干支珠高校ゲーム実況部

白絹照々(しらぎぬてるてる)

第1話 干支珠高校の七不思議

20××年10月。静岡県浜松市にある「静岡県立干支珠高校(えとたまこうこう)」そこでは、推薦の学生を決める会議が行われていた。


?「校長、今回はこちらの生徒2名を推薦したいと考えておりますがいかがいたしましょう?」


謎の男は2枚の推薦状を校長の机に出した。


校長「なるほど、あの大人気ヴィーチューバー「ミャー子」さんを推薦できたとはなかなか難しかっただろう。それは認めるが、もう1人は「豪樹(ごうき)」くんか。彼ならゲームスキルはいいだろうが、場の空気を乱す奴だと聞いているぞ。そんな子を我が校に入れても大丈夫だろうか?」


「ヴィーチューバー」とは「Vetube「ヴィーチューブ」」というヴァーチャルのキャラクターを使う専用のサイトで動画を投稿し再生中に上がる広告で収入を得る職業のことをいう。


?「そうですね、今まではネットでの炎上を恐れてできるだけ安全な方をスカウトしてきましたが、そろそろ発奮材料が必要だと思いましてね。」


校長「発奮材料ね・・・・・・悪い方に爆発しないようにしてほしいけどね。でも君がそう言うならきっと大丈夫だろう。よかろう、2人の入学を許可しよう。」


?「ありがとうございます。」


校長「これで着実に進んで行けるよ・・・・・・私の計画を・・・・・・」


翌年4月、浜松市で一人暮らしをするグレーのツンツン頭で眠たそうな目が特徴の「犬神 改」(いぬがみ あらた)この物語の主人公である。


改「明日から高校生活が始まる。荷物も全て持ってきたしこれで新しく生まれ変われるようにならくちゃな。」


改は一般の高校入試を受け、干支珠高校に入学した。しかし、彼の地元は愛知県の名古屋市である。なぜわざわざ隣の静岡まで行くことになったのか?理由は彼の過去から始まる。

改は中学までゲーム廃人だった。ゲームにのめりこんだのは小学校3年生から男子のクラスメイトから勧められた「アニマルファイター」という格闘ゲーム。最初はゲームとは勉強の妨げになる余分な遊びだと思っていた。しかし勉強と違うのは、勉強はちゃんと予習復習していれば100点を簡単に取れるが、ゲームはどんなに予習復習しても100点の操作はできない。さらにやればやるほどどんどん次の課題が出てくる。

これほど面白い遊びは無いと思った彼はすぐにゲームを買い、「アニマルファイター」を特訓した。1カ月も経つとクラスメイトよりも強くなり、次第に遊ぶ相手がいなくなり、クラスメイトから「ゲームうまいからって調子に乗るなよ。」と言われ、だったら教えなければよかったじゃないと答えたら取っ組み合いの大乱闘が始まりそれ以来学校に行かなくなった。

不登校になった改は犬氏「ケンシ」という名前でネット対戦やゲーム大会にも参加し、中1で大会世界一にもなった。

アニマルファイターの他にもいろいろなゲームをガチにハマるまでやっていた。

しかし中2の終わりごろ・・・・・・改がトイレに向かおうとしたとき、リビングで号泣している母と、まるでロダンの「考える人」みたいに頭を悩ませている父がいた。

遠くで話を聞いていると俺のことについて話していた。」


改母「あの子・・・・・・このまま高校にも行かないつもりなのかしら・・・・・・勉強はできる子なのに・・・・・・」


改父「このままだと中卒生になるぞ・・・・・・さすがに高校に入ってほしいが今のアイツが聞くかどうか・・・・・・」


その時、改は後先考えずに行動していた自分を攻めた。ゲームを初めて1年経ってから両親とまともに話していなかったため、そんなに自分の将来のことを心配していたなんて思っていなかった。改は壁に向かって思い切り頭突きした。


改父・母「!!」


突然の衝突音に驚いた2人は音の鳴る方へ向かった。そこには頭から血を流し、涙を流している息子の改がいた。


改母「改!?」


改父「何してんだ!早く包帯を!!」


しかしこの涙は頭が痛いから泣いたわけではない。ゲームばかりしている息子をすでに勘当していると思い込んでいた。

こうして改心した改はゲームを全部売り払って、売ったお金で参考書を買った。そして学校には通わず塾で遅れた分を取り戻した。干支珠高校にしたのは進路を決めるときに地元の高校を書こうとしたが妹の「狛枝(こまえ)」からあることを頼まれた。


狛枝「兄さん、今進路に悩んではるなら干支珠高校受けてみいへん?」


狛枝は母の実家である京都に長く住んでいたせいか普段は京都弁で話している。


改「干支珠?そんな学校愛知県内にはないけど?」


狛枝「ちゃうねん。干支珠っちゅうのは静岡にありますんや。今、干支珠では裏口入学という名の特別推薦があんねん。」


改「つまり、俺にそれを受けろと?」


狛枝「そやなくって、ウチ、いま「Vetube(ヴィーチューブ)」で動画を投稿してんやけど。実は実力のある中3に干支珠のスカウトマンがいるらしくて兄さんに推薦するように言ってほしいんや。」


