RIP~強制人生縛りのVRMMO~
森瀬 井叉哉
第一章――己が望む死への道筋
第0話 過去回想
≪ようこそ――Evernal = Online――へ≫
『きったきたきたきた……』
≪初めに――≫
『来ったァーーーーーーッ!』
≪バイタルが異常値を計測。落ち着いて深呼吸を――≫
『いーや、無理でしょ! 落ち着いてらんないって!』
高鳴る鼓動。けたたましく鳴るアラート。二つの音が重なり合う。
『次っ、次っ! いいから早く始めさせてくれ!』
目の前に現れた警告メッセージを腕で振り払い、ゲーム開始を主張する。
流れる文字列を読み飛ばし、新たな文字列を催促するように〈次へ〉を連打する。
俺は、今現在こうして、長らく待ち望んだゲームの、その入り口の前に立っているというのに、居ても立っても居られないほどに昂ってしまっていた。
『しゃっ! 来た! キャラクター設定だ! ……ッし、これで……良い』
手早く、迅速に、かつ、正確に。
予め、登録していたキャラクター情報の設定を投影させた。
すると、ついに現れた。念願の〈開始〉という文字が目に映った。
『待ってろよーっ! ……プロッ、ゲーマーッ!』
白い光に包まれていく最中、俺はあの時の光景を思い返していた。
――あの時から、俺の人生は一変した。
眩しさに目を細めながらも、夢、希望、未来の姿を思い描いていた。
――俺がプロゲーマーとなれる道筋が、見えた瞬間だった。
これから先に広がる楽園世界への期待を胸に、思い馳せていた。
――ここからが、夢を掴み取るための〈スタート〉だ。
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「このゲームは、チュートリアルなどない……」
仏頂面の男は、新作VRMMORPGタイトルの発表会で、そう言った。
「……そして、説明通りに進めてクリアできるほど、ヌルいゲームでもない」
俺は、この瞬間、その男が放った言葉に、打ち震えた。
男の名は、
夢幻の先の無限へ。第二世界の一欠けら。ファンタジー≒リアル。
荒谷の背後には、先ほど紹介されたばかりのPVが流れ続けている。俺は荒谷の言葉を聞いてようやく、テーマでもあり、コンセプトである文字列の意味が、今になって理解出来たような気がした。
その言葉を聞くまでは、ハイクオリティ、面白そう、このゲームなら期待してもいいかもしれない、と、そんなようなことを呑気に考えていた。そして同時に、あわよくば、俺に合ったゲームで、プロゲーマーを目指すことのできるゲームであれば、と期待混じりに、だが、あまり期待を寄せないように、ぐっと堪えつつ、押し殺すように、その後の説明を待っていた。しかし、どうだろうか。その荒谷の言葉を聞いて、押さえつけられていた俺の期待が、あまりに簡単すぎるほどに弾けてしまった。
だが、それだけじゃなかった。
次の瞬間、前のめりになっていた身体が、反対に大きく仰け反ることとなった。
簡単な質疑応答のていの、司会進行役の男とのやり取りを終えた荒谷が、
「サービス開始から、ゲーム内時間の一年後、大規模大会を開催します」
と、唐突に、重大ニュースを発表したからだ。
俺は、次いで出た荒谷の言葉に耳を疑い、驚きのあまり、モニターへと向かって『大会?!』と、何度も聞き返してしまっていた。それほど、俺にとっては、まさに、期待していた以上のことだった。だから、俺は、大規模とは、大会とは、どれくらいの、というように、疑問を浮かべつつも、語られていく説明を聞き逃すまいと食らい付いた。
荒谷の説明によれば、それは――〈最強〉を、決める戦いだった。
個人最強、パーティ最強、クラン最強、そして――世界最強を決める戦いだ。
既存の国別サーバーにおいて、国と地域の人口比率によって割り当てられるワールドの中で、最強の名を手にした者には、膨大な賞金が与えられる。
国内大会の個人は1億円、パーティは5名に各5千万円ずつ、クランは30名に各3千万円ずつ、世界大会の個人が10億円、パーティは5名に各5億円ずつ、クランは30名に各3億円ずつ、それに上位入賞者と特別賞者が、賞金を得られる規模の大会を開くと、荒谷は言った。
その額――賞金総額にして、約1000億円以上の規模、らしい。
それが、サッカーや野球、ボクシングやテニスなどの世界的メジャースポーツであれば、過去には排出されたこともあるだろうが、いくらVR機器開発企業の関連企業で、ゲームメーカー大手とは言え、一企業の一ゲームで出す賞金にしては、あまりに馬鹿げた金額だった。
俺は、嘘だと思い、無理だと感じた。だが、そんなように疑いの目を向ける者を信用させるための備えとして、用意されていたスポンサー、協賛企業の名の羅列は、映画の字幕よりも多く感じるほどだった。それ故に、この男が言っていることは本気なのだと信じざるを得なかった。
更には、ゲーム内外問わず、リアルにおいても、個人の部優勝者が望むことを許す限り一つだけ叶えると言ってしまった。流石に「何でも」とは言わず、また、運営と融資者の間で協議を重ねたの上での話だが、それでも願う望みを――賞金とは別にして――叶えるとの発言があってしまった。
