悪役令嬢リアルに降臨!!
絵之色
第一章 悪役令嬢、現実に登場!!
第1話 プロローグ
妹に頼まれて、彼女の好きな乙女ゲームを攻略することになった俺は今日も又一人自分の部屋でゲームを開始するのであった。
部屋の中は暗くして、ヘッドフォンを装着して静かにゲームを淡々とコント―ローラーを押してストーリーを進めていく。
「……はぁ」
はっきり言って、大学生だからまだ時間があるとは思うが自分が読みたい作品の世界に浸りたいところだが、愛希がぐずるのは面倒だから嫌なんだよな。
まあ、可愛い妹の頼みを断る時は断る男でいるスタンスだから、問題はないか。
「……たく、愛希はもう少し自分で努力すればいいのにな。だから彼氏できないんだよ」
乙女ゲームの名前は、『
世界観は中世風ファンタジー物。神様に異世界転移させられた主人公のヒロインである
今日は妹が攻略したいと言っていた隠し攻略キャラと呼ばれるウィリアム王子のルートをプレイしている。
妹がプレイしたいのはウィリアム王子だけらしいから自分は浮気をしたくないだとかという理由で、俺に丸投げするのは慣れているので問題ない。
だからその代わり、ストーリー好きな自分としては先にプレイする許可を念のため妹の愛希からもらってから、絶賛ウィリアム王子のルートを攻略していた。
『貴方、王子に近づかないでもらえます? 鬱陶しいのよ』
「……この子がウィリアム王子のルートでの悪役令嬢か」
金髪縦ロールの派手な赤いドレスを身に纏った切れ長のディープミントの瞳が特徴的な少女、マリアンヌ・フォン・ロートローゼン。
……彼女はこのウィリアム王子の攻略ルートで主人公の恋路を邪魔するライバルキャラでもあり、この作品の中の有名な悪役令嬢だ。
最近流行りの悪役令嬢が出てくる恋愛系のラノベは多少は嗜んでいるが、マリアンヌが典型的ないじめをする王道悪役令嬢なのかは、これからわかることだ。
『身分の差というのを理解していないのね、本当に愚かですこと』
「……それは、言えてるよな」
主人公のヒロインは平民どころか異世界転生してきた女の子で聖女って設定はどこの恋愛系なろう小説なんだよ、って突っ込んだりしたけど。
他のルートの攻略対象で婚約者がいるルートなんて、中世系の貴族社会とかでは平民と結婚するなんて、禁断の恋レベルに等しいものだという認識はある。
だから、ありきたりな設定だがうちの妹が好みそうな甘々な攻略キャラとのトークには目が滑った。普通、王子と公爵貴族の娘の婚約を簡単に王子が破棄する展開は悪役令嬢物のラノベで読み慣れたものだ。
けど、悪役令嬢の中でも貴族と平民のことを考えているのは彼女の方が知識がある方だと個人的に見受けられた。
『貴方、ちやほやされて調子に乗ってるんじゃありませんの?』
『どうしてマリアンヌ様はそんなことを言うんですか?』
『当然でしょう? 貴方も聖女候補であるように、私も聖女候補であることをお忘れ? ……貴方は、王子の隣に立つ者としてふさわしくないわ』
マリアンヌの冷めた視線は凍り付く感覚に囚われる。
声優さんの演技も素敵なんだろうけど、このゲームのイラストレイターの表情が上手いのもあるんだろう。
ストーリーを進めて行って重い過去を抱える優しい王子様キャラであるウィリアムのルートを攻略していて、少女漫画が好きな女子なら大抵好きそうなキャラだなと感じた。他のキャラクターのルートでも、やはり女性が好きそうなギャップがあるキャラとかもいたりしたし。
マリアンヌはウィリアムのグットエンドでは追放、トゥルーエンドでは断罪されており、インパクトも強かった。
「……最期まで、悪役令嬢だったな」
俺はウィリアムルートをやっていて感じたのはマリアンヌってキャラは悪役として素敵だったな、という印象だ。
彼女自身はいつだって公爵令嬢として振舞い、最後の最後で王子の手で殺されて主人公の女の子である花宮唄子がウィリアム王子と幸せな結婚をして終わり。
