5強引な先輩がウチに泊まることに

「泊めて欲しい」

と言い出した会社の先輩。


「えぇえ!ウチですか!?」

突然のことで戸惑う。


「だって俺のアパートには、ちさとが待ち伏せしているし」

「仮に待ち伏せしていなくても、夜中に来てドアをノックされたら隣近所の迷惑になるし」

「また自殺するって騒がれたら部屋に入れるしかなくなるし」


クマさんは次々と、ウチに泊まりたい理由をまくし立てた。


「う~ん、確かにそうですねぇ」


困った。できれば会社の人間はウチに泊めたくなかった。

それには、ある理由があった。

会社の人間に知られたくない理由が。


「1週間くらいで良いからさっ。着替えなんかは、外回りのときスキを見てアパートから取ってくるし」


クマさんには会社で世話になった過去があった。

俺が入社したてで右も左も分からないときに、指導してくれたのは、クマさんだった。

ノルマの数字が足りないときは、「今回だけな」とこっそり情報をくれ、なんとか乗り切ったことも数回あったっけ。


「困りましたね」


クマさんの頼みごとは大抵二つ返事の俺が、黙っているのをみて不審に思ったらしい。

「まずいのか。青山、一人暮らしって言ってたよな」

「はぁ。まぁ一人暮らしですけど」

「そうか。彼女がくるのか」

「今付き合ってる人は特にいないんですよね」


そこまで言ってハッとした。

アホか!

「彼女が来る」とか「実は家族と住んでいる」

とか嘘をついて、断ればよかったのに。


「じゃあ問題ないな。明日早いなら、そろそろ行くか」

クマさんは、伝票をつかむとカウンターの椅子からサッと立ち上がった。


強引なクマさんの流れにまんまと乗せられている。

はっきり断れない自分に腹が立つ。


どうすればいいのか、アタマを高速で回転させたが、なにも浮かばなかった。



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