白紙

ある日、街の一角に白い紙が飾られた


文字を語ることもなく


描画を魅せることもなく


ただただ白くある紙に、街人たちは不思議を憶え、問いかけた


「私に言えることはない、私は白紙なのだから」


向かいのカフェで店主は言った。意味は無くとも価値はある


童を連れる婦人は言った。価値は無くとも意味はある


ステッキを振り上げ紳士は言った。意味も価値もあるはずだ


喧々囂々、熱を上げ


人の隙間で童は言った。新築の壁より紙はまっちろだ


街は一種のお祭り騒ぎ


あまりの表の賑わいに


裏の路地から、汚れを着飾りネズミは言った。なんだ腹の足にもなりはない


意味などあろうはずもなく価値などあろうはずもない


私に言えるひとつのこと


――私はただの白い紙

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る