第2話 扉の奥の秘密
改「ここは・・・・・・」
入った改は目の前にある部屋に衝撃を受けた。ロッカーの先には教室2室分の広さの会場。中には4人の男女生徒と先生が1人・・・・・・今から動画を取るつもりなのか目の前にはインターネットでライブするのに必要なパソコンがあった。後は沢山のゲーム機にゲームソフトもカラーボックスいっぱいにあった。まるでスタジオみたいではないかと思うほどだ。
豪「お前、なんでこんなところに!」
豪が慌てて改を追い出そうとすると黒髪ロングヘアの女性が口を開いた。
?「待ちなさい、「豪樹」くん。」
豪「は?」
改「(この人って・・・・・・始業式のあいさつをした生徒会長「宇佐美 真里佳(うさみ まりか)さん。」」
豪「だが「マリット」。コイツ部外者だぜ。」
改「(マリット・・・・・・って十二ゲーム放送局のメンバー!!)」
「マリット」とはゲーム放送局のリーダーとして活動している兎をモチーフにしたヴァーチャルキャラクターである。
?「もしかして、ピアノセンサー発動していなかったか~」
次に口を開けたのは黄緑色の髪の男子生徒。喋り方が独特である。
改「ピアノセンサーってことはあれって先輩たちの仕業ってことすか!?」
義治「そうだよ~僕は副部長の「巳扇 義治(みおうぎ よしはる)」ゲーミング名は「治昭(はるあき)」だよ。」
改「存じ上げています。」
治昭「はるあき」はゲーム放送局の副リーダーとして活動している。蛇のような目が特徴のヴァーチャルキャラクターである。
寅好先生「でも、驚いた。犬神くんがこのスタジオに入って来るなんて」
改「寅好先生もこの場所を知っていたのですか!?」
寅好先生「だって私、この部活の顧問ですから。」
改「顧問!?」
豪「そういえば最後に入ってきたのは猫柳だったな。ちゃんと周りチェックしたのかよ!」
改「(おい、そんな口調で言ったら怖がるだろ!)」
しかし、そこにいる都は改の知っていた都ではなかった。
都「あたしちゃんと確認したけど誰もいなかったから入っただけなのに怒ることは無いと思うけど~」
都は教室とは違い、キャラが180度変わっていた。しかもこの声色・・・・・・聞き覚えが・・・・・・
改「もしかして・・・・・・「ミャー子」!?」
都「当ったり~あたしがあの大人気ヴィーチューバー「ミャー子」なんだにゃ~ 教室の時はゴメンね~一応ミャー子のことは秘密なので普段は陰キャのフリをしているんだよね。」
改「(俺は夢を見ているのか・・・・・・それとも現実を受け入れていないのか?)」
真里佳「まあ、バレちゃった以上しょうがないね。そう、ここは「十二ゲーム放送局」略して「フリーゲ」のスタジオだよ。」
改は自分の頬をつねった。しかしこれは夢ではない、現実である。
改「マジか・・・・・・やっちまったな・・・・・・」
真里佳「さあ気を取り直してライブ配信始めるよ。えっと、犬神くんだっけ・・・・・・向こうの椅子に座ってもらえないかな。」
真里佳は青色のゲーミングチェアに座るように誘導した。改はチェアに座り、4人がライブに向けて準備を進めている様子を眺めている。
改「(これがあの十二ゲーム放送局のスタジオだよな・・・・・・)」
改は「フリーゲ」はゲーム廃人時代にたまに見ていた。ヴァーチャルのキャラクターがとにかくワイワイやることを重視したスタイルでエンジョイゲーマーが多い。たまにガチ勢もいるためその人が大会に向けて練習する動画などをみて改も練習をしていた。
真里佳「よし、そろそろライブ配信始めるよ!」
真里佳がパソコンの配信開始ボタンをクリックすると4人の表情が変わった。
改「(空気が変わった!?)」
真里佳「みんな、こんにちぴょん!十二ゲーム放送局部長のマリットだよ!」
義治「副部長の治昭だよ。」
改「(聞き覚えのある声・・・・・・この人たちほんとうにマリットと治昭だったのか。)」
真里佳「治昭くん、今日は新しい部員を紹介するのよね。」
義治「そだね、じゃあ早速自己紹介行ってみよう!」
豪と都がマイクに向かってそれぞれ自己紹介を始めた。
豪「ガチ勢ゲーマーの豪樹だ!よろしくな!」
