2久しぶりの元カノの声

「しかもイギリスじゃないし。アメリカに行ったのよ、私」

「あぁ~~~、そうだったよね、アメリカ、アメリカ」


電話の向こうで小さなため息が聞こえてきた。


「でもなんで今、日本にいるの?なんか日本に用事とか?」

「うーん、実はね、会社辞めちゃった」

「やめたぁ?」

「いろいろあってね」

「ふ~ん。そうなんだ」


俺の元カノ、桜田澪は、Web関連のマーケターとして

それなりに稼いでいた。


1年くらい前だったか?

会社から海外赴任の辞令が出て、

「わたしは海外でも通用する女になる」

と意気揚々と飛び立っていったのではなかったっけ。


おおかたホームシックになったか

アメリカでの生活に順応できなかったのだろう。

「じゃあ今は無職かよ」

「求職中。もう有名企業から20通くらいオファーが来てるんだから」


バリキャリだった澪が無職とはなぁ。

だが、一流大学卒だし、前職は有名企業だから、引く手あまただろう。


「順。近いうち会えないかな」

少し深刻な声で彼女が聞いてきた。


会う?会ってどうするんだろう?


不審に思った俺が黙っていると、

「あっ、もしかして彼女ができちゃった?」

と聞いてくる。


「いやー、あれから一人だわ」

「じゃあいいじゃん、晩ごはん食べよう。奢るし」

「うーん、来週はけっこう忙しいんだけど」

PCのカレンダーをみながら考える。


「暇ができたら俺から連絡するわ。ラインまだ生きてるよね」

「なんだ、そんなに忙しいの?わかった。空いてる日があったらラインして。絶対だよ」

暗い声の彼女。

悩みでもあったんだろうか。


無理してでも時間作ってやるべきだった?

でももう俺は「彼氏」じゃないし。

彼女に対する気持ちは完全に冷めていた。

あわよくば、復縁したい、なんて気持ちは無い。


だから彼女の方も、俺に対して未練とか、変な気持ちがないと良いんだけど。

そんなことを思うくらいなら、会わなきゃ良いんだよなぁ。


「忙しい」と言い訳して、のらりくらりとかわせばいいか。


誘われたらはっきりと断れないこの性格、なんとかしないといけないな。







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