第267話 番外編 鬼しゃん 1

 ここはドラゴシオン王国。おばば様の家へお泊まりに来ているハルちゃん達。


「やっぱ、んめーな」

「美味しいなのれす」

「美味しいわね、ルシカ本当に上手だわ」

「アヴィー先生、ありがとうございます」

「ふわっふわやな」

「ほんのり甘くて美味しいもんだね。教わっておきたいもんだよ」

「おばば様のところは食材が豊富なので作り甲斐がありますよ。卵やミルクも新鮮ですからね」


 何が美味しいかと言うと……ふわっふわでほんのり甘い、ルシカ作のシフォンケーキをハルちゃん達はおやつに食べている。勿論、生クリームも添えられている。

 相変わらず、ハルはほっぺに生クリームをつけている。


「ハル、ほっぺ拭きましょう」

「ん、またちゅくけろな」


 いやいや、付けない様に食べようよ。


「でも、あの狐にはおどろいたわね」

「ばーちゃん、しょう?」

「あら? ハルちゃんは平気だったの?」

「ん、ちょっち眠かったくらいら」

「ハルの生気を食べてたなのれす! けしからんなのれす!」

「ホント、許せないわ!」

「シュシュ、お前生クリームついてんぞ」

「え? やだリヒト、本当?」

「ほら、シュシュ。拭きましょう」

「あら、ルシカ。ありがとう」


 堂々たる白い虎の聖獣。なのに、威厳がない。口の周りに生クリームをつけて、ピンク色のお鼻まで生クリームで白くなっている。生クリームでこってこてじゃねーか。ハルより酷い。


「アハハハ、しゅしゅはまらまららな」

「何よぅ。ハルちゃんだってほっぺに生クリームがついてるわ」

「え……」

「ハルちゃんは生クリーム大好きやからなぁ」

「ん、しゅき」


 なんとも長閑な時間が流れている。ハルは転生してからあっちの国へそっちの国へとあわただしい毎日だったからな。偶にはこんな日も必要だろう。

 と、そんな空気の中、遠慮気味に訪れた者がいた。


「おや、珍しい。山から降りてきたのかい?」

「おばば様、迷惑を掛けた」


 その訪れた者は、髪は真っ赤、肌は浅黒くガタイもリヒト達より2回りほど大きい、何よりも頭部に2本の鋭い角があった。そして、手には八尾ある狐を持っていた。狐の首根っこを掴んで無造作に持っていたんだ。


「キュゥ……」


 鬼人族に首根っこを捕まれ、尻尾をくるりと巻いている。どうやら、懲りたらしい。余程、叱られたのだろう。


「あ! きちゅねしゃんら!」

「ハルちゃん、近寄ったらダメよ」

「しゅしゅ、平気ら。鬼しゃんか?」

「君がハルか?」

「しょうら」

「この狐が迷惑をかけた」


 その八尾の狐を手にやって来たのは、ドラゴシオン王国の山奥に住む鬼人族の族長の息子だと自己紹介をした。


「おばば様、鬼人族って初めて聞いたわ」

「そうだろうよ。滅多な事では里まで下りて来ないんだ。知っている者も少ないだろうね」

「ほう、そりゃあアヴィーでも知らないだろうよ」

「あら、長老は知ってたの?」

「ああ。話には聞いた事があるぞ」

「あら、悔しいわ」


 意味が分からない。長老が知っていてアヴィー先生が知らないと何故に悔しい? 夫婦なのに。


「その狐はどうしたんだい?」


 おばば様が聞くとその鬼さんは話し出した。

 なんでも、ハルを取り込もうとした狐は鬼人族の里近くにある狐人族の里に住んでいるらしい。狐人族は珍しくない。ただ、里まで下りてくる時は人に擬態をしている為、狐人族とは分からないそうだ。

 その、狐人族の中でも最近では珍しく尻尾が8本にまでなった。狐は調子に乗ったらしく、人に擬態をして里まで下りて生気を奪っていたらしい。それがバレて、懲らしめられボロボロになって倒れていたところをハルに助けられた。

 だが、ハルのヒールで魔力を気に入った狐は、ハルを取り込もうとしたところコハルとシュシュに威圧を飛ばされ逃げ帰ったという事だそうだ。


「こいつはこんなだけど、狐人族の族長の娘なんだ。昔から悪さばかりするから、俺達も目を付けていたんだ。すまんことをした。俺達がしっかり叱っておいたから許してやってほしい」

「お前さん、それで謝りにきたのかい?」

「ああ。おばば様の客人だと聞いた。おばば様には世話になったからな。このままでは不義理だと思って来たんだ」


 なんとも、義理堅い鬼さんだ。鬼さんは悪くないのに。


「鬼しゃん、鬼しゃん、気にしなくていいじょ」

「しかしだな……」

「おりぇはなんともなかったかりゃな」

「狐よりハルの方が力も強いなのれす。狐にどうこうできるハルじゃないなのれす」

「らって」

「だからと言ってこのままでは俺達の気がすまん。悪さをしたら謝るのが当然だ」

「おー」


 ハルちゃん、何故に驚く?


「鬼しゃんて怖いイメージがあったんら」

「ハル、怖くはないよ。鬼人族といったら侍なんだ」

「おー! おばばしゃま、しゃむりゃい!」

「鬼人族しか打てない『刀』という武器は見事なんだよ」

「かちゃな!」

「なんだ、ハル。知っているのか?」

「じーちゃん、知ってりゅ! おりぇが前に生まれた国にあったじょ。昔は侍がいたんら」

「ほう、平和な国だと言ってなかったか?」

「平和になったんら。昔は大きな戦もあった。刀らって実際に使わりぇてた。けろ、今はもう侍もいねーし刀は美術品ら」

「なんと! 美術品なのか?」

「ん。届出をしないれ持ってたりゃらめなんら」

「なるほど。確かに平和だな」

「おばば様、一緒に食べて頂いたらどうです?」

「ルシカ、いいのかい?」

「もちろんですよ」


 と、言う事で。鬼さんと八尾の狐さんもルシカのシフォンケーキを食べる。


「う……」


 う……? 鬼人が何か言おうとしている。狐は大人しくと言うか無心で食べている。八尾をフリフリと振りながら。気に入ったらしい。


「美味い! こんなフワフワなものを食べた事がない!」

「りゅしかのおやちゅは、じぇっぴんなんら」

「素晴らしい!」


 絶賛だね、ルシカ。ルシカのおやつは外交に一役買った位だからな。

 セイレメールの王女がルシカの作るおやつを気に入り、そこから四カ国協定へと発展したんだ。

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