コメントからは「豪樹キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」や「フリーゲもガチゲーマーが入るの珍しい!」「楽しみだぜ!!」など絶賛の嵐。しかし、次の都・・・・・・いや、超人気ヴァーチューバー「ミャー子」があいさつを行うと・・・・・・
都「イヤッホー!みんにゃ、こんにちニャ~!みんな大好きミャー子だにゃ!」
「キャ~~~~~~~~~!」「真打登場!!」「ミャー子しか勝たん!」など豪樹の何倍のコメントの嵐が流れた。」
改「(猫柳さん、やっぱりあのミャー子だったのか・・・・・・)」
今回は自己紹介だけで約30分の生放送で終わった。真里佳が停止ボタンを押して動画が終わったことを確認すると・・・・・・
真里佳「お疲れ、今日はここで終わりにしましょう。」
豪「おつかれしたー」
豪はカバンを持ってさっさと帰った。義治もその後にカギ閉めよろしくと言いながら部室を出た。
真里佳「とりあえず・・・・・・犬神くん。問題は君なのよね。」
改「もしかして記憶を消されるとか言われるのですか?」
真里佳「まあ本来ならそうしたいけど・・・・・・」
改「(怖っ!)」
真里佳「そんな薬とかないし君に選択肢は2つあるわ。」
改「2つ・・・・・・」
真里佳「一つはこの部室の情報を漏らさないこと、これは機密事項なの。」
改「もちろんです。」
真里佳「もう一つは・・・・・・」
改「もう一つは?」
真里佳「あなたもこの部の部員になることよ。」
改「!!」
真里佳「正直に言うと後者の方が私は嬉しいわ。君はゲームとかはやるのかしら?」
改は言葉を失ってしまった・・・・・・
真里佳「犬神くん。返事は・・・・・・」
改「すみません、俺はこれで失礼します!」
都「ちょっと!」
逃げた改を帰り支度を丁度し終えた都が追いかけた。
真里佳「あの子、どうしたのかしら?」
寅好先生「彼、何かしらのトラウマがあるのじゃないかな?」
真里佳「トラウマ?」
寅好先生「なんとなくだけどそんな気がしてね。」
寅好先生はいつも通りのにっこりとした表情であった。
逃げるように学校を去った改。その後を都が追いかけた。
都「ちょっと、勝手に出て行くなて! キャッ!」
追いかけようとした都だが、足がもつれてその場でこけてしまった。改は都の声でこけたことに気づき助けに戻った。
改「大丈夫か!?」
都「イタタタタ・・・・・・・・・・・・膝すりむいちゃった・・・・・・・・・・・・」
改「まったく、何やってんだよ。」
改は手を差し伸べて都を起こした。
改「歩けるか?」
都「・・・・・・・・・・・・無理かも。」
改「しょうがないな。ほら。」
改はその場にしゃがんで背中に乗るように指示した。
都「ええの?」
改「家まで運ぶだけだよ。」
都「なら遠慮なく。」
改は都をおんぶした。
改「(なんだ、このシャンプーのいい匂い。後背中に柔らかい・・・・・・)」
改は自分の煩悩を祓うかのように顔を横にブルブルと振った。
都「どしたん?」
改「何でもねえよ!で、家はどこだ?」
都「実は、住む予定の家が4月いっぱいまでまだいるらしいからその間理事長の御厚意で今はビジネスホテルに泊まってるんよ。」
改「ホテ・・・・・・ビジネスホテル!?」
都「でも救急箱ウチにないしなぁ」
改「しょうがないな・・・・・・一度ウチに連れて行くからそれでいいか?」
都「ええよ。」
改「もう少し躊躇いはないのかよ。男子の家に行くんだぞ。」
都「アタシ、犬神くんのこと信じているから。それに万が一セクハラをしたときはあんたが社会的に抹消されるだけだから、アタシのリスナーさんに。」
改「・・・・・・全くそんなこと考えてなかったけど、確かにそれぐらいのことはできそうだな・・・・・・」
改は都をおんぶして住んでいるアパートに着いた。
改「ついた、ここがウチだ。」
都「え、ここ?」
改「何だ不満か?外堀はアレだけど一応防音とかはきっちりしているぞ。」
都「別に、ただビックリしただけ。」
改「何にびっくりしているのか分からないが・・・・・・・・・」
改はポケットから家の鍵をかざしてオートロックの扉を開けた。そして勉の部屋のドアを鍵で開けた。
改「よいしょっと。ちょっと待っとけ、救急箱持ってくるから。」
都「ありがと。」
