第210話 工房『シュシュ』

「そうね、どんなのが良いかしらぁ?」

「ミーレ、カエデ、希望を言っていいんだぞ」

「私は侍女服がいいです。着慣れていますし」

「自分ももう慣れたからメイド服がいいなぁ。あ、ただジャンプしたり1回転とかしたりする時に見えてもかめへんのがいいわ」

「ふんふん。分かったわ。で、ハルちゃんはぁ?」

「なんれもいいじょ」

「あら、拘りがないのぉ?」

「ん、服らってみーりぇが選んだのを着せてもりゃってりゅらけら」

「あらそう。じゃあ、ミーレ。ハルちゃんはどうするのぉ?」

「シンプルで、動きやすくて、ハルの可愛さが引き立つものを」

「あら! 大変! 拘っているじゃないぃ!」

「動きやしゅいのがいいじょ。ふりふりもない方がいいなぁ」

「分かったわ! あたしに任せてちょうだい! 才能が溢れ出しちゃうわぁ!」


 何が溢れ出すだと?


「採寸しなきゃね。順に奥に来てくれるかしら? イケメンさん達はちょっと待っててねぇ!」

「カエデ」

「え、ミーレ姉さんからやろ?」

「カエデ……」

「わ、分かったって」


 カエデが何故か肩を落としてトボトボと店の奥へと入って行く。頑張れ。


「まあ! とってもスレンダーなのねぇ!」

「ちょ……声大きいって!」

「あらやだ、ごめんなさぁい!」


 なんだかんだとミーレとハルも採寸を終えた。


「やぁ〜ん! ハルちゃん全部プクプクゥ〜!」


 と、リンに言われ……


「ふふん。ないしゅばでぃーら!」


 ハルちゃん、何か間違っている。


「で、何日位かかるかの?」

「そうねぇ、1週間位かしらぁ?」

「1週間かぁ。ワシらは明日にでも帰ってしまうんだが」

「エルヒューレに送ってあげるわよぅ」

「そうか? それは助かる」

「この書類に記入してもらえるかしらぁ?」


 長老が何やら書いている。


「全部同じところで良いのぉ?」

「ああ、構わんよ。で、だな。素材なんだが……」

「あら、何か希望があるのかしらぁ?」

「実はデスマンモールを持っているんだ」

「あら! そうなのぅ!? ちょうど良いわねぇ!」

「ヴェルガー親方から貰ってくれるか?」

「ええ、分かったわぁ。防御を上げておけば良いのかしらぁ?」

「ん? 他にもできるのか?」

「そうね、単純に物理攻撃防御が多いわね。あとは魔法攻撃防御でしょ、状態異常でしょ、身体能力強化もできるわよぅ」

「そりゃ、凄い。ハルは防御だけでいい。ミーレとカエデは強化も頼めるか?」

「分かったわ! 張り切って作っちゃうぅ」

「頼んだ」

「任せてちょうだい! 最高の物を作るわぁ!」

「代金はこれで足りるかね?」

「あら、それは頂けないわ。だって、態々デスマンモールの討伐に来てくれたんじゃないの? だから、デスマンモールを持っているんでしょう? でないと、こんなにエルフさんが来る訳ないもの」

「そうだが、それとコレとは話が別だ」

「長老、別じゃないわよぅ! 態々来てもらってお代まで貰ったらドワーフの名が廃るわよぅ!」

「しかしだなぁ、そんなつもりで……」

「いいのッ! 今回は頂けないわ! 出来た物を見て、気に入ってくれたらまた来てちょうだい! その方が嬉しいわぁ」

「分かった。じゃあ、頼んだ」

「ええ! 任せてッ!」


 なんだかんだと、注文を済ませた長老達はヴェルガー親方の工房へ戻る。


「ビックリやったなぁ」 

「本当ね。まさか、あたしと同じ名前の工房だなんてね」


 シュシュ、そこじゃない。絶対に名前ではない。


「シュシュ、違うな」

「ん、ちげー」

「あらやだ、ハルちゃんまで。何が違うの?」

「シュシュは分かりゃなくていいじょ」

「そうやな」

「ええ、そうね。私、不安になってきたわ」

「え? ミーレまで、何なの?」

「アハハハ! 親方の紹介なんだから大丈夫だろう」

「長老、そうですか?」

「ああ。あの店に置いてあった商品を見たか?」

「あ、いえ」

「どれも良い出来だったぞ。腕は良いんだろう」

「なら良いのですが」

「じゃあ、何が悪いの?」

「なんも悪くねー」

「そうだな、ハル」

「ん、ちょっとシュシュに似てたらけら」


 あらら、ハルちゃん言ってしまった。


「あら、あたしに似ていたかしら?」


 本人が分かっていないならそれでいいさ。シュシュなのか、リンなのか、訳が分からなくなる所だった。



「おう! どうだった?」

「ああ、注文してきたんだが」


 親方の工房に戻ってきた。


「どうした? 何かマズイ事でもあったか?」

「いや、代金を受け取ってもらえんかったんだ」

「なんだ、そんな事か! そりゃそうだ! 討伐してもらっといて、その上代金まで貰ったらドワーフの名が廃るってもんよ!」


 親方まで同じ事を言っている。その気持ちが嬉しいじゃないか。


「長老、親方も受け取ってくれないんだ」

「あたりめーだ! 今回は何を言っても受け取れねーぞ!」

「親方、すまんな。そんなつもりじゃないんだが」

「おう、気にすんな! ガハハハ! それよりハル、デスマンモールを裏に出してくれるか?」

「ん、分かっちゃ」


 工房の裏側に回ると広い倉庫になっていた。資材置き場にでもしているのだろう。何種類もの鉱石が積まれている。


「そこら辺に出してくれ」

「おー」


 ハルが無限収納からドサドサッとデスマンモールを出した。


「スゲー数だな。どれもこれも綺麗じゃねーか! 兄さん達の腕はスゲーもんなんだな! もう坑道は入れんのか?」

「ああ、もう安全だ。入れないと困るだろう?」

「ああ! ありがとうよ! 恩に着るぜ! 明日帰るんだってな。その前に寄ってくれるか? 剣を仕上げておくからよ」

「ああ、頼んだ」


 気の良い親方だ。リンもだ。こうして小さな取引から国家間の取引に発展していければ言う事がない。

 3ヶ国協定を結んだとは言え、まだ締結されたばかりだ。まだまだこれからだ。

 ドワーフの王も、どちらかと言うと職人気質で気の良い王だ。王たる者は軽々しく頭を下げてはいけない。と、言う意見もあるだろうが、ドワーフ王は国の為に頭を下げるべき時に下げる事のできる人物だ。

 3ヶ国協定は上手く保たれるであろう。そうなると、3ヶ国の結びつきは密に強固になって行くだろうと思われる。

 アンスティノス大公国はどうするのか?ヒューマン至上主義のままだと、受け入れられる事はないだろう。そこで、獣人の大公の力量が問われる事になる。

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