狛枝は「歌ってみた動画」を中心に活動しているヴィーチューバーの1人。「その歌声が素敵」だと話題を呼びチャンネル登録者数は20万と多い方。しかし、このことは両親には内緒にしている。


改「まあ、志望高校より偏差値高いし、地元だと知り合いに会うのが気まずいって言ったら両親も納得してくれるだろうから別にいいけど。」


狛枝「おおきに。」


こうして改は両親に知り合いに会うのが気まずいので独り立ちをしたいという理由を伝え、干支珠高校を受けることに・・・・・・


改「まさか合格できるとは思わなかったな・・・・・・」


次の日、干支珠高校は入学式を迎えた。


改が通学路を歩いていると周りの女性がざわざわしていた。


女子生徒A「何あの人、カッコいい・・・・・・」


女子生徒B「声掛けてみなよ。」


女子生徒C「いや、とても近寄れないわよ・・・・・・オーラがすごすぎて」


改は元々顔立ちがよく学校に行っていたときは何人かの女子生徒からチョコをもらっていたりしていた。


学校に着くなり、自分のクラスを確認し教室に移動した。クラスは1組だった。


改「俺の机は、窓奥か・・・・・・普通出席番号順とかじゃないのか?」


改は自分の席に座った。周りの男子から声がかかる。


男子生徒A「君どこ中?」


改「実は県外からこっち来てさ」


男子生徒B「まじ、どこから?」


改「愛知。」


男子生徒A「となりじゃん!」


改「まあね、改めてよろしくね。」


男子生徒C「固いぞ、もっとリラックスしていけよ!お前、ゲーム好きか?」


改「・・・・・・ゲームはやってない・・・・・・」


男子生徒B「珍しいなゲームやってないやつとか」


?「うるせぇな!ギャアギャアギャアギャア!」


改「え?」


突然の怒号で思わずビビった。誰かと顔を見るとそこには細身で長身。赤目のつり目で茶髪に耳ピアスを付けたチャラい男がいた。


?「朝から騒がしいんだよ!」


男子生徒A「いきなり大声上げるなよ!びっくりしただろう!」


?「お前らのバカ騒ぎよりはうるさくねえだろ。」


そんな男子生徒は自分の席に座るなり居眠りをし始めた。」


男子生徒C「何だアイツ・・・・・・感じ悪いな。」


改「{黒板に貼ってある座席表をみる}名前は「猿渡 豪(さわたり ごう)」か。要注意人物だな。」


そんな話をしながら予鈴のチャイムが鳴った。ドアが開き、2人の先生が入ってきた。1人は紫のロングヘアが特徴のキリっとした女性先生。もう一人は金髪のボサボサ髪で目元はニッコリしている男性の先生。