マリアンヌは他のライバルキャラの少女たちの中では一番に目立つくらい、主人公のいじめを陰で暗躍していた。頬を叩く、罵声を浴びせる、他の令嬢たちが陰口を言わせるの仕向けたり……と、まあまあ、プレイヤーである女子の方々には嫌われているキャラ筆頭なのがよくわかるルートだった。
ウィリアム王子とは婚約者なのは王道な設定だが、主人公にいじめを行っていた点を除けば王子の婚約者としての在り方に拘っている点には彼に純粋に恋をしているのだろうと推測はできる。
とりあえず、ストーリー的には面白かったから後で設定資料集ネット注文するか。
「……マリアンヌは、報われないんだな」
ぽつりと、呟くとタイトル画面がマリアンヌが死亡しているスチルに変わった。
俺は驚いて、画面に釘付けになる。
「なんで、マリアンヌの死んだスチルが……?」
映し出された文字と、マリアンヌのボイスに戸惑いを隠せなくなる。
『ああ、私は王子と結ばれるために努力してきたというのにどうして、報われないのかしら』
「……ゲームの特殊演出、か?」
俺は眼鏡の位置を正した。画面のメッセージウィンドウはゲーム内の明るいピンクではなく、鮮烈に生きた
「いや、タイトル画面になったのにこんな演出なんて……」
今まで妹に頼まれてしてきた乙女ゲーでこんな演出なんて体験したことがない。
画面の向こうで、マリアンヌのボイスが流れる。
『ああ、ああ、ああ……たった一度でもいいから、振り向いてほしかったのに、愛してほしかったのに。どこで、間違えたのかしら』
「マリアンヌ……それは、ストーリーテイラーに決められたどうしようもない結末だよ」
気が付けば、俺はマリアンヌの言葉に小さく吐露していた。
物語の悪役令嬢という立場が、脇役でしかない彼女が、送る人生なんて作家に決められている。そう決まっているのなら、その最後だって悲しい物に決まってる。
『ああ、もう一度奇跡があるなら私は……×じゃない××と、×ができたなら』
画面が大きく輝くのを感じて、手で制すると画面から人が出てくる。
それは、赤いドレスを纏った、最後の最期まで悪役として生きた彼女がテレビの画面から出てきた。
「…………は?」
俺は状況に追いつけず、目の前にいる彼女が現れたことに頭の思考が止まった。
血の臭いがする。間違いなく俺の部屋から、いや、彼女からした。
俺の部屋で、テレビ画面から出てきた彼女はそこにいた。
赤いドレスの質感もリアルチックで、施された装飾もゲームのようなどことない平面感はなく、その表情は
「……っ」
か細く聞こえた、彼女の吐息。
俺は聞き逃さなかった。
「生きてる……? 病院に連れて行かないと!!」
俺は急いで病院に連絡するためにテーブルに置いてあるスマホを手に取った。
「いや、彼女の説明は無理だ……! だったらっ」
俺は頭を片手でクシャっと潰して、もう一つの可能性に賭けることにした。
父の部下である田中の連絡先である画面を開き、通話ボタンをタップした。
俺は早まる気持ちを抑え、田中が出てくれるのを待つ。
『はい、坊ちゃんどうしたんですか?』
「田中! 今すぐ、俺の知り合いの闇医者の所に連れてって言ってほしい人がいる、車を出せ!! 大至急だ!!」
『え? と、唐突に何を……』
「いいから!! もし連れて行かないなら、俺が父さんに言ってお前をクビにするぞ!!」
『は、はい! わかりました!』
プツ、と道隆は田中が通話を切るのを確認して、彼女の方をそっと見た。
「っは、ぁ……うぅ」
俺は金糸よりも美しい滑らかな彼女の髪に触れながら、彼女の頭をそっと触れる。
早く田中が来ることを願いながら、彼女を背負った。
「っ……! 重いっ」
女性の体は羽のよう、とかカッコつけたこと言ってたやつ、出て来いよ。
この時ほど、自分が学生時代に体力にパラメーターを上げていなかったことに後悔した。学生とはいえ女性の体に触れるからー、とか童貞臭いことなんて後回しだ。
そんなことを気にしていたら、彼女が死んでしまう。
「う、ぅ……」
「……待ってて。君のエンディングは、ここじゃない」
俺は足を踏みしめて、自分の部屋から家の外に出た。
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