第11話 入浴タイム
マリアンヌを脱衣所に連れてきて、彼女のドレスを脱がすことに取り掛かった。まだ母さんたちも帰ってきていないし……今は緊急事態だ。
下手に母さんや愛希に説明していないんだ。
とにかく風呂に早めに入れさせておかないと、バレてしまう。
こんなところを見られたら、絶対愛希にドロップキックを食らわされかねない。
「……脱がすよ」
「ええ、お願いします」
マリアンヌのドレスに手をかける。流石ににドレスを脱がし方はネットで検索をかけて順番に確認しながら脱がす、ということになった。
「その……やはり、目隠しは」
「無理だよ、俺ドレスの脱がし方なんて知らないんだから。妹が帰ってからとも思ったけど……君、彼女から特別好かれてるわけじゃないと思うしね」
「……わかりましたわ、でも嫁入り前なので出来る限り直視しないようお願いします」
するすると、マリアンヌの服を一枚一枚取って行く。
どこぞのお代官様の、「あ~れ~」的な感覚と違っていて、緊張した。
あれは自分が上の立場とか、そういう状況だから余計爽快感ある感じだったんだろうけど、明らかに身分さを肌に感じる気がして緊張した。
マリアンヌの服を脱がし終えて、俺は彼女に背を向ける。
「それじゃあ、マリアンヌ。タオルはそこにあるから一応持って入ってね」
「わかりましたわ……一応、言っておきますが絶対に、見ないでくださいますわよね?」
「逆に俺が振り返って君の裸体を今、一部見えてしまう可能性の方が高い気がするんだけど」
「……もう少し愛想よくしたらどうです?」
「君が言えた口?」
「……絶対覗いたら殺しますからね!?」
「はいはい、どーぞ」
「……!! ふん!!」
バン、と力強く閉められた浴室の扉が壊れていないかちらっとマリアンヌの方を見る。マリアンヌは完全に浴室の中に入ったようだ。
彼女を浴室に入ったのを確認して俺は見張りをすることにした。
マリアンヌには背中越しでシャンプーやコンディショナーの仕方などを口頭にしながら、俺は床に座って彼女のいる浴室から背を向ける。
「ミチタカ」
「ん?」
「やはり、異世界に来たのではなく、これは夢なのではなくて?」
「浴槽に浸かればわかるんじゃない? 胸元の傷が染みるかもしれないけど」
「……本当に、意地悪な方」
「逆に変に優しい人よりは安心しない?」
「……それは、言えてますわね」
ピチャンと水音が聞こえる。
……健全男子だからなのもあって、やっぱり女性がお風呂に入ってると思うと緊張すると思っていたけど、少しだけドキドキしている自分はいる。
でも、マリアンヌに性的な対象として見ているかと言われたら、女性芸能人が俺の家でお風呂に入っている、というドキドキ感の方が近い。
ゲームのキャラが現実世界に登場、みたいな二次創作小説とか読んだことはあると言っても、そんなに動揺するかなーと思ったが、いろんな二次創作なり作品なりに触れてきたせいか、オタクならではの余裕も出ている気もする。
「……ミチタカ」
「何?」
「……出会って間もない私に、お風呂まで入れてくださったのはありがたいことですわ。感謝はしています」
「そう、だったらよかった」
「……貴方、本当ならもっと驚くべきなのではないの? 私は、貴方の知っているゲームの人物なのでしょう?」
道隆は少し口をつぐむ。
俺が一番に君の最期を見て感じたのは、やっぱり同情とかではない。
だって、君の最期は悪役としては華々しく散ったから。悪役って、みんなから嫌われるべき存在だけど……そういう人もいた、っていう理解はするべきことだから。
何の理由もなく殺人を犯したなんて人は情状酌量の余地は俺にはないけど……その人の抱えていた物を誰にも話せずに死ぬことの方が、残酷な気がする。
