第21話 明朗快生
『……おっふ、……これは、また、えらく気合入って見えるな』
これは、たっぷりと睡眠を取った後【Evernal = Online】へ舞い戻った俺が、ログインしてすぐ、設定を済ませたばかりの居酒屋‐
……ホログラムの淡い輝きも、相まって、目立つこと請け合いだ。
ゲーム内で派手な動きをすれば、特定されてしまうことになるだろうけど、まぁ、本当にヤバくなったら、スポンサー契約解除になったっていうていで、一時的に外させてもらお。それと、とりあえずPVP勝利時のエモート以外、動かなくしとこ。
……てか、この文字の意味を見て、変な勘違いされないよな?
……そう言えば、エンジュさんも、このロゴ背負ってるんだよな?
てか、鬼人族で始めたって言ってたけど大丈夫か? この‐
……に、しても、鬼人族ってまんまじゃん。……自覚が無いんだろうか。
おい、待て。あの人の職業は鍛冶師だったよな。閻魔様の持ってるのって、やっとこってヤツだよな。あれって鍛冶でも使う道具じゃん。そんなの持たせてたら、マジで舌を引き抜こうとすんぞ。
……忘れよう。今だけは。……合流も、まだまだ先のはずだ。それまでは。
『とりあえず、俺は俺で、予定通り、ガンバロ……』
目下の目標としては、島を離れるまでテイム&レベリングするしかない。……と、なれば、まずは、リビオンも増えたことだし、レテの補充とルインの増強を進めに、それと気になることもあるから、その確認のためにも、沼地まで行きますかぁー!
そうして、俺は眷属を引き連れて、日照る沼地での活動を開始した。
しばらくの間、テイム&レベリング、それにアイテム収集を眷属の力を借りて進めることが出来ていた。幾らか移動をしてみても、沼地周辺にはプレイヤーの姿もなく、また強敵と言えるほどのモンスターも現れなかった。
俺達は、悠々自適、平穏無事に【Evernal = Online】ライフを送っていた。
『ふぃー……かなりの数になったなぁ』
日が高く上った頃、沼地から離れた岩の上で食事休憩を挟み、ハーブ茶で一息ついていたのだが、増えに増えた眷属が一堂に会する光景を見て、自分で驚いていた。
その数――総勢百七十六体の大所帯だからだ。
リビオンは、合計一二体。内男型が六体、女型が六体だ。
レテは、合計一二体。その全てが、リビオンと共にある。
スルトは、合計二十一体。内戦闘員一八体、非戦闘員三体だ。
ヌトは、合計二十体、内二体だけ俺と子スルトが纏っている。
その他全てのヌトは、基本的に戦闘スルトと共にあるのだが、リビオン含め、四つに分けられた部隊で、その時々で乗り移る先を変わりながら行動している。
これら、リビオン&レテと、スルト&ヌトの戦闘の主力部隊だ。
従者スルトは、俺の御世話係というか補助部隊だ。ヌトの守りが必要かを問えば、古城で拾った布をエプロンのように巻いているから良いそうだ。
次に、威力偵察も行えるルインとヨルズ偵察警戒部隊の内訳は。
ルインは、合計二五体。ここまで増やせた。内十体は上空警戒と遊撃、もう十体は休憩を繰り返し、残りの五体は、俺の周辺での護衛を任せている。
ヨルズは、合計八六体。ここまで増えていた。意外と隠密能力が高く、それも相まって生存能力が高まっているらしい。内八体は子供で、従者スルトの籠の中にいる。
それが現在の俺の全勢力の内訳だ。
新たに加入したレッサーと、進化を果たしたノーマルランクが介在する勢力であり、またモンスターとも思われていないような低等級の――ヨルズ、レテ、ルインなどの眷属が数多く属する勢力でもあるから、数はかなり多く見える。
こうして集まったところを見れば、圧倒されるだろう。
そんな光景が広がっているのだが、まだ俺としては戦力的に他を圧倒できるほどの力はないと思っている。だから、油断は出来ないと俺は見ている。これほどまでの数を持っていることに驕らず、まだまだ精進せねばならないはずだ。
それこそ、他のプレイヤーに負けぬくらいにな。
とは言え、今なら同等ランクには、負けない自信はある。犠牲を払う覚悟は必要だろうが、同等ランクプレイヤーにも適うだろう。もし、俺より一つ上のⅣランクと当たれば、どうなるか。搦め手ありきでも、半壊は覚悟しないといけないだろうな。
そうは言うが、しかし、この戦力を持って思うことはある。
テイマーは――決して弱くない、と、いうことをだ。