その日は、まさに、eスポーツにおける革命の日だと思えた。
VRマシンが全感覚没入型へと移行した新時代から数年、ありとあらゆるゲームが開発された。過去、アニメや小説などで見られたVR技術の夢を現実の元に成した作品が数多く存在する現在、その現在までのeスポーツにおける歴史においても、未だ見ることのなかった最大規模の大会だった。
eスポーツも盛況であるし、タイトル別での大会が開催されてもいるが、これほどまでに力を注ぎ込んだ作品はなかった。これまでは、人気が出たから大会を開こう、という考えが主流であり、新作ゲームのタイトルの発表会で言及されるとしても、大会を予定している、くらいの発言しかなされなかった。
だから、その本気度合いに胸を打ち抜かれてしまった。気付けば、俺も本気になってしまっていた。発表会が終わるよりも前に、当然のように俺もこのゲームに参加するのだと意気込んでしまっていた。そうなる位、この男に、荒谷の作り上げたゲームに、惹かれてしまっていた。
その時、このゲームにeスポーツ人生を捧げようと決めた。
VR技術の発展により、社会は大きく変わったとされる現代で、何故なにが悲しくて、プロゲーマーとして引退時期に差し掛かっている24歳にもなってもまだプロを名乗ることも出来ぬままで、リアル居酒屋でのアルバイト生活を送り続けねばならぬのだと思えた。
プロゲーマーを漠然と夢見て単身上京し、しかし、好きは好きだが、これといってマジの本気になれるゲームもなく、それだからか、ある一定以上の実力が付けば、上達も出来なくなり、ゲーミングチームへの所属も出来ぬまま、燻ぶり続けていた。だが、そんな生活から、本日をもって脱すると、気が付いたときには決めていた。
後には引けぬ状況へと自らを追い込むには丁度いい。ワンちゃんと呼ばれる毎日とおさらばしよう。この勢いのままアルバイトを辞めて、このゲームに俺のもてる全ての時間を注ぎ込んでやる。それでダメならプロゲーマーを諦める。これが最後のチャンスだ。と、思い立った。
その瞬間、俺の人生が動き出した。
発表会を見終えた後すぐ、玄関扉を飛び出して、マンションの一階へ降り、まだ開店準備中の居酒屋に駆け込んで――クソほど怒られたんだっけ。それでまだ始まってもいない、これからβテストが始まるだけのゲームのことを、こうなった成り行きを店長の――茅野さんに話すハメになったんだ。
βテストに参加した者は“先駆者”となり、オープン参加者との差が生まれ過ぎてしまうため、サーバーリセット後のオープンより現実5日間/ゲーム内時間において15日間の遅延スタートとなる。だから、それまで働けと言ってくれたが、それさえも断り、現実3か月間の長きに渡るβテスト期間を情報収集に努めることにした。
正直、貯金は心許なかった。まだカプセル型のハイエンドVRマシンのローンも返しきれていない。わざわざ、割が良く、勤務体感時間が短い、リアル居酒屋で働いていたのだから、余裕などないことは分かりきっていた。とは言え、不安はあったし、今も考えたくはないが、それでも、今出来ることに打ち込んだ。
【Evernal = Online】が、始まれば、後はどうだって良かった。
各企業、プロゲーマーチーム、有名サークルなどの団体が、大会参加の表明が相次ぐ度に、溜息を吐いたし、たじろぎもした。だけど、次の瞬間には、個人で勝てたのなら、それは凄いことだから、名も知れるだろうと無理矢理に、自らを奮い立たたせ、『やってやる』と強く拳を握り締めていた。
実際問題、個人が団体に食らい付くことなんて厳しいことだ。大金も人員も掛かったサポート体制は、個人では打ち勝つことなんて出来やしないからだ。βテストに人員を送り込んで情報を簡単に得られるし、独占も出来てしまう。俺なんて個人ブログや掲示板に書き込まれた情報を搔き集める位のことしかできなかった。
情報は秘匿され、元々これでもかと開いていた差が、ゲーム開始前から開きに開いた。離されるばかりで縮まることのない差に愕然とした思いもあったが、追いつけないとは思いたくなかった。ずっと歯を食いしばりながら『追いついてやる』『待ってろ』と悔しさを糧にしていた。
だからこそ、答えを見つけた時に、思わず叫び声を上げてしまったんだ。
【Evernal = Online】は、ファンタジーを題材としたVRMMOだ。ヒューマン、エルフ、ドワーフなどの各種族に加え、ウィザード、クレリック、ファイターなどの各種職業めいたものが存在する。種族と職業別参考ステータスタイプを選び、自らのキャラクターを生み出すのだが、その内の一つの組み合わせに答えを見出した。
その答えは、ある種ネタとして数多くのβテスターが投稿した捨て情報から得たものだ。彼ら曰く――テイマーは地獄だそうだ。元々、生半可な難度で設計されたゲームではないため、当然と言えば当然なのだが、そこには五つの試練、十の不遇要素とも言われるほどの苦行が並んでいた。