ただの悪い奴止まりで思考を止める奴ほど、堕落した奴はいない。
ピチャンと、浴槽から水音が聞こえる。
彼女は自分の恋のためにできる範囲で、自分がどれだけ罪を被ろうとも自分の恋に邁進した、一途な子なのは君の最期のスチルのあの映像を見て感じたから。
「君が、ゲームのキャラだからって言われて、君は納得できるの?」
「あのような物があれば理解せざるをありませんわ……貴方が悪役令嬢だと言っていたけれど、私はまだ出ていなかったわ」
「君がゲームを進めて行けば自然と分かることだよ。焦りすぎてゲームの選択肢をミスしすぎて一生この世界にいるとかは勘弁してよ」
「早急にクリアとやらをしてやりますわ、待っていなさい! 私は絶対に王子以外の殿方たちも攻略し、最後に王子と結ばれるのですから!」
「あっそ」
「また、あっそ!? 失礼じゃありませんこと!?」
「はいはい、失礼しました失礼しました。悪役令嬢様」
マリアンヌが声高に叫ぶので、耳がキーンとしてくる。
俺は耳を抑えて、軽く流した。
「……その悪役令嬢、というのは好きじゃありませんわ」
ブクブク、と泡が立つ音が聞こえてくる。
ちょっと、令嬢としてそれはお風呂のマナーがなってないんじゃないの?
とは、特別突っ込まないで上げることにした。
「少なくとも、ゲームをクリアした俺にはそうだと思うよ」
「!! ミチタカはゲームを攻略しておりますの!?」
「全ルートは攻略した。でも女神様から口止めされてるから、選択肢のヒントは教えられないよ」
「……女神様も意地悪ですわ!! 教えてくださってもいいのに!」
ぷんぷんしてるなー、この子ゲームの時だとこんなにわかりやすい子だと思わなかったのに。
「でもそんな簡単にわかったら、流石に女神様だって君に試練なんて出さないでしょ?」
「それはそうですけれど……」
「じゃあ、頑張って。君のゲームをプレイする補助は俺が支援するから」
「……頼みましたわよ?」
「もちろん」
「…………ふふ、これで貴方と私は共犯者、ですわね」
「何それ、勝手に巻き込まないでよ」
「そこは、『そうだね』とか言うところでしょう!?」
俺は茶化していると、マリアンヌが声高に叫んだ。
「お兄ー、帰ったよー」
……げ。
俺は慌てて、マリアンヌに声をかける。
「マリアンヌ、絶対お風呂場から出な――――」
「なんですの? もう終わりましたわよ」
マリアンヌはガラッと扉を開けて出てくる。
ふと、俺と彼女は目と目が合う。
彼女は顔を真っ赤にして、叫ぼうとする口を手でふさいだ。
「き――――!!」
「落ち着いて、落ち着いてマリアンヌ。今は叫んじゃダメだから!!」
「お兄? どこにいんのー?」
どうする? 下手にマリアンヌをこの恰好で合わせるのもどうかと思うし……!! 俺は思考を巡らせる中、マリアンヌが一歩前に行こうとして、足を滑らせる。
「キャ!!」
「ちょ、待っ――――!!」
俺も巻き込まれて一緒に洗面所で倒れる。
バターンと、大きな音を立てて俺は慌ててマリアンヌを見る。
「大丈夫? マリアン――――」
もみ、と軟からかい感触がする。
張りがよく、弾力がよく、少し水に濡れているその温もりに血の気が引いた。目の前に映っているのは、俺の手が彼女の裸体の胸に触れている、そういう状況だ。
「お兄!? 大丈夫!?」
愛希が洗面所にガラッと扉を開けて入ってくる。
そのタイミングで、マリアンヌは顔を真っ赤にしてプルプルと震える。
「き、」
「あっ、」
「きゃああああああああああああああああ!!」
悪役令嬢の裸体を見たバツとして、俺は全力でぶたれた。
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