ただ、眷属モンスターを失うと、結果的に弱くなってしまいやすいだけだ。眷属使役型系のプレイヤーなら、それは同じだ。それ以外は、累積経験値に能力や金銭類込みで、一割程度の減少しかないだろうからこそ、目立ってしまうだけだ。
失えば――ゼロだ。
勝利すれば、眷属を失ったとしても魔石だけは回収出来る。しかし、敗北すれば、何も残らず、失ったままだ。眷属こそがメイン戦力であるのだから、切り崩されるだけでも、全滅などしようものなら、戦力低下は甚大だ。
眷属は――金で買えない。
戦士であれば、武器を失おうとも、金さえあれば、簡単に武器を用意できてしまう。それに育成の必要も無いんだ。リスポーンして、デスペナルティを待つ間にでも、鍛冶屋や商屋から手にすることも可能だ。
その差が――優遇と不遇を決めている。
何事も見え方の違いだろう。バランスの取り方の違いでもある。それだから、失えば御終いというデメリットばかり見えてしまい、大戦力を持つことが出来るというメリットを、とても良いとは思えなくなってしまっているだけだろう。
強くなるためには――屍を乗り越える覚悟が必要なだけだ。
最後に勝てばいい。勝たなければ何も残らない。勝てば残すことが出来る。だから、テイマーは犠牲を払っても勝ち続けるしかないんだ。それが出来ないのなら、いずれ諦めることになって、そして、他の職業へと移ることになるだろう。
テイマーとは――そういうものだ。
人はそれぞれ、何かを代償にする必要がある。時間や金、人や物、何かを得ようとすれば、代わりに何かを差し出さねばならない。それはゲームでも、現実でも、同じことだ。それをテイマーで言えば、眷属がその代償の大部分となるのは当然だ。
俺は、この強制人生縛りの上に――人生を賭けた。
眷属と、共にあることを――選んだ。
勝利を――掴むために。
『……うん。まだまだ始まったばかりだ。……頑張ろう』
そう呟いた俺は、岩の上に立ち上がり、遠くに見える海を眺めた。
『もうそろそろ結果が現れる頃だが……お、やっぱ、そうか?』
太陽が真上から少し傾いた頃、時間で言えば――丁度、【Evernal = Online】がオープン開始したのと同じ時間だ。
先日、発表されたイベントが、発生するのと同じ時間でもある。
その内容は、2ndエリアからノーマルランクのモンスターが1stエリアの各村々に街や都市にかけて襲来するというものだ。
イベントが発表された当初、俺は1stエリアに囲まれているこの島には、関係のないことだと、あまり気にかけていなかったが、ある時、ふと疑問に思ったのだ。
本当に関係ないのか――と、だ。
この【Evernal = Online】開発者、こと、
そこで、もし関係がないのであれば、一部地域に、や、限定的に、などの文言をイベントインフォメーションに記載しているはずだと思ったのだ。
だから、俺は、確かめることにした。
すると、どうだろう。この1stエリアである島と、1stエリアに囲まれた周辺以外に、2ndエリアが隣接している地域があることに気付いた。
そこは海だった。海のエリア設定は特徴的で、1stエリアは浅く、2ndエリア、3rdエリアに行くにつれて段々と深くなるような設定になっていた。
つまり、この島のすぐ近くにも、2ndエリアが存在していたのだ。
内海に浮かぶ島の東側だ。そして、その2ndエリアは、1stエリア、沼地、古城、島の中央に存在する〈アストロスの街〉と、直線状に繋がっていた。
そのことに気付いた俺は、推測が正しいものかを、この島自体がイベント対象エリアなのかを、この目で確認することにしたのだ。
俺が用を終えてもまだ、この場所にいるのは、そのためだ。
もしモンスターの大群が押し寄せたのならば、思いがけぬペースアップになるはずだ。それに今は、周りにもライバルであるプレイヤーの姿がない恰好の状況だ。
故に、一気に加速させられるかも、という思惑を描いている。例え、モンスターが幾分か北と南の漁村へ流れても、ここが絶好の狩場となるはずだからだ。
『……お、……ははっ、……待ってろよプロゲーマー』
プロとアマの圧倒的な差とは――使える時間と知識量だ。
それが、俺が思うプロアマの一番の差だ。ゲームプレイが上手い下手などの才能を引き合いに出しても、突き詰めれば、その差がものを言うことになる。
才能や努力は、差を埋める手立てでしかない。それに胡坐をかけば、そこで止まる。それは、このVRMMO【Evernal = Online】においても、同じことだと思う。
