10予想のつかないことばかりが起きる
「青山です。入ります」
ミーティングルームに入ると、部長と目があった。
俺は凍りついた。
てっきり人事部長が俺を呼んでいると思いこんでいた。
しかしミーティングルームに座っているのは、営業チームのボスとも言える事業部長だった。
事業部長は「部長職」のなかでもかなり上の立場。
実際、会議でもあまり会ったことがない。
俺と関わるとすれば、展示会や大きなプロジェクトの際くらいか。
その事業部長が神妙な顔をしてこちらを見ていた。
「青山くん、どうぞ掛けて」
正面の椅子を勧められる。
「失礼します」
「さっそくだけど、本題に入っていいかな」
「どうぞ」
事業部長は無駄話をしない。
アイスブレイクもなしに単刀直入に話をしてくるのが特徴だった。
セクハラの件なら、人事部が対応すると思っていたのに
なぜ事業部長がわざわざお出ましになったのだろう。
営業部内での不祥事だからだろうか?
「まず、なんでも正直に答えてほしいと思っている。ここで聞いたことは口外しないし、解決方法を一緒に考えていきたいと思っている」
「・・・・・・はい」
思わず、暗い声で答えてしまった。
「太郎丸茶舗の件なんだが」
「ホワッ!?」
事業部長の予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声が出た。
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事業部長の話を要約するとこうなる。
老舗和菓子チェーンである太郎丸茶舗の社長が、急に
「今後、うちの製品は購入しない」と言い出したというのだ。
取り急ぎ、事業部長とその取り巻きが太郎丸茶舗の社長のところへお伺いに行ったのだが会ってくれない。
ただ、伝言として社長の秘書から聞いた話では
「おたくの社員とわが社の社長の間でなにか問題があった」
という話であったという。
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事業部長は、関わりのありそうな社員に声をかけ、「思い当たるフシがないか」聞いているようだった。
事業部長は俺の目を真っ直ぐ見つめ
「傷の浅い今のうちに正直に話してくれれば、人事考課にも影響しないと約束する」と言った。
「思い当たることは、ありません」
そう答えた。
あぁ~、セクハラ疑惑の件じゃなくってよかった!
胸をなでおろした。
太郎丸は自分の担当でもないし、社長なんて顔も見たことがなかった。
しかし次の瞬間、俺のアタマの中で警報がなった。
もしかして?
クマさんの不倫相手の旦那は、由緒正しい老舗の跡取りと言っていなかったか?
ま、まさか。
妻を寝取られた復讐として、製品の不買?
事業部長は眉をしかめて
「うーん、そうかぁ、やはり無いか。太郎丸を担当している営業も、修理の人間も全く見に覚えがないと言うんだ。一体どうなっているのか。
太郎丸がうちから手を引くとなると、知っての通り、かなりの痛手となるんだ」
ブツブツ言いながら、事業部長は手元にあるPCを眺め、なにやら検索していた。
おそらく、名簿かなにかだろう。
クマさんは、もう事業部長との面談は終わったのだろうか?
「青山くんはもう行っていいよ。次は船山さんを呼んできて」
事業部長は俺の方を見てニッコリと笑った。
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