第219話 人魚族
「現場の状況は言葉では説明し難く、現場を見て頂く方が早いと思いますわ」
「そんなにですか?」
「ええ。まさか、あの様に大きな岩がシールドを突き破って飛んでくるとは思いもしませんでしたので」
「なるほど。シールドを突き破る程の岩なのですな」
「しかし、長老。それを崩すにも周りに影響が……」
「まあ、リヒト。現場を見てからだな」
「そうだな」
「今日は都合でおりませんが、明日はアヴィーも一緒に南西のベースまで私が転移させます」
「まあ! 転移ですか! 私共に転移できる者はおりませんので楽しみですわ! アヴィー様にも大変良くして頂きましたの」
不安がるかと思いきや、楽しみだと言うセイレメールの使者、シェンラ。アヴィー先生は使者の2人のエルヒューレ観光に付き添っていたらしい。
「シェンラ様は怖いものなしですから。転移など初めてですので、私は少し腰がひけてしまいます」
使者補佐のウージンが言った。それが普通ではないだろうか?
「大丈夫です。気がつけば向こうに着いておりますよ」
翌日、長老の言う通り気付けば南西のベースにいた一行。
「まあ! 本当に一瞬でしたわ!」
「空間が歪む感じ等があるかと思ったのですが、何も無いのですね」
2人共、平気そうだ。長老の転移は身体に優しい転移らしいからな。
「シュシュの転移やとこうはいけへんよな」
「まったくだ」
「やだ、まだ言ってるの?」
「コハルの転移も平気だったな」
「当たり前なのれす! シュシュとは違うなのれす」
「まあ、可愛らしい! どこから出て来たのかしら?」
「ハルの亜空間ですよ。リスの聖獣でコハルと言います」
「可愛いですわ。コハルちゃん、よろしくね」
「よろしくなのれす」
コハルが小さな手を上げる。
「可愛い!」
「聖獣が2頭もいるのですか?」
「はい、どちらもハルを守護しております」
「長老の曽孫さんは凄い!」
「ふふん。2人共、ともらちら」
「おぉー!」
コハルがハルの肩に乗っている。心無しか2人ともちょっぴり自慢げだ。
呑気だが、ここからが長い。南西のベースから海までパッパカパッパカと馬で進み1週間はかかる。その間に、使者の2人とリヒト達は馴染んでいた。
「りゅしかの飯は超うめー」
「ほんまやな」
「本当、なんでも美味しいわ」
「とっても美味しいわ」
「本当ですわね、ルシカさんと離れたらどうしましょう」
「シェンラ様、食べた事のない料理が多いですね」
「ウージン、そうよね。特にルシカさんのおやつは絶品ですわ」
「アハハハ、ありがとうございます」
皆でお昼ご飯を食べている。セイレメールの使者である2人も馴染んで和やかだ。
「シェンラ様、やっと海の潮風が感じられる距離まで来ましたね」
「本当ね。少し安心するわね」
「海から長く離れておられると、恋しくなりますかな?」
「そうですわね、長老様。私達は海中の方が身体能力が上がりますから。陸ですと、少し身体が重怠く感じますわね」
「ほう」
「歩くという行為が面倒で」
「なるほど、面倒ですか」
「身体が浮かないと言うのも変な感じですわ」
「アハハハ、陸ではそうですな」
「長老様、ハルくんはまだ幼いのに疲れませんか?」
「ウージン殿、お気遣いありがとうございます。ハルは旅慣れてますからな。大丈夫でしょう」
「ん、らいじょぶら」
また、ほっぺに何かつけているぞ。
「ハル、ほっぺにベリーソースがついてますよ」
「ん」
いつもの如く、ルシカにほっぺを拭いて貰っているハル。
助けて欲しいとの要請だった割に、のんびりと進んでいる。セイレメールの使者2人に余裕があるせいだろうか。
「海の中にありゅ国、楽しみら」
「ハルくんにも、早く私達の国を見てもらいたいわ。小さな魚が群れで泳いでいたりして、本当に綺麗なのですよ」
「しゅげー! 怖い魚はいないのか?」
「そうね、凶暴な鮫がいたりするけど国には入ってこれなくなっておりますのよ」
「おぉー!」
「シェンラ殿、それは言ってらした結界か何かですかな?」
「そうですわね、長老様。結界と言いますか、一定の大きさの魚までは入る事が出来るのですが、それ以上になると入れないのです」
「なんと、興味深いですな」
「ね、私もお聞きした時に驚いたの」
「私こそ、アヴィー様の知識には感服しておりますのよ。結界とは少し違うのですが、我々の女王直属の魔術師団が管理しておりますわ」
「魔術師団があるのですか?」
「はい。魔術師団も衛兵もおりますわよ。自分達しか国を守る者がおりませんから。ですので、防御には万全を期しておりますわ」
「素晴らしいですな」
「いくら国に入ってこれないと言っても、すぐ近くで大きな口を開けて牙を見せながら泳がれるとゾッとしますでしょう? ですから、兵達が追い払ったり討伐したりしますの」
「おおー! じーちゃんキバらって!」
「ハル、見たそうだな」
「見たいけろ、こえーな!」
「アハハハ、そうか。じゃあ止めておこうな」
「しょうらな」
「まあ、ハルくんは好奇心旺盛ですのね」
「まだ、3歳ですからな。見るものがなんでも珍しいのでしょう」
「3歳ですの? ハルくん、しっかりしていますのね。私の子なんてまだまだ頼りなくて」
「え! しぇんりゃしゃん子供がいりゅのか!?」
「ええ。もう成人しておりますのよ」
「おお……」
シェンラは一体何歳なのだろう? ハルが驚いている様にとても成人した子がいる様には見えない。どう見ても30代前半といったところか。
「エルフの皆様程ではありませんが、私達人魚族も長命ですの。皆、500年は生きますわよ」
1番の長命種はドラゴン種だ。数千年は生きる。次にエルフ族、その次がドワーフ族だったのだが、どうやらドワーフ族と同じ位生きるそうだ。
次が獣人族、最後にヒューマン族だ。だが、人口の比率で言うとこれが逆転する。
ヒューマン族が1番多くて、ドラゴン種が1番少ない。繁殖力が全然違ってくる。
だからだろうか、ヒューマン族は生き急ぐのかも知れない。目先の利益を優先しがちだ。
長命種ほど、拘りが少ないのはやはり長く生きるからだろうか。だからと言って、問題を起こして良い理由にはならないが。
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