第191話 ヒューマン族
長老が話を続ける。
「でだ。ワシも今すぐには出られない。明後日、出発と言う事で考えておいてほしい」
「じーちゃん、おりぇもか?」
ハルが小さな手を上げて聞いた。
「ハル、嫌なら留守番していても構わないぞ」
「じーちゃんとりひとが行くなりゃおりぇも行くじょ。けろ、おりぇ小っせーから邪魔じゃねーか?」
「邪魔なもんか。ハル、嫌じゃないならじーちゃんと一緒に行こう」
「ん」
ハルも少し考えたらしい。邪魔な訳がない。確かにハルはちびっ子だが、ハルは何気に万能だ。魔法も闇以外の全属性を使える。戦える。薬湯やポーションだって作れる。知識だってあるし、コハルもいる。そんな3歳児は他にはいないだろう。
「ハル、その代わり疲れたら直ぐに言うんだぞ。じーちゃんが抱っこしてやるからな」
「じーちゃん、らいじょぶら」
長老はハルが疲れていなくても、結構いつもハルを抱っこしているよな? 曽孫が可愛いのは仕方ない。
「そう言う事だ。ルシカ、イオス、ミーレ、カエデ、それにシュシュ。頼んだぞ」
「「「はい、旦那様」」」
「任してちょうだい」
こうしてまたいつものメンバーでのアンスティノス大公国行きが決まった。出発は明後日の朝だ。長老がシュテラリール家からアンスティノス大公国の入り口近くまで転移させる。
「ねえねえ、ミーレ。またユニコーンに乗って行くの?」
「シュシュ、違うわよ。ユニコーンでアンスティノス大公国に行ったら目立つじゃない。ユニコーンは基本、大森林の中だけよ。普通の馬で行く事になるわ」
「なんだ、そうなの。つまんないわ。ユニコーン、とっても綺麗なのに」
シュシュは、やっぱマイペースだ。
それから皆準備にバタバタし出した。ミーレはハルの用意を。ルシカは厨房に籠って食材をマジックバッグに入れたり予備の料理を作ったり、薬草を確認したりと忙しい。
イオスとカエデは変わらず訓練だ。何が起こるか分からない。不測の事態に備えて、カエデのスキルを確認したりしている。ハルは変わらずシュシュやコハルと一緒に遊んでいる。
「かぁ〜めぇ〜◯ぁ〜めぇ〜、はぁぁ〜!!」
「ぎゃぁ〜! ハルちゃん何飛ばしてんのよ! 危ないじゃない!」
「アハハハ! しゅしゅなりゃ避けりぇりゅらろー!」
「ビックリしたわッ! 言ってよ! 先に飛ばすって言って!」
この2人……いや、1人と1頭は何をしているんだか。
「シュシュ、余裕で避けないとダメダメなのれす」
「ねぇ、ハルちゃん。またヒューマンの国ね」
「ん、シュシュは小っさくなんねーとな」
「あら、そうだったわ。面倒ね」
「おりぇも髪と耳が見えない様に気をちゅけなきゃ」
「そうなの?」
「しょうら」
「でも、今回はみんなじゃない? だってエルフが浄化していると分かりたくないんでしょう?」
「しょうらな」
「ホント、面倒だわ。何考えてんのかしら? それが物をお願いする態度か? て、言うのよ」
「しゃーねー」
「そうね、仕方ないわね」
「ヒューマンと対立したらダメなのれす」
「こはりゅ?」
「対立はダメなのれす。争いは良くないなのれす」
「しょっか」
そうか、コハルは戦になる事を心配しているのだろう。戦まではならなくても、ヒューマン族と現大公派の獣人族が対立して暴動でも起きてしまったら被害者が出てしまう。それを、危惧しているのだろう。
種族は違うが、争いは良くない。また世界が不安定になってしまう。それは避けなければならない。
「エルフは力を持っているなのれす。その気になればヒューマンの国なんてどうとでも出来るなのれす。でも、それをしないのが凄い事なのれす。神はそんなエルフを評価しているなのれす」
『神は評価している』だが、エルフが犠牲になっている事も多い。ハイエルフ種からエルフ種が枝分かれした事だって瘴気の靄を受けすぎたからだ。
世界が不安定になって、次元の裂け目が出来てしまうといつも犠牲になるのはエルフだ。これらは、遺跡調査から分かった事だ。
「ハル、ここにいたのか」
長老が、ハル達がいる裏庭にやってきた。カエデの訓練を見ながらハル達は遊んでいた。
「じーちゃん」
「カエデの訓練を見ていたのか?」
「ん、みんな忙ししょうらから」
「そうか」
「じーちゃん、こはりゅがヒューマンと獣人の対立はらめらって」
「ああ、コハル。分かっているぞ。争いを起こす様な真似はしないさ」
「長老、さすがなのれす」
「エルフはしない。だが、ヒューマンは何を考えているか分からん。今回、良い機会だから現大公に通信できる魔道具を渡しておこうと思っている。何かあればなるべく早く知らせてもらえる様にな」
「じーちゃん、エルフが介入しゅんのか?」
「お、ハル。難しい言葉を知っておるな。介入はせんよ。ただ、避けられる争いは避けたい。手助けするだけだ。自分達の事は自分達で決めないとな」
手助けも似た様なもんだと思うが。出来るだけ早期に最小限にと考えての事だろう。
「自分の立場が偉くなるとな、人は付け上がるんだ。我が身を振り返る事をしなくなる。そして、もっともっとと欲が出てくる。自分より出来る者や立場が上の者を蹴落とそうとする。嫉妬する。妬むようになる。それがいかん。ヒューマンの中には、何年たってもそれが分かっていない者がいる」
「長老の言う通りなのれす」
「ヒューマン至上主義だな。あれはいかん。ヒューマンなんて何の力もありはせんのに」
その通りだ。だが、ヒューマン族は数だけは多い。その数の暴力で自分達より力を持っているハイヒューマンを滅ぼしたのだ。それは教訓だ。力がないからと侮ってはいけない。
「だが、警戒は忘れてはいかん。ハルもしっかり身を隠すのだぞ」
「分かっちゃ」
大丈夫だ。長老は全部分かっている。ヒューマンの悪い面も、恐ろしい面も、馬鹿らしい面も、そして良い面もだ。
アヴィー先生の周りには気の良いヒューマン達がいた。それも、忘れてはいない。
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