第209話 ヴェルガー親方
「おやかちゃー! 来たじょー!」
一行は、エルダードワーフのヴェルガー親方の工房にやって来た。アヴィー先生だけまだ残って薬湯を作っている。
「怪我自体は回復魔法で治したけど、血を失っているのよ。だから、薬湯を多めに作っておくわ」
と、言って残っている。親切で面倒見の良いアヴィー先生だ。
「おう! 来たか! 待ってたぜ!」
相変わらず、大きな声だ。
「お!? 今日はまた見慣れねー兄さんも一緒か!?」
「大森林にあるベースの管理者をしてますリレイと言います。彼は従者のアランです。宜しくお願いします!」
「おう! 兄さんも男前だな! ハッハッハ!」
声が大きい。と、言うか、うるさい。その上、リレイの肩を大きなゴツイ手でバシバシと叩いている。
「親方、今日は良い物を持ってきたんだ」
「おいおい、長老。まさか!?」
「その、まさかだ。ハル」
「じーちゃん、ここれ出してもいいのか?」
「1頭だけ出そうか」
「分かっちゃ」
ハルが無限収納から、ドドンとデスマンモールを出した。
「おおー!! スゲー綺麗じゃねーか!」
「首を狙っていたから他には傷が少ない筈だ」
「スゲーじゃねーか!」
「親方、これが全部で14頭分あるんだ」
「なんだとッ!? 14頭だと!?」
「親方の方で適当に分配してもらえたらと思ってな」
「ギルドに売らないのか!?」
「ああ。王とも話はついている」
「なんだと!? それじゃあ、討伐してもらったのにタダ働きじゃねーか!」
「討伐は協定で決めた事だから良いんだ」
「いやいや! 良くねーだろ! 俺らが楽して得するだけじゃねーか!」
「親方、代わりにと言ったら何だが」
「おう! なんでも言ってくれ!」
「リレイとアランの剣のメンテナンスを頼めるか? それと、ミーレとカエデなんだが……」
へ? て、顔をしているカエデ。君の事だよ。
「おう、どうした?」
「普通のメイド服で討伐するってのもなぁ……」
「なんだ、そう言う事か! それを言うなら皆じゃねーか!?」
「いや、ワシら……ああ、ハルもだ」
「ん? じーちゃん何ら?」
「ハル、リヒト達とワシは旅や討伐の時は服装が違うのだが気付いておったか?」
「知りゃねー」
「ワシらは防御の高い服なんだ。普段、国で着ている普通の服とは違うんだ。戦闘服の様なもんだ」
「しょうなのか?」
「ああ。ハルは持っていないだろう?」
「ん。なりゃ、かえれとみーりぇもら」
「そうなんだ。だから、親方」
「ああ。ワシは専門外だ。だが、良い職人を紹介してやるさ!」
「助かる! 親方、ありがとう」
「それくらいの事、どうって事ねーさ! 待ってな。今、紹介状を書くからな!」
親方はそう言って、便箋にスラスラと何か書いている。
「長老、そうだったな。忘れてたけど、ハルとカエデとミーレは普通の服装だったな」
「そうじゃろう。ワシも、シュシュが言ってるのを聞いて思い出したんだ」
「でしょぉー!? あたしってよく気がつくのよ! なんたって知性がね……」
「ほら! これ持って行きな!」
「また!? またなの!? あたし喋ってんのに!」
「ワハハハ! すまねーな!」
リレイとアランは親方に剣を見てもらう事になった。長老達は親方に紹介してもらった工房へと移動した。
「ここじゃね? 長老」
「ああ。らしいな。親方の地図は分かりにくいな。工房の名前は合ってるな」
皆で、看板を眺めている。
「え……マジかよ」
「ありゃりゃ」
「嫌な予感がするな」
「いや、長老。大丈夫だろ?」
「そうだな。そうそうこんなキャラはいないだろう」
「やだ、なぁに? 何でみんなあたしを見るの? やっぱあたしの魅力が……」
「とにかく入ろう」
「だから! あたしまだ喋ってんの! もう、何かお決まりみたいになってきてるじゃない! 嫌だわ!」
ブーブー言うシュシュをスルーして長老が入って行った工房の名前がなんと……
『シュシュ』だった。そりゃあ嫌な予感もするだろう。
「すまん、紹介されて来たんだが」
「はぁ〜いぃ!」
店の奥からドワーフが出てきた。どう見てもお兄さんだ。声も野太い。だが……
「なにかしら? 紹介って言ったかしらぁ?」
あらら。嫌な予感は大抵当たるものだ。
出てきたドワーフは髭こそ生やしてはいないが、茶色のおさげ髪に小さなピンクのリボンを付けている。が、どう見ても男性だ。しかも、筋骨隆々で手足も太い。
小さいドワーフのオネエさんなのか? ドワーフにもオネエさんがいるのか!?
