Ninth reed

「分かった。もし伊藤の姉がいなかったら、急いで戻ってこい」

 分かった。「さぁ行ってこい、名簿番号九番」そんな囚人番号みたいな。

「なんだよ、弱々しいなあ」現は呆れた顔で言った。

 震える手を押さえ、チャイムを押す。

 現が少し遠くで見守っていた。ドアが開く。出たのは伊藤だった。

 伊藤は少しきょろきょろする。そのうちに、家の中に入る。後ろで伊藤が舌打ちをし、「故障かなぁ」と呟いた。バレてはいないようだ。一応、静かに家の中を物色する。

 一般的な家だった。玄関を抜けると、リビングに繋がる廊下と、2階に続く階段があった。

 その階段を登り、伊藤の姉の部屋を目指す。

 幸いなことに、ドアには“学目”や“菟木つき”と書いてある看板のようなものがあり、消去法で菟木のドアの方を選んだ。

 なるほど、伊藤の姉は伊藤 菟木というのか。ドアノブに手をかけ、あれ?俺、見える人から見たら不審者じゃね?と気づいた頃にはもう遅かった。


 後ろで菟木が悲鳴をあげる。学目は急いで駆け上ってくるが、彼には俺が見えていない。「どうした姉さん!」

「いや、そこに男の子がいるじゃない!」「い、いないよ?」

そこで菟木はハッとした顔をしだ。

「ごめん、気のせいだった」「なんだよー」

学目は姉の前ではあのキャラを真似しないらしい。

学目が去ると、菟木は

「で、君はインビジブル?」と言った。

いや、どちらかというとゴーストな。

「そっか。君もこの現象の被害者なのか」ああ。“も”ってことは他にもいるんだな。

「私の知り合いがね」

 菟木は少し微笑みを湛えている。

「君は、もう三水さんにはあった?」いいや。「なら会ってきなよ。いいヒントをもらえると思うよ」

 俺はお前なら何か知ってると思ったから来たんだが?

「うーん。強いて言えばこの現象が起こるのは、ミミズ事件の被害者だってことだけかな」

 本当にそれだけか?

「あとは、その親友が現象に耐性があるってことくらいかな」

 隠しているじゃあないか。

「さあ、全部話したから帰った帰った」

 俺は踵を返しつつ、お礼を言った。菟玖木が帰り際に

「透明人間だかなんだか知らないけど、不法侵入は違法だよー」

と言ってきたから、俺はお化けな、と言い返してやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る