滅びの天使

不死裂@秦乖

プロローグ 天使襲来

 俺────百鬼真司ひゃっきしんじは今、ありえないものを目にしている。

 空から降ってくる一人の神……いやあれは天使だ。

 東京のどんよりと重たい雲の中から一人の天使が降りてきた。

 天使は俺と目が合うとゆっくりと近づいてくる。

 俺の目の前に近づいてくる天使は今まで見てきたどんなものよりも美しく、神秘的だった。


「おい! 何だあれ!」

「あれは……天使?」


 どうやらこの天使が見えているのは俺だけではないらしい。周りの人々も気がついてスマホで写真やビデオを取り始めた。だが、天使は視線を全く逸らすことなくまっすぐ俺を見つめながら近づいている。

 間近で見ると天使からはより一層の神々しさを感じる。

 背中から生える白い羽。頭上で金色に光る輪っか。美しく整った顔立ち。まさにイメージ通りだった。

 だが一つイメージとは全く違うところがある。それは俺の目の前にいる天使は鎧を身にまとっていることだ。青色と銀色で装飾された鎧はどこか天使とは離れたイメージをもたせる。まるで最前線で戦う歩兵のようだ。

 俺がそんなことを考えてる間にも天使はゆっくりと俺の方に近づき、とうとう俺の目の前でとまった。


「あんた、一体なんの用だ? そもそもなんで空から降ってきたんだ?」


 天使は俺の投げかけた質問に答えず、その代わりに鎧で包まれた人差し指を俺の腹に当てる。


選択セレクト


 天使が低く、ポツリと一言こぼした瞬間、俺はまるでダンプカーが腹に思いっきり突っ込んできたかのような強い衝撃を感じ、その場にうずくまってしまった。


「あぐっ……はぁ……」


 一体何が起きたのか全くわからなかった。気を失ってしまいそうな振動が体中を駆け巡り、脳を揺らしている。

 ワンテンポ遅れて周囲から大きな悲鳴が上がる。が、そんな悲鳴もすぐに止んだ。ドサドサっという鈍い音とともに、周囲にいた人全員がまるで魂を抜かれてしまったかのようにその場に倒れる。


「え……」


 俺の口から出たのはその一言だけだった。脳の処理が追いつかず、語彙力が喪失してしまっている。ただ一つこの脳で理解できることはこの目の前にいる天使は危険だということだけ。

 俺は一刻も早くこの場を立ち去ろうとするが、天使から先程もらった衝撃のおかげで上手く立ち上がることもできなかった。


「あっ……くっ……」


 足がうまく使えずモタモタしていると、天使が俺に目線を合わせ、口を開く。


「僕はまごうことなき天使だ。君等の概念だと天使は人を救うものらしいね。でも、僕たちはそんなに甘くない。世界を蝕み、破滅へ導く君たちに罰を与えに来た。わかった? じゃあ、そういうことで。さようなら。」


 そう天使がそう言うと同時に、再び俺の腹部に強烈な衝撃が走った。


「あっ……がっ……」


 先程よりも格段に強い衝撃の前に俺はなにもわからぬままその場で気を失ってしまった。

 これが第一次天使テロ事件。今後世界中の人々を恐怖へと陥れる世界最大のテロ事件の最初の物語だ。




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