レフォルサドール
石木半夏
Episodio 01
001
少年は生まれて初めて、神に尋ねた。
神さま、あんたは本当にいるのか?
いるなら、俺たちを見ているのか?
見ているなら、どうして何もしてくれないんだ?
なあ、答えてくれよ、神さま。
寂れた廃屋の小部屋の中央に、バッテリー式のランタンが吊り下げられている。部屋の壁には複数の弾痕が穿たれ、ろくに拭かれていない床の染みと同じように、この場所が何に使われているのかを雄弁に物語っている。死臭がする。
ランタンに照らされ、まだ若い少年と、それより更に幼い少女が、お互いを見て泣いている。
二人は向かい合って置かれた木の椅子に、ぎっちりと縛り付けられていた。距離はほんの数歩分。手を伸ばせば届きそうな距離だというのに、二人の手足は椅子に乱暴に縛り付けられ、固定されていた。
安い造りの椅子だ。まだ幼い少女の力でも、本気で暴れれば、もしかしたら壊せたかもしれない。だが、二人にそれはできなかった。そもそもこの椅子も縄も、本気で二人を逃さないために用意されたものではないからだ。
この拘束は、逃げようとしたらすぐにわかるようにするためのものだ。
二人が万が一逃げようとしたときに、すぐに殺せるようにするためのものだ。
声も上げずに泣いている二人を、目出し帽を被った三人の男たちがじっと監視している。その手には当然のように拳銃が握られている。
どちらかが縄を無理にほどこうとすれば、その瞬間に二人とも穴だらけにされて死ぬ。身じろぎ一つ許されない状況が、少年には恐ろしく仕方なかった。
二人が座らせられている椅子には、奇妙な装置が付けられていた。肘掛けの先から伸びるように細長い角材が釘打たれ、その先に拳銃がしっかりと据え付けられている。
隣国からの密輸品か、軍か警察か、どこからか流れ出た違法な銃。角材に結び付けられた少年の右腕は、拳銃をちょうど握れるよう、手首から先だけが自由にされている。触れたくもないのに、体が震えて手のひらが何度か当たる。そのたびに冷たい鉄の感覚が、染み出るように体に乗り移り、少年は怖気に身を震わせる。
固定された銃口は、しっかりと少女の頭を狙っている。
少女の手元にも同じような細工がされていて、少年の頭に向かって正確に照準を合わせていた。
二人は互いに銃を向けあって座らされており、自由なのは手首だけ。
つまり、引き金を引くかどうかだけ。
それだけが、二人に残された自由だった。
三人の男たちのうち、二人が最新の携帯を持っている。
一人はカメラを二人に向けている。これから起こることを、しっかりと記録におさめるために。
一人はタイマーを起動している。これから始まるゲームの、残り時間を計測するために。
カメラを起動した携帯から、ポンと音が鳴った。
二人の間に座る、何も持っていない男が言った。
「お前らの名前は?」
「……リョウ・トウガ」少年がぶっきらぼうに言った。
「サラ・トウガ……」少女が震えながら言った。
「お前らは何をした?」
少年が、声を荒らげた。
「サラは何もしてない」
男が舌打ちをした。
「で、お前は何をした?」
「……」
少年が黙っていると、タイマーを持った男が、拳銃で少女の頭を小突く。少女の顔が恐怖でさらに歪む。
少年は叫んだ。
「クソ親父を殺した! サラを……サラにひどいことをした、クズを殺した! それがどうした! 殺されて当然だ、あんな野郎!」
男は、静かに尋ねた。
「そのクソ親父は、何者だった?」
少年はカメラをきっと睨んだ。少年の目は涙に赤く腫れていたが、臆する様子はなかった。彼が泣いていたのは、自分にこれから起こるであろうことの故ではなかった。それよりも、これから自分が目の前にいる少女に――妹に、させなければならないことの故だった。
少年は吠え立てた。
「教えてやるよ! お前らと同じ、ボクセアドーレスだ! 俺がクソみたいなことをしでかしたクソ野郎を殺しただけで、何も悪くないサラまでこんな茶番に巻き込む、世紀のクソ野郎共の仲間だ!」
「元気が良いやつだ」カメラを向けた男が苦笑した。
「若いんだな」タイマーを見ていた男が応じた。
中央の男が、カメラの前に出る。カメラを見て、淡々と宣言する。
「こいつらは、俺たちロス・ボクセアドーレスの兄弟を殺した。よって俺たちは、その
男はカメラの背後に戻る。
男の言葉が、残酷に響いた。
「六十秒だ。六十秒経ってもお前らのどちらも相手を撃たなかったら、俺が両方殺す。撃った方には、経過秒数かける一万の金をやる。それじゃあ、スタート」
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