4話目

「どうしてみすみす帰ってきた!」


村人は帰ってきたサシェに対して憤りました。

生贄として差し出した人の子が行きと変わらない姿で帰ってきたのです。

キミが悪いとでもいうように皆が眉を顰めてサシェをみていました。


「私との婚姻は嫌だそうです」


サシェは冷静に答えました。

神様はサシェを拒否する事はありませんでしたが、受け入れもしてくれませんでした。

つまりはそういう事なのだと、サシェだけが知っていました。


「ここまで育てやってまだ言うか!」


村人達は今度は神様に向かって怒ります。

神様は平等に与える事はあっても、特別を作る事はなく、神様に永らく仕えている村人達はその対応に怒っていました。


「親無しのお前を育てたのは神の為だというのに」


神様が聞いていれば困ったように笑っている事でしょう。

頼んでもいない人間のエゴに付き合われるのですから。


「神が要らぬと言うのです」


サシェが、諭すように村人に再度告げました。

これ以上優しい神様を傷つける言葉を聞きたくありませんでした。



「……他に何か言ってなかったか?」


別の村人がサシェに問いかけました。

むずしそうな顔をして腕を組んでサシェを睨んでいます。


「川が氾濫するかもしれないと憂いておいででした」


サシェはまた、素直に答えました。

風になった神様が最後にサシェに伝えた言葉をそのまま口にだしたのです。


「川が氾濫するだと!?」


男は驚いたように目を見開きサシェにずいと、近寄りました。

彼は村の警備をまさかれている者で、恐ろし事を口にしたサシェに詰め寄りました。


「嘘つきめ!ここ数年は天候にも恵まれている。」


別の男がサシェを指差して笑います。


「もしや逃げ出して帰ってきたのでは?」


ひとりの女がずっと疑問に思っていた言葉を発しました。

山頂に行ったにしては早いサシェの帰りに、もしやと考えたのです。

足元は汚れていましたが、それ以外は衣に乱れもないサシェは明らかに異端に写っていました。


「それなら、今度は帰って来ないように丁寧に送ってやろう!」

1人の村人が声を上げると、皆がその声に同意しました。

サシェを囲んで彼女をあっという間もなく捕まえてしまいました。


「神が要らぬと言ったと言うのもどうせ方便だ」


村人が下品な笑いを上げてサシェを笑い物にします。


「本当に言われたのです」


サシェは何一つ嘘は言っていないのに、誰も信じてくれない状況に絶望していました。



「まだいうか、この……穀潰しが!」


ひとりの男に担がれ、サシェは連れて行かれます。

サシェはひとり静かに己の死期を悟りました。

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