第218話 泳げな〜い

「あの時に討伐したデスマンモールの素材も使っているそうだ。防御力に優れている。ちっとやそっとじゃ切れんぞ。それに、防汚効果もあるそうだ。シュシュのチョーカーについている中央の黒い魔石には防御力アップを付与してあるそうだ。あぁ、忘れとった。コハルにもあるんだ」

「はいなのれす!」


 コハルがいそいそと出てきた。


「コハルにはこれだ」


 小さなコハルの耳に合うように小さな小さな赤いリボンだ。


「こはりゅ、可愛いじょ」

「ホント、コハル先輩とっても似合っているわ」

「当たり前なのれす!」


 自慢気に胸を張るコハル。嬉しそうだ。


「コハルには必要ないかも知れんが、防御力アップを付与してある」

「ありがとなのれす!」

「おう、似合っているぞ」

「はいなのれす!」

「めちゃ可愛い!」

「リン、やるじゃない」

「ね、大丈夫かしらと思ったけど」

「あのキャラやもんな」


 確かに、ドワーフなのにオネエさん? かも知れない。


「じーちゃん、行く日が決まったのか?」

「そうだ、リヒトは執務室か?」

「ん、けろもう来りゅんじゃねーかな? おやちゅの時間らってりゅしかが呼びに行ったかりゃ」

「なんだ長老、来ていたのか?」


 噂をすれば、リヒトとルシカがやってきた。


「おう、リヒト」

「お、服ができたのか?」

「しょうら、めちゃいいじょ」

「そうか! ちょっと心配だったんだよ。なんせあのキャラだからさぁ」


 やはり皆が思う事は同じだ。リヒトが其々の服を見ている。


「お、コハルのもあったのか。可愛いぞ。カエデのめちゃ凝ってるなぁ。ミーレのもこれ刺繍スゲーな。ハルのはこれか? いいじゃねーか。どっかの坊ちゃんみたいだな」


 坊ちゃんとは……それは褒め言葉になるのか?


「見て見て!」


 シュシュがずずいと顔を出して首を伸ばす。


「おぉ、スゲーじゃん!」

「でしょ、でしょぉ〜!」

「おう、綺麗な首輪だ」

「ちょっとリヒト! チョーカーと言ってよね! センスもデリカシーもないんだから!」

「お、おう」


 リヒトはシュシュによく叱られている。


「リヒト様、座って下さい。長老も食べられますか?」

「いや、ワシはいい。茶だけもらえるか?」

「はい、お待ち下さい」

「で、長老。決まったのか?」

「ああ、明後日エルヒューレを出発する事になった。明日の午後に迎えに来る。それから1度国に戻る」

「分かった」

「ハル、今回は国から南西のベースまで転移だ。そこから海までは馬になる。少し長い旅になるぞ」

「ん、分かっちゃ。海は初めてらな」

「ハル、泳げるか?」

「あ……泳げねー」

「そりゃそうだろ。まだ3歳なんだから」

「しょー言うりひとは泳げんのか?」

「任せろ。俺が身体にハルを括り付けて泳いで連れてってやるよ」

「おおー」

「他の者はどうだ? カエデ?」

「無理にゃ〜……」

「じゃあ、カエデは俺が連れて行きますよ」

「イオス、大丈夫か?」

「問題ないッスよ」

「そうか、あとはミーレとシュシュか?」

「泳げますよ。平気です」

「あたしも平気よ!」

「え、シュシュ。泳げんのか?」

「任せてちょうだい! 何だったらあたしがハルちゃんを乗せて泳ぐわよ!」


 おう、頼りになるじゃないか。

 セイレメールは海の中だ。泳げないとお話にならない。


 セイレメール、人魚族が治める国。海底に国がある特殊な国で、人魚族と魚族の王国だ。代々、人魚族の女王が治めている。

 陸にある各国とは違って女性の方が国を動かす中枢にいる。王位継承権も女性が優先される。第一子が男児でも、第二子第三子に女児が生まれたら、そちらの方が継承順位が上になる。少し特殊な国だ。海底にあると言うだけで、充分特殊な国ではあるが。

 国のある場所が場所だけに、詳しい事は全く知られていない。ただ、セイレメールに招かれて向かう時は、海中でも呼吸ができるアイテムを貸与されるらしい。

 しかし、それでも海中を進む事に変わりない。ハルちゃん、カエデ、泳げないのに大丈夫か?



 翌日、ハルがお昼寝をしておやつを食べ終わる頃に長老が迎えにやって来た。エルヒューレ皇国にあるリヒトの家まで、長老の転移で移動する。


「ハルちゃん! 今回は母様とお留守番しましょう!」

「かーしゃま」


 リヒトの家族が待ち構えていた。


「そうだ、ハル。泳げないのだろう? 危険だ!」

「とーしゃま」

「そうだよ、ハル。陸とは勝手が違う。留守番しよう、な?」

「にーしゃま」

「父上、母上、兄上、俺が連れて泳ぎますから大丈夫ですよ」

「リヒト! そんなの分からないわ! だって海の中なのよ!」

「かーしゃま、らいじょぶら」

「しかし、ハル」

「りひとは頼りになりゅかりゃ、らいじょぶら」

「ハル、どうしてもかい?」

「ん、ありがちょな」

「リヒト、長老、本当に頼みますよ!」

「はい、母上」

「リュミ、大丈夫だ。ワシもそばにいる」


 さて、セイレメールからの使者と顔合わせだ。


「此度は不躾な願いを快く聞き入れて下さり感謝致しますわ。私共がご案内させて頂きます。シェンラと申します。こちらは私の補佐です」

「ウージンと申します。宜しくお願い致します」


 シェンラは金髪にブルーの瞳で女性の人魚族、ウージンは銀髪に深いブルーの瞳で男性の人魚族だ。男性がいたんだな。どうも、人魚と言うと女性を思い浮かべる。

 こちらも簡単に長老が其々を紹介した。


「エルヒューレは如何でしたかな?」

「はい、長老様。大森林と調和のとれた街が本当に美しく、感心しておりました。食べ物もとても美味しくて、住みやすい街ですわ」

「それはありがとうございます」


 具体的な疑問点を長老が纏めてくれていた。それの説明をしてくれた。

 海岸線まで普通に馬や馬車で行く。海岸に海と陸と両方で住める種族の小さな集落があるらしい。そこで預かってもらえるそうだ。

 また、以前長老が話していた様に、海中でも呼吸ができるアイテムを貸与してくれる。そして、身体に膜を張る様に防水シールドを施して貰って海に入るらしい。

 そこから、海中を移動できる馬車ではなく魚車で移動するそうだ。


「しゅげー!」

「ハルくんは泳げるのですか?」

「泳げないれしゅ」

「きっと、大丈夫ですわよ。お貸しするアイテムは呼吸ができるだけでなく、浮力と推進力を助ける事もできますの。それに、防水シールドを張りますから濡れてしまう事もありません。海中でも陸と同じ様に目を開けていられます。ですので、簡単に泳げますわよ」

「おおー!」


 ハルちゃんは、楽しみらしい。

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