪しく光る。全員が見たことを確認して、刀をしまった。


「これが俺の武器だ」


「……魔具であり、武器か。なるほど、よくわかったよ。エレナと同じだね」


「あたしもこのナイフで戦います。主に近距離で」


「ボクもナイフで戦う。けど投げる方が多いから中距離かな?それは魔具じゃないけど」


 ファイは見せてくれなかったが、エレナが今見せているものと大差はないだろう。組織の中ではある程度武器の統一が図られ、魔具と一般の武器を誤認させるために違いのあまりない武器を使うことが多い。


「ある程度確認も終わったし、お開きかな?桜ヶ丘さんは今日泊まっていきなさい」


「え……?ここからなら家に帰れますよ?」


「朝帰りなさい。昌也様がそうしてくれると助かるって言っていたから」


「おじいちゃんが……。わかりました。そうします」


 お開きということで、宗谷たちは荷物をまとめた。カバンを持って武器を持つだけだったが。


「閉じろ」


 大きな状態のまま持ち歩くわけにもいかないので、小さくしてポケットにしまった。小さなところに収納できる武器は隠し持てる点で便利だ。この刀の場合、合言葉を言わなければならないラグがあるが、その程度宗谷たちは慣れてしまった。


「ナイト君、道わかるかい?」


「駅の方は明るいですからね」

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