現状――俺は、圧倒的に負けているだろう。
個人と仲間にライバル、沢山のサポーターに潤沢な資金、情報収集能力も高く、あらゆる検証を行えるだけのゆとりもある。まさに万全の体制が整っているはずだ。
そんな相手を覆そうと食って掛かったとしても、そう易々と覆らないだろうし、並大抵のことでは揺るがないだろうが、それでも俺は個人で同じ土俵に立つと決めた。
だから、少しでも追いつくために、俺なりの道筋を立てて、遠回りしようとも突き進む。そうすれば、これ以上、離されることもないだろう。
どうせ、今も、彼らは遥か先の土地で、俺と似たようなことをしているはずだ。もしかすると、俺が思いがけないような、効率の良い経験値稼ぎをしているかもな。
『……ぜってー追いついてやるからな』
そう意気込んだ俺が、拳を突き出した先――そこでは異変が起こっていた。
モンスターが海の向こうからやって来たのだ。それが次々に、沼地を渡ろうと押し寄せて来ていた。その光景が俺の目の前に広がっていた。
そのモンスターの群れの数は、優に百を超えていた。
シーゴブリンが多い、ところどころにサハギンにオクトメイジの姿がある。……奥からは、シェルタートルやクラブマンらしきモンスターの姿も見える。
それらが、海から沼地、そして、俺が立つ岩のある草原地帯へと進行している。
そのどれも、くすんだ赤青緑のカラフルな色合いで、エラにヒレ、触手に甲殻と、海洋生物――海型モンスターらしい特徴を持っている。
見下ろす標的達が、沼から上がる、その瞬間――
『よぉーし、お前達っ! 準備はいいなっ? ……――迎え討てっ!』
――俺は、握りしめた拳を解き放った。……すると、眷属が、一斉に動く。
波をせき止める壁のように立ち並ぶリビオンを主戦力とし、スルトが前衛補佐として間を埋め、並みいるモンスターの群れを一体、一体、次々に打ち払っていく。
剣に斧、槍に長柄、弓に盾と不揃いな武器防具を身に備えた部隊だが、その連携は見事に統一されている。武器の特徴を捉え、得手不得手を補い合っていた。
その中でも――死神スルトの戦果は凄まじいものだと思える。
突出した二体のスルトが、ヌトを羽織った黒衣の姿で、大鎌を振っている。その様は目を引き付けられてしまう。それは、まさに俺が思い描いた通りの姿だった。
一振り薙げば、崩れ落ち、一振り刈れば、首が舞う――といったように、二体が背中を預け合いながら、踊るみたく、悠々と廻っている。
しかし、まだまだ――モンスターの群れは、こちらへ迫るばかりだ。
『ルインは
上空を舞うルインが、部隊の一部分に集中し過ぎないように、まだ沼地を渡ろうとしているモンスターを間引いていく。
ルインの背後や側面からの滑空攻撃に、たまらず気を逸らして視線を外せば、それだけで進行が遅れる。その間に、前衛部隊がモンスターの群れを処理していく。
ヨルズもまた、陸地へと上がったモンスターが、前衛部隊の側面を突かないように走り回って妨害と誘導の役割を担ってくれている。
さらに、ヨルズが戦場に落ちた魔石の回収を行い、補給と強化を推し進めてくれているお陰で、後方に控えるレッサーランクの眷属がメキメキと育っていく。
『いいぞ! この調子だ! 全部、狩り尽くしちまえ!』
まだまだまだまだ――始まったばかりだ。
既に何十という数のモンスターを狩っているが、減るどころか増すばかりだ。
まだまだまだまだ――終わらない。
見えぬ向こう側から溢れ出す、獲物の群れを前にして、笑みが浮かぶ。
まだまだまだまだ――これからだ。
『――こっからプロテイマーの力を見せてやるぜ!』
第一章【己が望む死への道筋】‐完‐
第二章【人が望む死への定め】へと……続く?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これにて第一章完結致しました。
そして、掲示板会である幕間を挟みまして、次章へと移ります。
次章である第二章に続くかどうかは、この作品に対する読者様のレスポンスを見て、更新継続か打ち切りか、の判断を決めさせていただこうと考えております。
読者様が面白いと感じない作品を、無理に書き続ける必要はないと判断し、それならば別の作品に時間と労力を費やしたいがためでございます。
少しでも面白いと思ってくださったのなら、評価等々、何かしらのレスポンスを頂けましたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます