第134話 精霊について

「では、私はハルの為に美味しいオヤツを作るとしましょう。おばば様、またキッチンをお借りしますね」

「ああ、好きに使ってくれていいよ」

「ルシカ兄さん、自分も手伝うわ」

「ええ、カエデ。お願いします」

「じゃあ、あたしはハルちゃんに添い寝しようかしら」

「なんでだよ!」

「あら、リヒト。駄目なの?」

「シュシュ、お前戦う時に風を操るのか?」

「イオス、どうして?」

「遺跡で戦ってた時に風の刃を飛ばしてたよな?」

「あら、よく見ているわね。そうよ。あたしは風よ」

「白虎だからそうだろうよ?」

「おばば様、そうなのですか?」

「ああ、イオス。白虎は風を操る。エルフ族と同じだね。相性が良いのだろう。シュシュは聖獣なんだろう? 使えて当たり前さね。シュシュ、身体の大きさも変えられるだろう?」

「もちろんよ、自由自在よ」


 コハルはもちろんだが、シュシュもだ。聖獣の力は人知を超える。


「で、その遺跡の事を詳しく教えてくれるかい?」


 リヒトが遺跡での事をおばば様に説明した。壁画の事。原初のエルフ族と協力してドラゴンも地上に発生した瘴気の靄の対策をしていたと描かれていた事。

 そして、もう1つ壁画があった事。それは、ハルが精霊に誘導されて発見した事。そこには、エルフ族とドラゴンだけでなくハイヒューマンも瘴気の靄を消そうと協力している事が描かれていた事。


「そのハイヒューマンの事が描かれている壁画なんだが、最初は何も描かれていない只の壁だったんだ。そこにハルが誘導されてハルが壁に触れた途端、壁画が浮かび上がってきたんだ」

「そんな不思議な事があるのかい!?」

「おばば様、目の前であったんだ」

「リヒト、そうだったな。それに精霊の声だがハル以外誰も聞こえていなかった」

「長老、グウロンが一緒だったんだろう? あれも聞こえなかったのかい?」

「おばば様、そうなんだ」

「それは……壁画の内容と言い、ハルのハイヒューマンの血に反応したとしか思えないね」


 そう言いながら、おばば様はまた考えている。


「しかし、おばば様。エルフ族ってスゲーんだな」

「なんだい? ホンロン」

「原初のエルフ族ってスゲーな。そのお陰で今があるって事なんだろう?」

「そうなるね」

「おばば様。話が凄すぎて、俺ついてけねーよ」

「ホンロン、ちゃんと聞いていたかい?」

「ああ、聞いていたさ」

「お前さんがスゲーと言ったエルフ族とドラゴンは悠久の昔から交流を持っていたんだ。壁画に描いてあったんだろう? 瘴気の靄を一緒に消して回っていたと。誇らしい事じゃないか」

「あ……ああ。まったくだ」

「ホンロンはそれを知ってどうするんだい?」

「それに恥じないように生きて行くだけだ」

「そうだ。それで良いんだ」

「ホンロン、明日帰る時にあたしも乗せて行っておくれ」

「ああ」

「エルフ族との結びつきをより強固にしないとね」

「あ? ああ、そうだ。エルヒューレ皇国と協定が結ばれたぞ」

「そうなのかい?」

「ああ、一昨日な」


 紅龍王が2国間の、相互協力及び安全保障協定を説明する。


「それは良い事じゃないか。だが、そうなると……」


 おばば様が考えている。


「長老、アヴィーが心配だね。ヒューマンの国にまだいるんだろう?」

「おばば様、そうなんだ。一応アヴィーにはパーピを飛ばしてある」

「あの子なら大丈夫だとは思うが」

「ああ、念のためだ。何も知らないよりは知って準備できる方が良い」

「その通りだね。ホンロンをヒューマンの国まで迎えに行かそうか?」

「おばば様、俺が行ったら余計に大事になるぞ」


 そりゃあそうだ。いきなりドラゴンが現れたら、ヒューマン族でなくても慌てる。てか、普通に驚くぞ。攻撃されるぞ。


「帰りにでも迎えに寄ってみるさ」

「ああ、それがいい」


 さて、ハルさんです。自分がお昼寝をしている間にそんな話をしているとは露知らず。そろそろ、起きるようですよ。部屋にはミーレとシュシュがいた。


「……だっしゃー!!」

「えッ!? なに!?」

「シュシュ、ハルの寝言よ。時々変な寝言で起きるのよ」

「びっくりしちゃったわ」

「ん……よく寝たじょ」

「ハル、お水飲む?」

「みーりぇ、果実水がいい」

「はいはい。起きてきなさい」

「ん」


 ハルはおばば様のベッドからよいしょと出てきてソファーに座って果実水をもらう。


「ふぅ……よく寝たかりゃ次はりゅしかのおやちゅら」

「はるちゃーん、おやつできてるでー」

「かえれ、たべりゅ」


 ハル達はおばば様や長老達のいる部屋へと出てきた。


「ハル、起きましたか。おやつ持ってきますね」

「りゅしか、ありがちょ」


 いつもの光景だ。ルシカのおやつを待つ。皆でおやつだ。変わらない和やかな光景。ハルの前世にはなかった時間だ。

 これからも、変わらない。ずっとハルは1人じゃない。



「さて、ハル。精霊について話そうかね」

「おばばしゃま、たのむじょ」

「精霊はね、そこら中にいるんだ。エルフ族は精霊の力を借りる精霊魔法を使うだろう? それと同じ様に色々な事を助けてくれている」

「ほう」


 おばば様の話によると、遺跡が何万年も今の状態で保たれているのも恐らく精霊が守ってくれているからだろうと言う話だ。

 それだけではない。作物が豊かに実るのも、花が見事に咲くのも、木々が成長するのも、そんな日々の色々な事に精霊の力が関わっているのだそうだ。

 竜族の中でもドラゴンは精霊の声が聞こえたり、姿が見えたりするらしい。そのドラゴンが調査した結果だ。

 何故、ドラゴンは精霊との親和性が高いのか?

 何故、精霊魔法を使うエルフ族が精霊の声さえ聞くことができないのか?

 分からない事はまだまだあるが。おばば様はそんなドラゴンの中でもはっきりと精霊の声を聞く事ができ、姿も見る事ができる。精霊達と意思疎通を図れるんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る