女性先生「みんな、予鈴鳴り終わったぞ!早く席つけ!」


その女性先生の怒号で全員急いで席に戻った。


女性先生「お前たち朝からたるんでいるぞ!予鈴鳴ったたらすぐ座るのが常識だろうが!」


その時男性先生がパンパンと手を叩いて空気を変えた。


男子先生「はい、お説教はここまで。おばさん、朝から怒るとまたしわが増えるよ。」


女性先生「おばさんて言うな!後、しわは無いわい!」


改「(何だ、この夫婦漫才は・・・・・・)」


女子先生「おい、あと一人はどうした?休みがいるって聞いてないぞ!」


確認したところ改の右隣の机は空いていた。


女性先生「まったく、あと1分でチャイム鳴るぞ。」


その時、後ろのドアが開き、白いショートヘアに丸眼鏡の女子生徒が入ってきた。」


女子先生「来た。遅刻ギリギリよ!」


女子生徒は先生の顔を見てペコリとお辞儀をして席に着いた。


桐谷先生「全員揃ったわね。私がここの担任の「桐谷 博美(きりたに ひろみ)」よ!今日からあんたたちをビシバシ鍛えてあげるからね!」


次に男子先生の紹介に入った。先生の表情は全然変わらずニッコリしている。


寅好先生「私が副担任の「寅好 翔一(とらよし しょういち)」ですっ。担任が怖かったら私に相談してね~。」


桐谷先生「おい!誰が怖いですって!」


女子生徒D「(あの男の先生優しそう)」


男子生徒D「(桐谷先生は怖いけど寅好先生はいつもニコニコして優しそう。)」


改「(みんなは寅好先生の方が優しそうに見えているかもしれないけど、逆にこういうタイプは切れ者で桐谷先生をうまくまとめているところ、食えない男だな。)」


先生たちから一通り説明が終わったあと、改は遅刻ギリギリに来た白髪の女子生徒に声をかけてみることに


改「おはよう。確か「猫柳 都(ねこやなぎ みやこ)」さんだよな。犬神改だ。よろしく。」


都は「ども・・・・・・」と一言だけ言って本を読み始めた。


改「えっと・・・・・・その本好きなの?」


都「・・・・・・・・・・・・」


改「俺も本好きなんだ。気が合うな、ハハハハハ・・・・・・」


都「・・・・・・・・・・・・」


改「(ダメだ・・・・・・会話が続かない・・・・・・)」


すると前の席にいた緑髪の生徒が改に話しかけてきた。


?「あんまりそういうやつには積極的に話しかけない方がいいぞ。かえって自分の殻に籠るからね。」


改「そうか、えっと君は・・・・・・」


水鳥「僕は豆生田 水鳥(まにゅうだ みどり)色の緑じゃなくて水に鳥と書いて「みどり」下の名前で呼んでくれると嬉しいな。」


改「犬神改だ。こちらこそよろしく水鳥。えっと・・・・・・男だよな?」


水鳥「そうだよ、よく女性に間違われるけどね。」


改と同じ男子生徒のブレザー制服を着ているので男性で間違いないが深緑色の髪をポニーテールで結んでおり顔つきが女性っぽいので男装しているのかと一瞬思ってしまった。


水鳥「そういえばこの学校の七不思議って知ってる?」


改「七不思議?」


水鳥「僕も聞いただけだけど、2つ興味深いモノがあるんだ。」


改「それってなんだよ?」


水鳥「改は「十二ゲーム放送局(じゅうにげーむほうそうきょく)」ってチャンネル知ってる?」


改「あ、それなら昔見たことがある…高校生が自由にゲーム実況をするチャンネルで十二ゲーム放送局だよな。」


水鳥「実は、ここだけの話。もしかしたらこの干支珠高校にそのスタジオがあるって話だよ。」


改「学校で動画配信!?いろいろとマズいだろそれは・・・・・・」


水鳥「だから、僕たちで確認しようって話。毎年2人新しい部員を増やすらしいけど今日がその発表配信なんだって。」


改「いや、口外されていないってことはバレたらマズいことになるんじゃ・・・・・・」


水鳥「改、まだ話は終わってないぞ。しかも同じところに七不思議の2つ目があるんだ。」


改「もう一つ?」


地下室に古いピアノがあるんだけどそれが勝手に演奏を始めるそうなんだよ。」


改「人がいないのに勝手にか?」


水鳥「ねえ、今日は始業式が終わったら確認しに行こうよ。」


改「イヤ、俺怖いの苦手だし・・・・・・」


水鳥「いいじゃねえか、男らしくどんと行こうぜ!」


改「(俺本気で嫌がっているんだって!!)」


始業式終了後・・・・・・結局水鳥に無理矢理連れていかれ地下1階の階段のすぐ近くにあるロッカーに隠れた。


改「この格好、恥ずかしくないか・・・・・・」


水鳥「2人だとここキツイね・・・・・・」


改は別の意味で恥ずかしい想いをしている。水鳥は男子であるがやはり女性ぽい見た目から緊張を覚えた。

改が恥ずかしさに声をあげそうになりそうになったその時。階段を降りる音が聞こえた。


水鳥「誰か来た!」


改もロッカーの隙間から覗いた。階段を下りていたのは朝、怒号を挙げていた「猿渡豪」だった。


水鳥「猿渡くん、こんなところに何の用だ?まさか隠れてタバコを吸うとか・・・・・・」


改「あり得そうだけど・・・・・・もう少し様子を・・・・・・ってあれいない?」


豪はいつの間にか姿が消えていた。そして次の瞬間。


ピアノ「♪~」


ピアノが勝手に動き始めた。


改・水鳥「!!」


ピアノは数秒鳴らし続けようやく止まった。2人はロッカーから出てピアノを調べ始めた。


水鳥「今勝手に動いたよな。」


改「ああ、俺もこの目で見た・・・・・・」


ピアノ「♪~」


ピアノがまた勝手に動き始めた。


水鳥「ぎゃ~!また動いた!」


水鳥はしりもちをついてしまいそのまま逃げるように階段に上がった。


改「おい!俺を置いていくな!」


改も逃げようと思ったがピアノはすでに止まっている。


改「なんですぐに止まる?」


改はすぐに止まるピアノを妙に感じた。さらに階段から足音が聞こえた。


改「誰かくる!」


改はピアノ前の古びたロッカーに隠れようとしたが、張り紙に立ち入り禁止の張り紙があった。かといって階段前のロッカーだと見つかってしまう。そう思った改はピアノの下に隠れた。階段を下りてきたのは何と以外にも遅刻ギリギリに来た「猫柳都」の姿だったのだ。


改「(猫柳さん!?)」


都は辺りをキョロキョロ見て、立ち入り禁止の張り紙が貼ってある古いロッカーの中に入っていった。その数秒後、ピアノが鳴りだした。


改「やっぱり、人がいるとこのピアノは反応するんだ。これは怪談ではなく意図的に仕込んでいるんだ。そして猫柳さんが入ったあのロッカー・・・・・・あの奥に何かがある!」


改は覚悟を決め古びたロッカーに手をかけた、鍵は掛かっていない。入った改は目の前にある部屋に衝撃的な事実を知ることになる。


改「ここは・・・・・・」


第1話(完)

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