「あら! エルフさんなのぉ? あれかしら? デスマンモールの討伐に来てくれたのかしらぁ?」
「そうなんだ。それでヴェルガー親方に紹介してもらって来たんだ」
長老が、親方の紹介状を出す。それを受け取り読むドワーフ。
「じーちゃん、じーちゃん。シュシュと一緒らな」
「ああ、そうらしい」
「やだ、なぁに?」
「お店の名前がシュシュなんらよ」
「そうなの? 趣味いいじゃない!」
「え? 何かしらぁ?」
「いや、この虎の聖獣の名前もシュシュなんだ。雄だけどな」
「まあ! そうなのッ!?」
「あたし、シュシュよ。よろしくね!」
「やだぁ! 超カッコいいじゃなぁいッ!」
そう言いながら、シュシュに抱きついている。もう、何が何だかどっちが喋っているのか訳が分からない。
「あたし、シュッツリンて言うの。だから工房の名前が『シュシュ』なの。あたしの事はリンて呼んでねぇ!」
何がだからシュシュだ? 何でリンなんだ? もう、どっちがシュシュでどっちがドワーフなのか分からなくなってきた。
「あらやだ! 可愛いじゃない! リン! センスいいわね!」
「そう? そう思う? 嬉しいわ! シュシュも凄くカッコいいのに可愛い名前なのねぇ!」
「あたしの名前はハルちゃんがつけてくれたのよ」
「ハルゥ?」
「あい、はりゅれしゅ」
「やだぁ〜! 超可愛いぃ〜! めちゃ可愛いぃ〜! 天使じゃなぁいぃ!」
「でしょぉー!? ハルちゃんはとっても可愛いの! なのに鬼強いのよ!」
「こんなに小さくて可愛いのに強いの!? 凄いじゃない! エルフって凄いのねッ!」
「いや、ちょっといいかの?」
「あらやだ、ごめんなさい。防具よねぇ?」
「そうなんだ。ハルと、そこの侍女がミーレ、猫獣人がカエデだ。3人の戦闘服を頼みたいんだが」
「分かったわ! えっとぉ……」
「ワシは長老でいいぞ。そっちはリヒトにルシカ、イオスだ」
「まあ! みんな超イケメンじゃない! エルフって本当に綺麗なのね! 眼福だわ! 眩しいわよ! でも、あたしはハルちゃんが1番ね! もう、食べちゃいたいぃ! もしかして、背中に天使の翼を隠してたりしない?」
意味不明な事を言いながら、クネクネしている。いやいや、みんな引いてるぞ。引いてないのはシュシュくらいだ。
「ふふふ! あなた、趣味が良いわ!」
もう、好きにしてくれ。
「あれでしょ? お兄さん達みたいな服にすれば良いんでしょうぅ?」
「分かるか?」
「当たり前じゃない! 分からないとこの仕事やってらんないわよぅ!」
「お、おう……」
いつも堂々としている長老が押され気味だ。珍しい。
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