17話 案外本当にチートだったチート能力
「このブローチのなにが美しいって、継ぎ目がまったくないのよ。銀と、木材という二つの素材を使っているはずなのに、その二つはまるで融け合うように一体化しているの。それに、組み立てる時には絶対にできる、パーツとパーツの接合部も見当たらないわ。書かれた文字が不細工なのが唯一の欠点ね。いったいどうやって作ったのかしら……これほど完全なブローチが生み出される過程に興味があるわ」
王族が『興味があるわ』とおっしゃったなら、平民は伏して手管をつまびらかにせねばならない。
だが困る。
なにせ俺のブローチ作成は異能を使用したものだ。
アイテムストレージから『合成』を選べばすぐにできあがるのだ。
しかしさすが王族。
いいものを普段からよく見ているのだろう。
異なる素材の一体感だとか、パーツ同士の継ぎ目のなさだとか、そんなの作った俺さえ気付かなかった。
やはり不自然な力により作成されたものは、不自然な特徴を持つらしい。
なるほどなあ。ありがとう。参考になりました。
……で終われたらいいんだけれど、スルーズ王女殿下がきらきらした目でこちらを見上げている。
さっきまで『勇者っぽくない村男』という目で見られていた俺としては、急激な株価上昇に嬉しく思うし、いたいけな子供の夢を叶えてあげたいとも思うのだけれど、いかんせん、俺の細工過程は見せられないものなのだった。
「すみません王女殿下、今は道具も設備もございませんので……」
「用意させるわ」
「手慣れた道具でないと、いけないのです。それは故郷に残してありまして」
「サンドフォード」
と、呼び掛けたのは例の細面の文官だった。
文官は文官で唐突に呼び掛けられておどろいている。
たぶん、王女殿下が自分の名前を知っているとは思わなかったのだろう。
「ひゃい」と裏返ってかすれた返事をするまでには、たっぷり三秒は沈黙があった。
「お父様が彼に拝謁を許すのはいつごろかしら」
「そうですね、今しばらく……」
「正しい日数は?」
「いえ、その、ええと……最低でも、そうですね、あと三……いや、二日ほどは、かかる、かと」
「『かと』?」
「さ、最低でも二日です!」
「二日もあれば、彼の村に戻って、それから王都に戻ってくることは可能よね?」
話がまずい方向に転がり始めている。
俺は文官に目配せした。
『どうにか理由をつけて、俺が王宮からは出られないということにしてほしい』。
いまだ彼とは心で通じ合っていると信じていたのだ。
文官サンドフォード氏はうなずき、王女殿下に向けて述べた。
「はい。往復は可能です」
サンドフォードくんは俺に礼でも述べるような目を向けた。
行き違いがあったようだ。もう俺たちのあいだに信頼はなかった。
「じゃあ、決まりね」
そういうことになってしまった。
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