第289話 番外編 それぞれの想い 4 ーおばば様編ー

 あたしの名前を知ってるかい? ホアンていうんだ。今はもう誰もそう呼ばないけどね。皆からはおばば様と呼ばれているのさ。

 長く生きたからね。ドラゴンの中でも1番の長生きさ。

 それは突然だったんだよ。思いもしなかったことが起きたんだ。


 ある日、紅龍王のホンロンがやって来たんだ。

 あの子はまたドラゴン形態のまんま来て! と、思わずお玉を持ったまま庭に出たんだ。

 すると、ホンロンの背中に懐かしい顔があった。エルフの長老ラスター・エタンルフレだ。なんだい、嬉しそうな顔をしているじゃないか。何かあったのか?

 そう思っているとその長老の胸のところから小さな子がヒョコッと顔を出したんだ。

 もう、驚いたってもんじゃないよ。聞けばあのランリアとマイオルの孫だというじゃないか!? 思わず持っていたオタマを落としてしまったさ。

 マイオルは今はもう絶滅したハイヒューマンだ。小さな頃から親に連れられてよく来ていた。あの頃からヒューマンによる迫害が酷くて、時々避難しに来ていたんだ。

 ランリアは、長老が親善大使を務めていた頃に家族で一時この国に住んでいた。その縁で、国に戻ってからも長老やアヴィーと一緒によく遊びに来ていた。

 その2人が、『次元の裂け目』に吸い込まれたと聞いた。何を調べてもどこに飛ばされているのかさえ分からないと長老が疲れた顔で話していた。きっと、寝る間も惜しんで調べたのだろう。

 あの頃の長老は見ていられなかったよ。

 その、ランリアとマイオルの孫だという。界を渡って帰って来たのだと。

 

 小さな子だ。ちょっとやんちゃそうだね。その小さな身体をそっと抱き締めた。涙が流れた。よく、帰ってきてくれたよ。こんな奇跡があるんだね。

 そのハルの話を聞き、そして精霊の事を教えた。

 このハルを守ると言っている聖獣が引っ掛かるね。唯の聖獣じゃあないだろうと思っていたら神使だというじゃないか。何千年と生きて来て、神使に初めて会ったよ。

 なんて、規格外な子なんだ。

 おやおや、長老が嬉しそうじゃないか。自慢の曾孫なんだね。嬉しいね。有難いね。こんな日が来るなんてさ。


 翌日、ホンロンに乗せてもらって王城へと向かう。

 ハルは青龍王ランロンの子を保護してくれていたそうだ。他の子達とも仲良く遊んでいる。その間にあたし達は皆に報告だよ。ほら、ホンロンあんたも行くんだよ。

 ホンロンと、長老、リヒトも参加してもらってハルの事を皆に報告する。

 一通り、長老が報告した。皆、驚いている。顔を見れば分かるさ。驚きすぎて、言葉が出ないのだろうね。


「おばば様、確認は?」

「ああ、もちろんあたしがしたよ」

「では、本当なのですね?」


 今、竜王を務めている白龍王バイロンがまず聞いてきた。そうだろう、にわかには信じられない事だろう。界を渡ってきた者なんて今までいなかったからね。ましてや、創造神の加護を持ち、神使まで付いてハルを守っているんだ。そんな子どこを探してもいる筈がないさ。


「ハルは全てを覚えているのです。創造神様とも会って話をしたらしい」

「話しどころか、パンチをしたらしいです」

「パ……」


 長老とリヒトの言葉に……ああ、黄龍王グウロンがあっけにとられているよ。面白いねぇ。この子達のこんな表情を見るのは何百年ぶりだろうか? 今は龍王だとか言われているけど、この子達だって小龍の頃があったんだ。それはもう、やんちゃだったり可愛かったりだ。懐かしいねぇ。


「おばば様、ちゃんと聞いてますか?」

「なんだい、ヘイロン。聞いてるさ、パンチだろ?」


 アハハハ、いつも冷静な黒龍王ヘイロンまで驚いているね。愉快だ愉快だ。


「おばば様……」

「なんだよ、あたしだって聞いた時は驚いたさ。実際にハルと話したんだから間違いはないさ。お前達だってハルと会ったんだろう?」

「いや、私はまだ会っていないのだ」


 黒龍王ヘイロンがそう言うと、それ以外の皆が顔を見合わせた。ふふふ、面白いねぇ。


「え? なんだ? 私だけなのか?」

「俺は背に乗せておばば様の家に行ったからな」


 と、紅龍王ホンロンが言う。


「ホンロン。お前ズルイぞ」

「なんでだよ!」

「ハルは可愛いぞ」

「ああ、可愛いな」

「真っ先に突っ込んでいくけどな! アハハハ!」

「何!? グウロン、ハルはまだちびっ子だぞ!?」

「ヘイロン、そう思うだろ? 『ちゅどーん!』て言いながらジャンプして蹴り入れるんだ」

「ち、ちゅど……!?」


 ああもう、報告はどこへいったんだい。ハルが可愛いのはよく分かっているさ。あたしだって可愛いと思っているからね。


「おばば様、精霊の事は?」

「ああ、教えたんだ。そしたらすぐに見える様になって精霊と話していたよ」

「すぐにですか!?」

「ああ、その場ですぐにだよ。あの子は精霊の加護を持っているんだね」


 あたしは確認したくて長老を見る。


「おばば様、精霊の加護ではなくですな」

「なんだい?」

「『世界樹の愛し子』という加護を持っているのです」

「なんだって!? 世界樹だって!?」


 そんなの精霊の親玉じゃないか!?


「そりゃ、精霊と話せても当然じゃないか。それにハイヒューマンの血も継いでるのかい」

「はい、正確にはクォーターです。『ハイヒューマン族の愛児』という加護も持っております」


 ああもう、驚くのに疲れちまったよ。なんて規格外なんだ。


「おばば様、ハルは前の世界で辛い思いをしてきたのです。ランリアとマイオルが加護を与える程気にかけていたのも、ハルのその環境故にです。『耐え続けた者』などという称号を持つ位です。どれだけ耐え続けたのか……きっと創造神がこの世界に呼び戻すまでずっと1人で耐えていたのでしょう。ワシは、もう二度とハルにそんな思いはさせたくないのです。させるつもりもありませんがな。どんな加護を持ちどんな称号を持っていようが、ワシの可愛い大事な曾孫です。それだけなのですよ」


 長老、泣かせるじゃないか。そうだよ。ハルはハルだ。

 あたしも何かあったら全力で力を貸すよ。ハルを守るよ。あんな可愛い子を悲しませてなるものかい。

 なんだかんだで長くなってしまったよ。さあ、早くハルと遊ぼうじゃないか。

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