九流
〔蒼〕
「乾いた血が銃口を潤すまで」
ガラスの向こうで,九流が歌を歌っている。ファーストアルバム作りだからか,いつもより声に張りがあり,透き通っている。
要所では声色を変え,感情がありありと伝わってくる。
「誰かが笑ってもそれは嘲笑じゃない」
九流が売れ始めたのは最近だ。元々は動画配信サイトで細々と曲のカバー動画を投稿していたのを僕が見つけ,スカウトした。
僕も首が掛かっていたため,なりふり構わずマネジメントしたのが功を奏したのか,今では徐々に世間で人気が出ている。
「今 自信を奮い起せ」
九流の声が響き,演奏が止まる。とても美しかった。
車のドアを開ける九流は乗り込み,僕も後に続いた。
「どうだった?今日は,ちょっと自信なかったんだよ」
「いや,良かったよ。美しい美声だった」
九流は微笑む。
「“美しい美声”って意味がかぶってるけど」
「あえてだよ。美しいことを強調したかったんだ」
少し間が空いて,僕は唐突にある事を思い出した。隣では九流が船を漕いでいる。
この街では“ミミズ事件”という事件が度々話題に上がる。枯野三水という画家の絵に描かれた人と,よく似た現実の人間が,絵の発表から60日後に殺されるという事件だ。
犯人はまだ捕まっていない。
ただ,僕には心当たりがあった。昔,母親を殺そうとした頃,ある殺し屋に依頼した。しかし,数ヶ月経って,ようやく仕事が行われた。
最近調べると,ちょうど依頼したのと同じ時期に母親の自画像のような絵が描かれていたことが分かった。
つまり,依頼をしたあいつがこの“ミミズ事件”の犯人だろう。
九流には,歌に集中してほしいから黙っている。
携帯が振動する。葵から連絡が来ていた。
「今度青藺ちゃんのとこ行かない?」
「どうしたの?」「いやぁ,久しぶりに3人で集まろうと思って」
僕,葵,青藺の3人で集まるのは葵の高校卒業以来,正確に言えば大学の入学以来だ。
「いいけど,いつ?」
「じゃあ,8月30日で。空いてる?」
僕は肯定した。葵が謎のキャラクターのスタンプを送った。
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