第22話 あちらを立てればこちらが立たず


「どうするかな、この問題」


丸岩のゴブリンの拠点にある寝床の中、薄暗くも開けた場所があり、そこでぶつぶつ言いながら、グルグル歩き回るゴブリンがいた。


もちろん俺だ。俺は今まであまり考えてこなかった問題について頭を悩ませていた。




まずは、ここに拠点を取ったときに話をさかのぼろう。


俺はここを支配していたゴブリンチーフを倒してすぐに、この丸岩の寝床に拠点を移した。


外から見たときは何とも思わなかったが、丸岩の中に入ってみると案外快適でびっくりした。おそらく元々はもっと巨大な何かの巣だったんじゃないかな? 奥にとんでもなくでかい骨とかがあったしな。


俺はこちらに拠点を移して初めてぐっすりと眠れたと思う。木の根の穴倉なんて言う場所で寝ていたものだから、転生してからずっと気を抜いて眠ることはできない日々だったからな。


ここだと周囲は自分たちの囮になるであろうゴブリンがおり、何かがあればすぐに騒ぐであろうから不意を突かれることはほとんどない。


セキュリティーサービスのゴブリン警備会社に入ったのだ。だから安心できた。


初日は。そう初日はだ。


来て次の日から狩りや食事も行うようになった。別の拠点を取りに行くという選択肢もあったのだが、ひとまずどんな生活になるのかをやってみないとわからないと思ったからな。


それで狩りには毎回100人から200人ほど連れて行く。狩りの方法は俺が囮になったり足止めしたりという方法で、今までと違うから効率的に獲物を狩れて、ほとんど死傷者はなく狩りは成功する。


そして成功するがゆえに毎回毎回食料は十分で、集落にいるゴブリン達は十分に食べていけている。

これが人間相手であれば、善政を敷いているとして名君になるだろう。そうこれが人間であればだ。


こいつらは人間じゃない、野生のゴブリンだ。

あるところではよい結果をもたらすだろう行為も、あるところでは悪い結果となってしまう。そんなありきたりなルールを身をもって理解した。



俺がここで新しく始めた行為にはいろんな問題がつきまとった。まずいつもよりも大人数で狩るために、俺はほとんどレベルアップができない。そして進化もしない。


一方で、配下になったゴブリン達はたまにレベルアップして、そして進化する。もともとがゴブリンだから進化しやすい。


で、進化が行われると起きる問題が、下克上問題だ。大概がウォーリアに進化して体とともに気が大きくなった彼らは、まず体格の小さい俺をなめた態度をとるようになる。


もともとが下克上気質だからだろう、俺が前のゴブリンチーフを倒したことなんてすぐに忘れてしまう。

だからゴブリン達が進化するそのたびにぶっ飛ばさないといけない。面倒くさすぎる。


そして飯を安定供給すれば、みんなよく産むようになる。普段からスキル《繁殖》をもっているからよく産んでいたのだが、食料が十分になるとより産んでいった。


以前と比べてゴブリン達の数は減らず増えるばかりとなり、2週間ばかしでゴブリンの数は1.5倍の600人にまで膨れ上がった。その時になって気づいたのだ。これまずいなって。


「ここの拠点、たぶん2~3000人くらいが限界だ。」


急速拡大による食料の消費量増加、狩猟量増大によって減っていく周辺の魔物によって算出されるゴブリンが産める限界ラインは多分それくらいじゃなかろうか。


じゃあ最初の予定通りほかの拠点を取りに行けばいいじゃないかと思うだろう。


それでも解決できなかったのだ。

俺は問題解決のためにほかの拠点を取ったのだが、しばらくすると俺がトップだってことを忘れている。


これ、何が問題ってこいつらの下克上気質が何よりも問題。

拠点を取ると、別の拠点を取ったときにどちらかの拠点に俺の代理を任命しないといけない。


だがゴブリン達の場合、代理任命≒代替わりになっていた。拠点を任せるのが、拠点をあげると解釈されているといってもいい。


制圧してしばらくは大丈夫なのだが、それでもすぐに忘れてしまうだろう。


毎回毎回、殴りに行くのが面倒くさすぎるし、配下認定されるのか疑問だ。

前回、かっこつけて『まずは一つ』とか言ってたのに、二つ以上取ったらぐだりはじめた…。


文字通りのあちらを立てればこちらが立たず。

つまりいっこうに配下の人数は増えない可能性が高い。


これを解決するには、一か所で1万人を支えられる拠点と環境を探すことだが。


「どうせそんな場所にはすでにゴブリンキングがいるんだよなぁ…」


どうしよ、これ。


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