第20話 会話はキャッチボールするもの



この丸岩のゴブリン達のトップが帰ってきたことで、俺を囲んでいたゴブリン達が次から次へとチーフゴブリンの元へと駆けていく。


そして何かを喚きながらそれぞれが訴えると、チーフゴブリンが大きな咆哮を上げた。

チーフゴブリンやワーグ、ゴブリンウォーリアーたちがこちらを睨みつけていた。


相手のペースに合わせる必要もない。俺から話しかけに行くか。

配下ゴブリン達を連れて近づく。


「おまえが」


「おうおうおう! でんめぇ! ちいぐぜぇにぬぁにでくぇつらしちょぅ!」

(おうおうおう! てめぇか、小さいくせに何でかい面してんだ!)


「…」


おい、第一声取られたぞ。どうすんだこれ。

確かに俺はゴブリンメイジだからお前よりかは小さいだろうけど。


「べつにで」


「ゲギャギャ! でんめ、びびりちょうか!? ぐちどした?」

『はは! ビビッて何も言えねぇでやんの!』

「…」


話聞いてくれない? ねぇ。 ひょっとして会話のドッヂボールしかしてこなかった?

会話はキャッチボールするもんだよ。


「いやだか」


「でんめのげ、よわぞかあ!」

『こんなんじゃ、配下もよええわ!』


よし、殴ろう。

俺はその場から全力でかけて、相手の懐に入り込む。


チーフゴブリンは驚いたのか対応できていない。そこを正面から胴体を殴り飛ばした。

が、大して吹っ飛ばない。 俺よりもさらに大きな体を持つチーフゴブリンだ。さすがに重いか。


『こんの卑怯もんが!』

「…」


追撃を入れようとしたが、卑怯という言葉に反応して俺は攻撃をやめた。これで勝利しても他のゴブリン達は配下にならないかもしれない。


というか思わず殴ってしまったな。最初は堂々と戦おうと思ってたのだが…。

ゴブリンにペース握られるとか悲しいわ。


ゴブリンチーフはそれ以上の攻撃がないとみると、息を整えたのちに宣言した。


『決闘だ!』

「いいぞ」


即答する。向こうから正々堂々の条件を出してきたなら、答えるのみだ。

俺が決闘を受けると、俺とゴブリンチーフを囲むようにゴブリン達が広がり始め、そしてグキャグキャとヤジを飛ばし始めた。


「ゴブリンって決闘文化があるんだな」

「代替わりの時にままあります」


俺とゴブリンチーフは互いに睨みつけて、ゴブリンチーフはこん棒を、俺は格闘家のように構える。

ほどちゃん、今更だけどどっちが勝ちそう?


「マスターの勝率は99.9%です」

「素敵な数字だ。俺が大好きな数字にしよう。ほどちゃん、数字占いの結果を教えてくれ」

「凶です」

「えー…」


実は今日までちょっと不安だったが、正面から見ればわかった。あ、これは勝てるなって。

多分近づいて首貫けば、すぐに終わるだろうことは予想できた。


となると、予定通りに今後を見据えて試すことにするか。あれを。


俺とほどちゃんのつぶやきのような会話をどう受け取ったのかはわからないが、ゴブリンチーフはうなり声をあげてこん棒を振り回しながら、横振りをかましてきた。


その横振りをガードしながら受け、衝撃を吸収するかのように横に飛ぶ。ちょっと押されたかのような衝撃が腕に来る。


質量をもった巨大なこん棒を受けた俺の体は相応に吹っ飛んだ。

とんだ先にいたゴブリン達をちらりと見て、邪魔なので回転蹴りで飛ばしてどかして着地する。


周囲にいたゴブリン達が喚いて離れる。

痛みはなし。これくらいならいけるか。


俺が軽いことを弱さと見たのか、ゴブリンチーフはさらなる追撃をかます。

その攻撃を先ほどよりも強く受けながら、再び横に飛び、痛みを確認する。


少しずつ相手の攻撃の受け流し度合いを下げて、そのダメージを確認する作業を繰り返す。

縦振りはまだ危険だから、必ず避けていく。


作業中、ゴブリンチーフは他のゴブリンが巻き込まれるのをお構いなしに振り続けた。巻き込まれる方が悪いといわんばかりだ。

まぁ俺も蹴っ飛ばしたし、悪くは言うまいよ。


ある程度続けると、縦振りを受けても大丈夫だと判断して、手を正面で交差させてこん棒を受けた。

体に衝撃が走り、地面が若干沈む。


クリティカルが入ったと思ったのか、ゴブリン達が大きな声を上げた。

だが俺はすっと後ろに下がって、ダメージを確認した。



骨に響くくらいの若干の痛み。

やはり、ちょっとはダメージがあるか。


いくらスキル《頑強》があるからと言っても、無敵になるわけじゃない。ゴブリンの持つ柔肌を3倍にしたところで、まったくダメージを受けない体にはならない。


この事実が、今後の方針を迷わせる。



この世界のモンスターは大きい。グリフォンはでかかったし、ダンガールボアもでかかった。名前糞長ミミズなんて2kmもある。

質量は武器だ。質量が右から左へ流れるだけで、俺の体は吹っ飛ぶ。


これから先も、あれくらいのでかさのやつはいくらでも出てくるだろう。

その攻撃を一生まともに受けないということは絶対にできない。この森で強化しているとき、人間世界に旅をしているとき、どこかで必ず食らうだろう。


そして死ぬ。そんな未来が見える。


これの解決方法の一つは、俺も質量を増やすことだ。質量には質量で立ち向かう。正解の一つだ。

だが、それは俺の体がでかくなることを意味する。

ゴブリンキングの平均的な大きさは2.5~3mほどだそうだ。その上のハイゴブリンは平均3.5mだそうだ。


俺は最終的には人の世界で暮らすことを目標にしている。それを夢見ているんだ。

ゴブリンとしてではなく、モンスターとしてではなく、獣としてではなく、人間として。


これから先順調に進化していけば、体はどんどん大きくなるだろう。

そしてあいつらに質量で対抗できるほどの大きな体になれば、人間の世界では生きていけないのではないか。


スキル《変化》にも限界がある。

神級スキルの《変化》なら体の大きさも無視できるが、人が開発できる限界のスキル《変化》は体の大きさを無視できない。これはほどちゃんに聞いた答えだ。


人間に変化ができるといったほどちゃんは嘘はついていなかった。ちょっと融通が利かないだけだ。

人間に変化ができるころには、人外ほどの大きさになっていて、変化した先の人間も人間というよりかは巨人になっているなんて俺は予想はしていなかった。


だから俺は、もう一つの、スキル開発で何とかすることにした。何とかできるかもしれないという願望も込めて。


スキル《下級魔法の素養》を起動した。


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