8ヤバい立場になってしまった

いきなり後ろから抱きつかれて、俺は心臓が飛び出しそうなほど驚いていた。

真っ昼間だし、ここは会社!

こんなコトされるなんて、予想がつかないではないか。

たぶん寿命が少し縮まったと思う。


背中に女の体温と柔らかさを感じた。

それから熱い息も。


「青山さん」


呆然と立ち尽くす俺を、後ろから抱きしめてくる女。

彼女は器用に俺のワイシャツのボタンを外し始めた。

シャツの間から、手を差し込んでくる。


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俺に抱きついてきた女は、二条紗英。

隣の課の女で、仕事ができると評判。

いつも会議では褒められていたし、営業成績も良い。


ピチピチのタイトスカートを履いていて、色仕掛けで仕事を取ってくるのではないか?

そんな風に言うヤツもいたっけ。


俺は二条紗英に

「青山さ~ん、どうしても見つからない部品があって。一緒に探してもらえませんか?」

と頼まれたのだった。


部品倉庫は、会社の地下にあり普段はあまり人が来ない。

つまりは二条紗英と俺は、密室に二人きりになった。


「あぁ、この部品ならこの棚にあるから」

俺は完全に油断していた。


いきなり彼女が俺を後ろから、羽交い締めにしてきたのだ。


誰でも驚くと思う。


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「ちょっと待って」

「待てないです」


二条さんは、ボタンの外れたワイシャツの隙間から手を入れてきた。

彼女の冷たい手の感触を感じ、俺は我に返った。


「二条さん、なにか勘違いしていると思うけど」


クマさんのせいで、俺は「大豪邸に住むお坊ちゃま」として、社内で知れ渡ってしまっていた。

二条さんは、俺が資産家かもしれないと思って近づいてきた。

そんなところだろう。


ちゃんと説明しなければ。

確かに金はあるけど、贅沢するつもりは全く無いのだということを。


俺は、彼女の束縛から逃れ、後ろを向いて、彼女と目線を合わせた。

「あのね、二条さん、俺は」


「青山さん!ごめんなさい、私」


二条さんの大きな目から涙がこぼれ始めた。


えっ・・・・・・

なんで泣くの?

俺が悪いの?


アタマが混乱した。


そこにさらに悪いことが起きた。

事務のおばちゃんが倉庫に入ってきたのだ。


俺はズボンからワイシャツがはみ出て、ボタンはところどころ取れている状態。

二条さんは、「ひっく、ひっく」と嗚咽を漏らし泣いている状態。


事務のおばちゃんは、

「に、二条さん大丈夫!?」と彼女の方に駆け寄った。

俺が被害者なのに。


「大丈夫です、なんでもないんです」

泣きながら答える二条さん。


おばちゃんは二条さんの背中をさすりながら、俺の方をちらっと見た。

その視線は「なにやってんのよ」という表情だ。


「とにかく、ここを出ましょう」

おばちゃんと二条さんは倉庫から出ていった。


あれっ?

俺、ヤバい立場になってる?


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