第216話 ベースでの日常 3

「長老、また何かあったのか?」

「そうなんだ。ルシカ、ワシも昼飯もらえるか?」

「はい、お待ち下さい」


 ルシカが長老の分の食事をいそいそと取りに行く。まるで、みんなのオカンだ。


「実はだなぁ。セイレメールから使者がやって来たんだ」

「セイレメール!? あの海の中のか!?」

「ああ、そこしかワシはセイレメールを知らんぞ」

「長老、だって人魚!?」

「いや、ちゃんと人化して服を着ておるわ」

「なんだ」

「リヒト、お前ちょっとエッチな事考えただろう?」

「いや、何でだよ!」

「人魚と言えばなぁ……」

「長老、ハルがいるんだぞ」

「ああ、そうだった」


 どうやら長老の読みは当たっていたらしいぞ。リヒトも男の子なんだね。

 だがまあ、人魚と言えば……


 人間と魚類の特徴を兼ね備え、水中に生息するとされる伝説の生物。

 上半身がヒトで下半身が魚類のことが多い。裸のことが多く、服を着ている人魚は稀である。多くは、マーメイド(若い女性の人魚)である。

 金髪や紅毛の長髪の絵画が多く、櫛や鏡を持物とした像が定番である。

 by.wiki先生


 その人魚がやって来たと言う。エルフに何の用事だろう?


「長老、どうぞ」

 

 ルシカが長老の分の昼食を持ってきた。


「ルシカ、すまんな。それがだ。海底火山が噴火したらしい」

「え!? そりゃ、大変じゃねーか」

「まあ、被害は大した事なかったそうなんだが、噴火で飛んできた岩がだな、どうやら邪魔らしいんだ」

「はぁ、岩が?」

「普通の岩じゃねーぞ。巨大な岩だ。そこにマグマが流れてきて固定されてしまっているんだと」

「ほう……まさか、それを?」

「ああ。退けてほしいそうだ」

「いやいや、それ位自分達でやろうぜ」

「やったそうなんだ。それがビクともしないらしい」

「どんだけデカイ岩なんだよ」

「先端は海面近くまであるとかないとか」

「デカッ!」

「だろう?」

「いやもう、そこまでいくと小島じゃん! しかし。そんなのどうやって退かすんだよ!」

「砕くしかないわな」

「はぁ……」

「なんだ、リヒト」

「なんだか最近、エルフがなんでも屋になってしまってる気がするぞ」

「アハハハ! なんでも屋か!?」


 確かに。忘れているかも知れないが、あのお馬鹿な令嬢をアンスティノス大公国へ送って行ったり、人攫い集団を壊滅させたり、毒クラゲをやっつけたり、ツヴェルカーン王国ではワーム退治もした。つい最近では同じツヴェルカーン王国で巨大なモグラ退治もやった。ドラゴシオン王国へは保護したドラゴンの幼体を送って行った。色々、やってきた。


「で?」

「まあ、邪険にもできないわな」

「ハァ〜……」

「なんだ、リヒト。人魚だぞ?」

「いや、そういう問題じゃねーだろ。どうやって海の中にある国へ行くんだよ」

「それは案内してくれるさ」

「なんだよ、行く事に決まってんじゃねーかよ」

「まあ、そうだ」

「おおー!」


 おや? スプーンを持ったハルちゃんが目をキラッキラさせているぞ。


「ハル……」

「らってりひと、海の中らじょ!?」

「そうだなぁ、海の中だ」

「人魚らじょ!」

「ああ、人魚だ」

「りょまんら!」

「はいはい、ハルの好きなロマンだな!」

「なんら、りひと。ノリがわりーな」

「海の中だぞ? そんなの超めんどくせー」

「リヒト、それを言ってはいかん。アヴィーは喜んどったぞ?」

「そりゃ、アヴィー先生はあんな性格だからですよ! てか、アヴィー先生行く気かよ!」

「おお。リヒト、ツッコミが激しいな。アハハハ!」

「笑い事じゃねーよ!」

「まあ、そういう事だ」

「よし! 行くじょ!」


 ハルが張り切ってスプーンを持った片方の腕を上げる。可愛いね。でも、スプーンは置こう。


「行くのかよ!」

「りひと、ちゅっこみが激しいな」

「そうかよ! もういいよ」

「アハハハ! まあ、なかなか経験できる事じゃねーぞ。エルフでもセイレメールに行った者などほんの数人しかいないからな。ワシも初めてだ」

「もう行くのが決まってんだろ? 行くさ。だが、どうやって砕くかだよな」

「そうなんだ。砕くだけならどうとでもなるがな」

「そうだろ? 周りに被害を出さない様にしないとな」

「それだ。海中で結界を張るしかないわな」

「その後、どうやって砕いた岩を回収するかだよ」

「それだ。物理的にデッカイ網でも張るか?」

「そんなのあるのかよ?」

「分からん」

「じーちゃん、バインドの応用ら」

「ハル……なるほど。賢いな」

「ふふん」


 ハルちゃん、ドヤってるけどほっぺにトマトスープがついてるぞ。


「なるほど……考えてみるか」

「そうだな」

「らいじょぶら。無限収納もありゅ」

「ほう、無限収納か。そんな使い方もありか」

「ハルは行きたいだけだろ?」

「しょんな事はねー」

「ほう、そうか?」

「ん、困ってんなりゃ助けてやんねーちょ」

「ハル、偉いな」

「ふふん」


 だから誰かほっぺを拭いてやって欲しい。カピカピになるぞ。


「ハル、こっち向いて下さい」

「ん」


 ルシカがハルのほっぺを拭いている。ハルはギュッと目を瞑ってされるがままだ。


「りゅしか、ポトフ超うめー」

「そうですか? ありがとう」


 微笑ましい光景だ。


「また詳しい事が決まったら知らせる」


 長老もポトフに夢中だ。


「ルシカ、マジで美味いな」

「ありがとうございます」


 いつもは賑やかなシュシュとカエデも大人しく食べている。


「急がないのか?」

「2〜3日、観光するらしいぞ」

「そのセイレメールの使者がか?」

「ああ。エルヒューレを見たいんだそうだ。アヴィーが付いている」

「なんだよ、それ。緊迫感がないな」

「なんでも、セイレメールの外れに墓地があるんだそうだ。そこへの通路が分断されたんだ。飛んで来たんだとよ」

「その超デカイ岩が?」

「そうだ、巨岩がだ」

「どんな噴火だったんだ? スゲーな」

「本当にな」

「生活には支障がない訳だ」

「だろうよ。使者ものんびりしているからな。観光気分だ」

「なるほどね」


 今度はセイレメールだ。海中だぞ。息が出来るのか? たどり着けるのか? ハルちゃん、泳げたっけ? シュシュやカエデは大丈夫なのか? ハル自身はやる気だが。どうなる事やら。

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