バイオレント・クリスマス

junhon

第1話 ミニスカサンタ・ノエルの戦い

「ここか……」


 彼女かのじよは高層ビルを見上げながら一人つぶやく。視線の先にあるのは地上六十階の巨大きよだいIT企業きぎようCoCooleククール』の本社ビルだ。

 

 時は十二月二十四日の午後、所は冬のビル風がくカリフォルニア州サンフランシスコ。彼女が身に着けているのは赤い布地のふちに白いファーが付いた衣装、いわゆるサンタクロース――それもミニスカサンタと呼ばれるものだった。頭には先端せんたんにボンボンが付いた三角の帽子ぼうし、長いあしには黒のストッキングをはいている。そしてかたには大きなふくろを担いでいた。

 

 彼女の名前はノエル。としころは十代後半、うす蜂蜜はちみつ色のあざやかな金髪きんぱつゆるく二つに結んだ、青いひとみの美少女だ。

 

作戦開始ミツシヨンスタート


 そう呟き、ノエルはゆっくりとした足取りでビルに近づいてエントランスへと足を踏み入れた。

 

 受付カウンターを無視しておくに進もうとすると、警備員ガードマンに呼び止められる。

 

「おいキミ! まずは受付でアポイントメントを――」


 パン!

 

 その台詞を最後まで言い終えることなく、警備員はノエルが胸元から取り出した拳銃けんじゆう弾丸だんがんたおれた。

 

 訪問客でにぎわうエントランスが静まりかえる。

 

 一瞬いつしゆん静寂せいじやくの後、悲鳴が沸き起こった。混乱する人々を余所にノエルはエレベーターに乗り込む。

 

 目指すは最上階、CEO室だ。

 

 しかし、エレベーターは四十四階で止まってしまった。警備室から強制停止させられたのだろう。

 

 ノエルはエレベーターのかべに背中をり付け、銃を構える。ゆっくりと開いていくドアの隙間すきま銃弾じゆうだんの雨が降り注いだ。

 

「ホールドアップ!」


 そっと様子をうかがえば、二人組の警備員がこちらに銃を向けていた。

 

 ノエルは背中の袋に手を入れると、黒くて短いつつを取り出してピンをく。それを警備員達に向かってゆかすべらせた。

 

 背中を向け、耳をふさいだノエルの後ろで閃光せんこう爆音ばくおんがとどろく。あとに残るのは視力と聴力ちようりよくを失ってふらつく警備員だった。

 

 ノエルは身をかがめてエレベーターを飛び出し、銃で二人を無力化する。

 

 ただし、二人の身体に外傷はない。先程使用したのは非致死ちし性兵器であるスタングレネードで、銃から放たれたのもゴム弾だった。

 

「さて、ここからは骨が折れそうね」


 そう呟き、ノエルは背中の袋の中身を装備する。アサルトライフル二丁に拳銃サブアーム、スタングレネードや予備弾倉マガジンを連ねた帯に暗視装置ナイトビジヨン。一人で戦争でも始めるのかというランボー状態だ。

 

 最上階を目指し、ノエルは廊下ろうかを走り、階段をけ上がる。

 

 その後も行く手に現れる警備員達を撃退げきたいしつつ、ついにCEO室の前に辿たどり着いた。

 

 実弾を撃ち込んで電子ロックを無効化し、そっとドアを開けると案の定銃弾が飛んでくる。

 

「何者だ? 何がねらいだ?」

 

 銃を構えながら問いかけるのはCoCooleの最高経営責任者CEO、ステファン・ジョンソンだった。

 

「私の狙いはあなた自身」


 ドアのかげに身をひそめながらノエルは答える。

 

「わ、私を殺す気か!? クソ、クソ、クソ!」


 ステファンは無闇矢鱈むやみやたらと銃を放った。しかし、すぐに弾がきる。

 

 銃撃が途切とぎれたのを見計らい、ノエルはドアの陰から飛び出した。素早く距離きよりめ、手にしたスタンガンをステファンの身体にし当てる。

 

「がっ!」


 身体をふるわせ、ステファンはその場に崩れ落ちた。

 

「ふぅ……」


 深く息をいたノエルは、内ポケットからスマホを取り出し耳に当てる。

 

「ルドルフ。私。プレゼント・・・・・は確保したわ。むかえに来て頂戴ちようだい


 そう告げると、CEO室の大窓の向こうに一機のヘリが現れるのだった。

 

        ◆

 

「パパ! パパ!」


 身体をすられ、ステファンは目を覚ます。

 

「……うっ、ここは?」


「パパ!」


 目を開ければ、幼い一人娘ひとりむすめのクリスがステファンの顔をのぞんでいた。

 

「クリス? ここは……私の家か?」


 仕事にかまけ、ほとんど帰ったことのない家だったが見覚えはあった。玄関げんかんを入ったところだ。

 

「一体なにが……」


 そう呟きながら身体を起こそうとするが、身動きがとれない。それもそのはず、ステファンは頭だけを出した状態で大きな袋に入れられていた。袋にはリボンが巻かれ、「Merry Xmas」と書かれたカードもえられている。

 

「サンタさんがパパをつれてきてくれたんだよ。わたしのおねがいをかなえてくれたの」


        ◆


『サンタさんへ。わたしはプレゼントはいりません。そのかわり、パパといっしょにクリスマスをすごしたいの。ひとりのクリスマスはいや。パパといっしょがいいの』


 赤っ鼻のルドルフが操縦するヘリの中、ノエルはサンタあてに送られてきた手紙を読み返した。


作戦完了ミツシヨンコンプリート、メリークリスマス」


 眼下にきらめく宝石のような街の明かりを見下ろし、ノエルは微笑ほほえみをかべるのだった。

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