第227話 巨岩撤去 1

 その日の夕食は女王達と一緒だった。歓迎してくれている。内密にとか言っていたアンスティノス大公国とはえらい違いだ。


「おぉ! しぇんりゃしゃん人魚ら!」

「うふふ、ハルちゃん。こっちが本当ですのよ」

「綺麗らな。ピカピカしてりゅ」

「あら。ハルちゃん、ありがとう」

「さあ、皆さまお座り下さい」


 ウージンが誘導してくれる。残念ながら上半身は裸ではない。

 シェンラは、淡いブルーの前合わせのドレスを着ているが、下半身は魚だ。シェンラやウージンも立派な尾びれが見えている。

 女王に王配、官僚なのだろう数人の女性達と一緒に和やかに会食は進んだ。


「ばーちゃん、どりぇもんまいなぁ……」

「ハルちゃん、本当ね」

「ばーちゃん、刺身は食べねーのか?」

「食べるわよ。生のお魚は初めて食べたけどとっても美味しいわね」

「らな。新鮮らからな」

「ハルちゃんこれも美味しいわよ」

「海老ら」

「衣をつけたのも美味しかったけど、塩で焼いただけでも美味しいわね」

「ん、持って帰りたいな」

「ルシカに相談しなきゃね」

「しょうらな」


 ハルちゃんは海鮮料理をたらふく食べた。前世の料理の様で懐かしくて余計に沢山食べた。


「おりぇ、こんなに食べたの初めてら」

「うふふ、美味しいものね」

「りゅしか、持って帰りょうな!」

「はいはい。岩の撤去が終わってからですね」

「しょうらった。岩があった」


 肝心な事を忘れてはいけない。巨岩撤去がメインだ。

 翌日、早速ハル達は巨岩を見に行った。


「うわ! りひと、しゅげー!」

「だろ? なかなか面白いだろ?」

「おりぇ1人れ乗りたいじょ!」

「ハル、それは無理だ」


 ハルはリヒトの前にちょこんと座っている。噂のモラモラに乗って移動していた。

 マンボウの様なモラモラ。人が乗れる様に鞍をつけてある。そこにリヒト達は乗っている。ハルはまだまだちびっ子だから1人では無理だ。


「そんなに速さは出ないらしいんだ。だが、なかなか面白いぞ」

「らな! 小回りが効くんらな」

「ああ。来る時に乗った船よりずっと便利だ」


 リヒトはもう慣れたものだ。スイスイとモラモラを進めている。ルシカとイオスもだ。イオスの前にはカエデが乗っている。

 シュシュは……ミーレと一緒だ。元の大きさだと乗れないので、小さくなってミーレの前にバランス良く座っている。


「しかし、本当にデカイな。こんなに離れていてもデカさが分かるぞ」


 長老が言っているのは問題の巨岩だ。

 墓地に向かって進路を取ると、直ぐに見えてきた。遠目にでも大きさが窺える程だ。聳え立つと言っても良いかも知れない。


「この巨岩が街に落ちて来ていたらと思うとゾッとします」


 案内をしてくれている、ウージンだ。

 今日はウージンと兵達が同行している。


「本当だな。被害もかなり出ていただろうな」

「長老、そうなのです。ですので、不幸中の幸いとでも申しますか……」

「ああ、確かに。しかし、デカイ。こりゃ大変だ」

「長老、巨岩が刺さっている根元がまた大変なんだ」

「イオス、崩せそうか?」

「それは大丈夫だと思いますよ。ただ、先に根元を崩すと巨岩が倒れてしまうッス」

「だなぁ。こりゃまた大変だ」

「倒れる方向だな」

「リヒト、安全な方へ狙って倒せねーか?」

「どうだろうなぁ」


 そんな話をしながら、一行は巨岩に到着した。


「まじ、超でけー」


 ハルが言う様に、近くに来てみれば本当に巨大だ。見上げても先端がどうなっているのか見えない。

 巨岩を、どう説明すれば良いだろう。巨岩と言われて普通にイメージする様などっしりとした岩ではない。厚みがないのだ。だから、ルシカが岩盤と言うのも気持ちは分かる。リヒトが『ブッ刺した感じ』と言うのも頷ける。実際、海底に突き刺さっている。よく途中で割れなかったものだ。厚みがなく平らで高さと幅のある巨岩が壁の様に海底に突き刺さっていた。その、突き刺さっている根元にマグマが固まっているのだ。まるで、接着剤の様に。しかし、この巨岩がこの場に突き刺さらなかったら、マグマがそのまま民家を襲っていただろう。


「リヒト、先端を見たか?」

「いや、見て来ようか?」

「ああ」


 長老に言われて、リヒトとルシカが巨岩に沿って上昇していく。


「じーちゃん、こりぇりゃとバインドは無理らな」

「ああ。ハル、無限収納に収納するか?」

「しょりぇが1番楽れ被害もでねーかも」

「そうなると、根元だ」


 ハルが長老のモラモラに乗って根元を確認しに行く。


「うわぁ……」

「ガッチリ固まっているな」

「こりぇ、壊すのも大変らな」

「ああ。ハル、土属性魔法か?」

「じーちゃん、しょりぇしかねーな。溶かしぇねーらりょうし」

「水の中だと火属性魔法は威力が落ちるからなぁ」

「らなぁ……しゅげーな。けろ、この岩れマグマが堰き止めりゃりぇたんらな。しょりぇは良かったな」

「ああ。これがなかったら街に相当な被害が出ていただろう。道に沿ってマグマは流れただろうしな」

「ん……ちょっと試しに土属性魔法ちゅかってみりゅ?」

「ハル、バランスを崩したらヤバイぞ」

「しょっか……けろこりぇ壊しぇんのか?」

「やるしかねーぞ」

「しょうらな」


 リヒトとルシカが戻ってきた。


「リヒト、どうだった?」

「長老、普通の岩肌だった。だが、マジでデカイな」

「じーちゃん、上かりゃちょっとじゅちゅ崩して無限収納に入りぇてく?」

「そうだなぁ。こりゃ一気には無理だなぁ」


 なんせ巨大だ。しかも根元が固定されている。


「無限収納でも無理なのか?」

「りひと、入りゅじょ。けろ、根元が固定さりぇてんのがネックなんら」

「じゃあ、根元を壊そうぜ」

「リヒト、そう簡単には壊せんだろうが?」

「土属性魔法で壊すしかねーな。で、タイミングを合わせて長老とハルが無限収納へ入れる」

「一か八かだな」

「それしかねーだろ?」

「んー、びみょーらな」

「ハル、そうだな」

「やってみようぜ」

「リヒト、倒れる事や割れる事も考えないといかん。1番被害の少ない方へ倒す感じだ」

「おう、どっちだ?」

「長老様、街と反対側にならなんとか」


 ウージンが言う、街と反射側の方向。そっち側には幸い民家はない。


「おう。まぁ、倒さねーけどな。なあ、長老」

「そうだな。倒さない様にだな」

「よし、やりゅじょ!」


 お、ハルちゃん。やっとやる気になったね。

 上から少しずつではなく、一気に無限収納に入れてしまおうと言うリヒトの案だ。

 そんな単純で良いのか? 大丈夫なのか? マジで。


「じゃあ、そちら側を壊そう」

「よし、長老。分かった。ルシカ、イオス」

「はい」

「了解ッス」


 ルシカとイオスが指示された方の根元に土属性魔法をぶつけて固まっているマグマを壊しにかかる。

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