6会社の先輩に秘密が知られてしまう

「で、お前んち、どっち方面?最寄り駅は?」

駅方面にむかって歩きながら、のんびりとした顔でクマさんが聞いてきた。

人妻にストーカーされ悩んでいるようにはとても見えない。

クマさんはもともと細かいことを気にしないポジティブ思考の強い人間だった。


「渋谷です」

「へぇ、会社から近いんだな」


こうなったら仕方がない。

ウチに泊めるしかない。

ウチに着いたら、クマさんには「ウチのこと」を社内で絶対に内緒にしてほしいと頼み込むしか無い。


「そういえば、クマさんの実家は栃木県でしたよね。家族で都内に住んでいる人はいないんですか」

一縷の望みをかけて聞いてみる。

「いない。妹は栃木で結婚して家まで建ててるしな」

「あぁ。そうなんですね」

親兄弟に泊めてもらうわけにもいかないのか。

自然とため息が漏れた。


「なんだ、俺が泊まるのそんなに気が進まない?」

しょんぼりした声で聞いてくる。

俺は慌てた。

「そっ、そんなことないですよ。ただちょっと戸惑っていて」


渋谷駅に着いた。

「渋谷ってやっぱ人多いな。あんまり来たこと無いんだ。俺の担当の代理店って、だいたい荒川区とか足立区が多いからさ」

クマさんは一人で喋りながらキョロキョロとあたりを見回していた。


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「ここが青山のアパート?というか、ここってアパートじゃないよな。やけに横に広い。大豪邸じゃねーかっ」


予想していた反応だった。

大学の友人をウチに呼んだときもこんな感想だったし。

同じ「環境・境遇」で育ったヤツなら、なにも反応せずに家に上がり込んでくるのだけど。クマさんは、そうではないようだった。


「クマさんまぁ落ち着いて。近所迷惑になるので、家に入って」


「渋谷駅から歩いて5分もかからなかったぜ?ここって、いわゆる都内の一等地だよな。隣近所も豪邸ばっかだし」


この反応は想定内だったが、やはり連れてきたことは失敗だった。


俺が都内の一等地の豪邸で一人暮らししていることは会社の人間には知られたくなかったのだ。


「広っ!玄関が俺のアパートよりも広い」

「それは大げさでしょう」

「いや、まじだって」


「いま、お茶を淹れるんで、そこに座っていてください」

リビングにいくつもあるソファの一つを指差す。


クマさんは、ソファに腰掛けると

「うわっ、ふっかふかだな」と声を上げた。


「ご家族と一緒に住んでいるのか?一人暮らしっていうのは嘘?」

「いや、一人暮らしなのはホントです。そんな嘘ついてどうするんです」

「じゃあ、いったいどういうわけで、こんな暮らししてるんだよ」


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