それだからか、他の作品では人気職業のはずのテイマーが、地雷職として認知されるのにも、時間はそう掛からなかったように思う。だが、俺にとっては、これ以上にないほど適していると思えた。勝つための手段としては、テイマー以外には考えられないとさえ思えた。だから、
いつもなら迷うはずの、キャラクター作成は、驚くほどスムーズだった。
名前:カイナ 種族:ハーフリング
身長:100cm 体重:17㎏
特性(職業)別ステータスタイプ:テイマー
ステータスタイプ:ハーフリング&テイマー簡易成長倍率表と特性
HP≫ STM≫ MP≫≫≫≫≫≫++
POW=STR(筋力)≫ SEN=DEX(器用)≫
DEF=VIT (生命)≫ MAG=INT(知能)≫
SPD=AGI (敏捷)≫ MEN=MID(精神)≫≫≫≫≫≫+
スキルセット:テイマー
迷いのなかった俺は、見た目が4歳児相当になるのも厭わず、ハーフリング&テイマーの特性――MP総量とMP回復力特化へと、自らが選択して割り振れるステータス+ポイントまでをも振り切った。MP関連以外は、戦闘力皆無どころか運動能力も一般人以下のステータスタイプにした。そうして、作り上げたキャラは、
昔に見たアルバム写真の中の――幼少時代の俺の姿だった。
そのちんちくりんな姿を見た俺は笑ってしまっていた。それと同時、期待が希望へと変わっていくのを感じていた。それは、将来がどうなるかも知らず、分かりもしていなかった過去の自分と、何も成し得ていない今現在の自分が、同じ夢を胸に抱えて向き合っているような気がしたからだ。
ハードモードと称される、この世の人生。その只中をいくが、何も上手くいかず、挫折を繰り返すだけの、そんな俺が、これからの人生と夢を賭けて、ハードなゲームへと挑戦するというのだ。その滑稽さも相まって、途轍もなく面白おかしくて、仕方がなかった。
あの時は、幼少時代に覚えた、漠然となんでもできてしまえるような万能感を、久しぶりに味わった。大人になってから忘れていた感覚を久しぶりに思い出して、そして、俺は気付くことが出来たんだ。〔なんでもできるけど、なんでもはできない〕ということを知った――……
「君は、何ができるのかな?」
『はいっ! アタッカーでもサポートでも何でもできます!』
「……じゃあ、その中でも特に得意なポジションは、何かな?」
『ええーっと、……チームによって違うと言うか、その時々でー……』
……――とにかく、プロゲーマーになりたかった。
今思えば、面接官求めていた答えとも違うし、チームに求められる個人でもなかった。だから、折角、面接にまでこぎつけた機会を棒に振ってしまった。必死だった俺は、必死になりどころを間違えていた。何か一つだけでも、胸を張って出来ることを見つけ、その能力を伸ばすために必死になるべきだった。
でも、なんにも見えていなかった。馬鹿な俺は、チームに所属さえすれば、なんとかなると思っていた。その才能を持っていると思っていたし、努力さえすれば新たな才能を開花させられると妄信していた。でも、人生は、そんなに甘いものじゃなかったんだと、あの時に思い知った。
だから、今度こそ〔なんでも出来る可能性の中から俺だけの才能を見つける〕そして、夢の実現を成し遂げよう。【Evernal = Online】は、可能性の塊だ。それだけ沢山の、希望に満ち溢れている。俺は、この選択を後悔しない。だって、これが、俺の個性だからだ。
ここからが、始まりだ。
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≪
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≪これよりゲームを開始致します≫
*末尾 作者コメント*
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
この度、これまで執筆を続けていた作品が完結に至りましたので、新作を試験的に投稿(13万文字までストック有)させていただこうと考えております。
試験的、それすなわち、この作品に対する読者様のレスポンスを見て、更新継続か打ち切りか、の判断を決めさせていただこうと考えているということです。
読者様が面白いと感じない作品を無理に書き続ける必要はないと判断し、それならば別の作品に時間と労力を費やしたいがためでございます。
*ランク100位以上、もしくは、捉えられるだろう圏内に入ることが、万が一にでもございましたら、確実に継続投稿致します。
ですので、少しでも面白いと思ってくださったのなら、評価等々、何かしらのレスポンスを頂けましたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
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