改は救急箱から消毒液とガーゼを取り出し傷口に当てた。
都「あでででで!」
改「あぁ、すまん。」
改は丁寧に消毒を済ませ、絆創膏を貼った。
都「ありがと、助かったよ。」
改「別に、俺はただそのままだと危険だから治療しただけで。」
都は改の部屋をジロジロと見ていた。
都「それにしてもこの部屋何もないな。」
改「失礼だろ。一応必要最低限の物はあるよ。」
都「パソコンは?」
改「ノートパソコンならあるけど」
都「そーなんか。」
改「なんでそんなこと聞いたんだよ。」
都「それは、あなたも一緒に入部してくれたら面白いかなと思ってな。」
改「・・・・・・その話だけど、あの部室のことは内緒にする。だから俺はゲーム実況部には入部する気はない。」
都「何でなん?アタシの勘だけど君結構ゲーム好きだと思うのよね。」
改「・・・・・・何も知らないくせに勝手なこと言うなよ。」
都「どしたん?」
改「俺のこと何も知らないくせに勝手なこと言ってんじゃねえって言ってんだよ!」
改は言い過ぎたと思ってしまったが時すでに遅し、都の目から大粒の涙がボロボロとこぼれていた。
改「悪い、大声で怒鳴ってしまって。」
都「ええよ、アタシも自分の思ったことを言ってしまったから。でも、なんでそんな毛嫌いするの?」
改「・・・・・・昔、俺はゲーム廃人だったんだよ。勉強そっちのけで・・・・・・でもそのせいで家族に迷惑をかけてしまった。だからその罪を償うためにこの学校に入ったんだよ。」
都「ゲーマーだったん?」
改「まあな。」
都「一人暮らしまでこの学校に行きたかったん?」
改「それは、妹がこの学校をおすすめされて偏差値も高かったからこの学校にしたんだ。」
都「もしかしてその妹さんヴィーチューバー?」
改「ああ、「狛犬べロス」って名前で歌ってみた配信を主にしていて・・・・・・」
都「狛犬べロスさん!?」
都の突然の喜びの絶叫に思わずビクッとしてしまった。都の目にはもう涙は無い。
都「アタシ狛ちゃんの大ファンなの!まさか犬神くんの妹だったとは世間は狭いな~」
改「うん、後で妹に言っておくよ。」
都「でもそうか、あの子もアタシと同じスカウト生としてこの学校に来るかもしれんな。」
改「スカウト?」
都「アタシや豪樹くんは今年のスカウト生なんよ。とあるスカウトマンに声をかけられてうちの高校に来ませんかって。」
改「だから言っていたのか、入れるように言っておいてくれって。」
都「そんなこと言われたん?」
改「それがまさかゲーム実況部に入るためのコネ入学とは思わなかった。」
都「まあ、いろいろ犬神くんの事情が分かった。もうゲーム実況部に無理に入れとは言わないよ。」
改「いいのか、そんな早く理解してくれて。」
都「その代わり、アタシがミャー子だということは絶対に秘密だからね!」
改「分かった、でも挨拶くらいはいいだろう?」
都「・・・・・・それくらいなら。」
改「分かった約束する。」
その後、都はタクシーを呼んで住んでいるビジネスホテルに帰った。
次の日・・・・・・学校で本を読んでいると、水鳥に声をかけられた。
水鳥「おはよう、改。昨日は大丈夫だったか?」
改「ああ、水鳥か。うん、やっぱりあの教室は呪われているっぽいな。俺も怖くて帰ったよ。」
水鳥「あとは、ゲーム実況部の部室があるかどうかだけど。」
改「深堀りするのはやめておこうぜ。また呪われるかもしれないしな。」
水鳥「・・・・・・それは嫌だね。」
そんな話をしていると桐谷先生が入ってきた。
桐谷先生「お前ら、早く席に付け!チャイムが鳴るぞ。」
水鳥「うわ、先生もう来たの。早くない?」
改「早く戻った方がいいぞ。目付けられると面倒くさい。」
チャイムが鳴る寸前、都が教室に入ってきた。
桐谷先生「おい猫柳!また遅刻ギリギリだぞ!いい加減自覚を持て!」
都「すいません。」
都はやはりキャラを偽り、伊達メガネをかけ声を小さめにしている。都は自分の席に着き座った。
改「おはよ、猫柳さん。」
改は小さな声であいさつした。
都「うん。」
都は静かに頷いた。そのとき彼女の口は少し微笑んでいた。
第2話(完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます