証言26 HARUTOがやったに違いない(証言者:鞭の天才INA)

 日付けを見た。

 あの戦いから一週間、か。

 あたし達は、何事も無かったかのように“日常”に戻っていた。

 NPCの隊商を襲い、殺し、トタンと有刺鉄線でアジトを補強し、熊や牛を狩って肉を食べる。

 ……酒が手に入れば、仲間達と飲み交わす機会も出てきた。

 こんな世界だけど、トマトやきゅうりで家庭菜園みたいな事も始めた。

 

 フェイタル・クエストは、あたし達プレイヤー側の勝利となった。

 けれど、誰がやったのか、とんでもない規模の核爆発によってマウスタウンは消滅。

 大きなクレーターに放射能まみれの湖が満たされた絶滅地帯となってしまった。

 当然、弾薬工場もろとも。

 バンカーバスターでも炸裂したような爆心地の大穴を見るに、工場に残されていた核が誘爆したと言われていた。

 だから、攻略前に期待されていた弾薬の安定供給は望めなくなってしまった。

 それどころか、ヴァルハラ・クルセイダーズと言う大口の販路が消えてしまった事で、大幅に供給が減ってしまった。

 不満の声は上がったけど、弾薬とか関係ないあたしからすれば、ゲームの寿命が伸びたと冷静に受け止められた。

 いつの時代も、レアアイテムの飽和はMMOの衰退を招く筆頭要素だ。

 被害だけを見れば、ショッピングモールの狩り場潰しよりも大変な事をしでかしたものだが、核発射犯を追求する声はほとんど無い。

 やはり、フェイタル・クエストに勝利した事の方が皆、大事だったのだろう。

 他にあの“フェンリル”を確実に倒す手段があったなら代案を出せ……そう言われて完璧に答えられる者は誰も居なかった。

 ーー命拾いしたようだね。

 あたしは勿論、犯人はHARUTOハルトだと見ている。

 弾薬工場にいた人達の話を統合すると、明らかにGOUゴウに特徴の酷似した人物が浮かび上がってくる。

 彼らについて調べ尽くしたあたしだからこそ、確信が持てた。

 

 核爆発の後、復活したあたしは、いの一番にヘルメットを脱いだ。

 あんなものをまともに受けて、本当に問題なく復活出来ていたのか、気になったからだ。

 所詮はVRでシミュレートされた出来事であって、現実に爆発した核なんて無いのだけど。

 それでも、人類にとって“核”と言うのはそれ程までに重い存在なのかも知れない。

 あたしが特別神経質なだけ、とも言えなくも無いが。

 それで。

 今もあたしは、浴室で鱗汚れに曇った鏡を見ていた。

 長い黒髪の若い女が、そこにはいた。

 VRダイエットで、誇張抜きでヒト一人分くらいの質量が消えていた。

 ……こう言うとイタいと言うのは充分に理解してるけど。

 悪く、無いんじゃない?

 さすがに、女優とかアイドルとかとは比べるべくも無いけど。

 一つ、HARUTOハルトに降参させる方法を思いついたかも知れない。

 ただ。

 は果たして、戦って勝つのとどちらが難しいのか。

 問題と言えばそれくらいかな。

 

 この殺伐とした世界をのんびり、激しく生きよう。

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