証言02 アジトをクラフト(証言者:KAZU)
空気を読んでヒューマン
その為にフルフェイスの鉄マスクをかぶってるのに、誰も気付きやしない。
他人のロールプレイは尊重しろよ。
おれは、近所の倉庫跡からはぎ取ってきたトタンやら有刺鉄線やらでバリケードを作っている。
おれは事実上のリーダーで、こんな雑用をしているのもどうかとは思うが……仲間うちでパワードスーツが一番上等だし、しかたがない。
ちなみに、あのメルセデス・ベンツ系列の会社が作ったDIL-79型だ。覚えておいてほしい。
で、このガソリンスタンド併設セブンイレブンだった廃墟が、おれ達のアジトだった。
おれ達の“一族”はまだできて日が浅く、5人しかいない。
だが、ひとりひとりが優秀だし、おれが苦労して背負いこんであれこれ考えて、どうにか回っている。
いずれはイエス・キリストの使徒を意識して12人規模にしたいものだ。いや、13人だっけ?
そんな中でも、おれが右腕と思って目をかけている男がいる。
ちょうど、その男ーー
赤黒い染みでまだらになった、何かの包みを持っている。
このゲームにアイテムインベトリなんていう便利なものはないから、皆、抱えられるだけの荷物だけを抱える。
女に重いものをかつがせてきたみたいだが、パワードスーツを着ているほうが力仕事を担当するのはまあ、当然だろう。
あと、おれは
おれは、長い髪のにあう上品な女が好きなんだ。
パワードスーツとは
その“骨格”に重苦しい
この世界のパワードスーツも、リアルのそれを完全再現されていた。ふざけたことに、重さとかのデメリットもだ。
確かに、技術の進歩によりその着用感はかなりマシになったとはいえ、ブカブカの防寒具を重ね着しているくらいの窮屈さとぎこちなさは避けられない。
その代わりあいつは、歩兵支援システムを脳にインプラントしているらしく、つまる所、筋力と頑強さを諦めて、反応力とスピードを優先したということだった。
どんな感じなのか一度聞いてみたら、
……体感時間がスローモーションになり、自分のあらゆる打撃・射撃行為の命中率、逆にあらゆる外的要因の接触率ーーつまり被擊確率ーーが常に演算されグラフィック表示。任意で攻守アドバイスも表示出来るが自分はオフにしてある。そして、それらの代償に起動中は全力疾走に相当するスタミナを消耗する。
と、これまた、もったいぶったような間のあと、感情の無いマシンガントークを披露しくさった。
まあ、どんなに身体をいじくって失敗しても“
「……3時方向の“キャンディ”を取り替える。古いやつを撤去してくれ。
あいつが、無愛想に指示して、包みをよこしてきた。
おれに対して忖度なく指示できるのも、この男くらいだ。
で、おれはこのアジトの3時方向に設置した“設備”を見た。
折れた街灯のポールに人間の生首が刺さった“キャンディ”である。
死んだ瞬間そのままの、悪霊みたいな絶叫顔だ。
察しがつくかもしれないが、
このゲームでもナマモノは普通に腐敗する。常に交換してやらないとダメなわけだ。
さっき
今おれ、イイこと言ったな?
……で。
何でこんなことをしてるかっていうと、アジトへの敵避け。
敵対NPCの雑魚どもは、死体を見るとビビって近づかなくなるようになっている。
奴らはおれ達の都合と気まぐれで食われる哀れな獲物ではあるが、こちらのホームでドンパチやられても困る。
しかしまあ、何百と繰り返すうちにおれも慣れはしたが、悪趣味な作業だよ。
古い首を引っこ抜いて投げ捨て、新しい首をブッ刺す。
この設備を提案したのもあいつだった。
おれも含め、他の全員がはじめは躊躇した作業を、あいつは顔面のどこの筋肉も動かさず、淡々とやった。
本物同然の出来だろうと、ゲームで作られた木偶だ。と、冷たく言っていたよ。
まあ、感情のある“中身入り”の
他プレイヤーを躊躇なく殺せるような奴が、それこそNPCの死体くらい、背景としか思ってないだろう。
一応、ユニークエネミーの死体を吊るしておく事で、ある程度こちらの戦力を示す目印にはなるらしいが。
さて、その
ワイヤーに引っかかると爆発する、クレイモア地雷だ。
リアル志向のこのゲームじゃ、どれだけ鍛えても足をもがれ、体内に無数の玉がめり込んで、死ぬか虫の息だ。
あいつが最初にパチンコ店跡地をしらみ潰しに漁ると言い出した時はさすがに、意味不明だったが、こう言うつもりだったらしい。
このゲームにアイテムなんて概念は無いが、あらゆるオブジェクトがアイテムになれるとも言える。
誰もそれをどんなアイテムかは教えてくれないが、何をどんなアイテムにしようと自由ってワケだ。
この男、なかなかのクセモノだが、こう言う奴を使いこなしてこそのリーダーなのだろう。
実際、こいつは空気をよく読んでくれる、稀少な男だった。だからこそ、右腕として認めている。
直接、口で右腕認定したわけではない。
言葉にしなくても、わかってくれているはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます