第157話 やるしかない!

 壁画には、もう1つの部屋に入る扉が描かれていた。今いる部屋だけではない。もう一部屋あるんだ。


「おばばしゃま、あっちらって」

「ああ、もう一部屋あるんだね。あの扉だ」

「ああ」


 ハルとおばば様、青龍王は精霊の声を聞いているのだろう。3人に先導されて空間の奥の壁にある扉へと向かう。壁画に描かれていた部屋へ精霊に導かれながら向かう。


「でっけーな」

「ドラゴン形態のまま通れる様にだろう」

「そうだね」


 部屋の奥には、ドラゴンがそのまま通れる程の大きな扉があった。青龍王が、扉を開ける。分厚い扉がゴロゴロゴロと重そうな音を立てて開く。ほとんど壁一面を真ん中から両側に開放できる様になっている。

 中に入ると同時に壁や天井に設置された光の魔道具に明かりがついた。順に、その空間をすべて照らし出す様に明かりがついていく。まるで、シェルターの様な空間だ。


「この部屋が壁画にあったもう1つの部屋なのか?」

「ゲレール殿、そうらしい。しかし、ここは……おばば様、エネルギーの吸収か……?」

「長老、よく分かったね。流石だよ。噴火エネルギーを吸収していたんだ。とんでもないエネルギー量なんだろうね」


 シェルターの様に補強され密閉されたこの空間、何処かの競技場位の広さがある。ハルの前世で例えると、サッカーのフィールド位の広さはありそうだ。

 その中に、直径10m大位の巨大な円が5つ。よく見ると、隣の空間にあった台座の様な物が埋め込まれそこにはビッシリと魔石が嵌め込んである。上部には大きな魔法陣が描かれて制御されているらしい。

 魔石を嵌め込んである円形の台座と、天井に描かれている魔法陣の間には古代の言語で書かれた術式が太いパイプの様に繋がり微かに揺れている。術式が仄かに光って見えるのはエネルギーのせいか?


「これは……少しずつ影響がない程度のエネルギーを放出しているのか? でないと、火山活動のエネルギーを吸収するだけで抑えられる筈がない」

「長老、その通りだ。魔石のプールでエネルギーを集め、術式のパイプで流し、魔法陣で制御しながら放出する。これがあるから、大きな噴火に繋がらないんだ」

「とんでもない制御装置だ……」


 青龍王の説明に、ゲレールが思わず呟いている。


「こんな高度な設備に術式……いや、魔法陣もだ。現代では使える者はいないぞ」

「長老、ハイエルフでもか?」

「え、ええ。ランロン様、少なくともワシには無理です」

「長老が無理なら出来る者はいないだろうね」

「おばば様……この魔石も黒くなっている」

「ああ。同じ様に浄化しないといけない」

「ワシ達の魔力量で浄化できるかどうか……」

「長老様、そんなにですか……」


 ゲレールは驚くしかない。


「じーちゃん、やるっきゃねーじょ!」


 おや、ハルさんやる気スイッチが入っちゃったね。ハルは手に魔法杖を持って掲げている。フンスッ! と、聞こえてきそうだ。


「ハル……ああ、そうだな。ワシらがやらんと誰がやるんだって話だな」

「じーちゃん、しょうら!」

「アハハハ! ハル、珍しくやる気じゃねーか!」


 そう言いながら、リヒトも手に魔法杖を持っている。初めて見るリヒトの魔法杖。

 基本の形はハルと同じだ。ハルの魔法杖はヘッドとなる先端がゆるくカーブしてオパールグリーンのオーブがついたエンブレムを抱え込むように丸くなっている。

 リヒトの魔法杖はブルーにゴールドがキラキラと煌めいているオーブがついたエンブレムだ。


「そうね、私達以外に誰が出来るの!?」


 アヴィー先生も魔法杖を出した。透き通った綺麗なブルーのオーブがついたエンブレムだ。


「アハハハ! やる気じゃねーか!」


 長老の魔法杖はグリーンにゴールドが煌めくオーブのついたエンブレムだ。


「やるなのれす!」


 コハルは魔法杖はない。拳を作って短い片手を上げている。


「やだ! 超感動しちゃう! あたしも浄化を使えれば手伝うのに!」

「シュシュ、それは私達だって同じ気持ちですよ」

「あら、ルシカもハイエルフなんでしょう?」

「ルシカや俺もハイエルフだけどダークエルフだから浄化は使えないんだ。悔しいけどな」

「イオス、そうなの。聞いちゃって悪かったかしら。ごめんなさい」

「いや、俺達に出来る事をするまでだ」

「イオス、そうですね。杖を使うと言う事は全力で浄化するのでしょう。その後が心配ですからね」

「ああ、ルシカ」

「おばば様、ランロン様、申し訳ありませんがフォローをお願いします」

「もちろんだ」

「そうだよ、任せな」


 長老達が、魔石が引き詰められた円形になったプールの場所へと移動する。

 長老、ハル、アヴィー先生、リヒト、コハルで5つのプールのそばに立ち準備をする。其々が1つのプールの魔石を浄化しなければならない。4人が杖を両手で持ち集中しだした。コハルは変わりなく飄々と空中に浮かんでいる。さすが聖獣。余裕さえ見せている。


「カエデ、シュシュ。ハルを頼みますよ」

「ルシカ兄さん、分かった」

「任せてちょうだい」


 そして、ルシカはリヒトの側に。イオスはアヴィー先生、長老の側には青龍王、コハルの側にはおばば様が、何が起こっても対処できる様にフォローにつく。


「皆、準備は良いか!?」

「おー!」

「いいわよ!」

「いつでもいいぞ!」

「やるなのれす!」


 長老の合図で、4人と1匹が浄化をする。


「「「「ピュリフィケーション」」」」

「ぴゅりふぃけーしょん」


 其々の魔法杖が一瞬にして光り出し魔石のプールを浄化する。まだ魔力を込め続けているのだろう。4人の杖についたオーブが光ったままだ。コハルの身体も光っている。

 光がすべての魔石を包み込む。部屋中に光が溢れ出し、目映いばかりの輝きで満たされていく。


「凄いわ……」

「シュシュ、ハルちゃんに気をつけなあかん」

「カエデ、分かっているわ」


 目も眩む様な光が魔石に吸い取られていく。そして、光が収束していくと同時に黒くなった魔石を浄化していく。

 すべての魔石が透明な輝くクリスタルに変わっていった。


「やった! ハルちゃん、成功やで!」

「かえれ……」

「凄いわ! みんな、凄い!」

「アヴィー先生!」

 

 イオスの叫び声で、皆がアヴィー先生を見る。膝から崩れ落ちるようにアヴィー先生が倒れた。イオスが間一髪抱き止める。横を見ると、リヒトも片膝を突いている。


「ばーちゃん……!」


 そう言いながら、ハルもコテンとその場に倒れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る