第101話 ドワーフの2人
「君達が、遺跡周辺の洞窟で魔鉱石を採掘するのは構わないんだ。でも、あの地下へ降りる入り口があった場所はもう遺跡の敷地内どころか中心だっただろう? 遺跡の敷地内では採掘してはいけない事になっている。遺跡を傷付けてはいけない。遺跡を守る為なんだ。それを理解していないのか?」
リヒトが問う。
「いや、だって目の前に魔鉱石があったらそりゃ採掘しますよ。魔鉱石を採掘しにわざわざ来てるんですから」
ドワーフの青年が悪びれもせずに言った。
「だからな、それは違反なんだよ。魔鉱石だろうと何だろうと、遺跡の敷地内にある物を採掘したら駄目だ。まして、割ってしまうなんて言語道断。君達の国へ正式に抗議する事になる。今回の事で、今後ドワーフ族は採掘できなくなるかも知れないぞ」
「そんな……! そんな酷いじゃないですか!」
「君達がルールを守らなかったからだろう? あの後どうなったか知らないのか? 命が危なかったんだぞ」
「なんか……黒い靄が出てきてヤバイと思ったから逃げ出したんですけど……」
黒い靄が出てどうなったか、リヒトが説明する。予定を過ぎても戻って来ないから、ベースから捜索隊が出て救助した事。
ベースから捜索隊を出したのが翌朝だ。それまでは、どうやら靄が少しずつ地上に出てきているだけで魔物はまだ出現していなかったのだろう。
それでも、捜索隊が発見した時には靄も辺りに漂っていてチラホラと魔物が出てきていたそうだ。
2人が倒れていた場所も運が良かった。魔物は何故かベースに向かって進んでいた。と、言うよりも大森林の中心方向ではなく、大森林の外へ向かって進んでいたんだ。2人は進行方向からズレて倒れていた。それでも、魔物に引っ掛けられたりしたらしく、傷だらけではあったものの致命傷はなかった。本当に幸運だったんだ。
もしも、魔物の進行方向に倒れていたら魔物に踏みつけられて命はなかっただろう。
捜索隊が2人を救助して直ぐに遺跡が黒い靄で包まれた。すると、地下から一斉に魔物が出てきた。そして、黒い靄のせいで魔物が押し寄せた。それを全てベースのエルフ族で鎮圧した事をリヒトは説明した。
「俺達は知らなかったんだ! ただ魔鉱石を採掘しただけで……」
「ヴォルノ、黙って」
「何だよ、ジャーノ。偉そうに!」
少女のドワーフがベッドの上で頭を下げた。
「申し訳ありません! 私たちが間違っていました。ご迷惑お掛けしてすみません! なのに助けて頂いて、ありがとうございました!」
「ジャーノ、俺達は悪くないだろう!」
「馬鹿! ヴォルノが掘ってはいけない場所を掘ったのよ! 私達が悪いの! そんな事も分からないの? だからあんたを連れてくるの嫌だったのよ!」
「お前、何だよ! 偉そうに! ジャーノだって止めなかったじゃん!」
「だからよ! だから謝るの! とっても迷惑を掛けたのよ! なのに命を助けて下さったのよ! そんな事も分からないの!?」
「はぁ!? だから俺は魔鉱石を採掘してただけだろうが!!」
「だーかーら!! 採掘してはいけない場所だったのよ!」
「そんなの知らねーよ!」
「馬鹿じゃないの!? ちゃんと説明聞いてなかったの!? 大森林に入る前にちゃんと受付のエルフさんが説明してくれたし、案内もくれたわよ!」
「だから、そんなの知るかってんだ! 魔鉱石さえ採掘出来ればいいんだよ!」
――バコッ!!
少女が身を乗り出してヴォルノと言う少年の頬を殴った。ビンタじゃなくて、グーパンだ。これは痛そうだ。
「イッテー!! 何すんだ!! ジャーノだって一緒についてきたじゃんか!」
「あんた本当に馬鹿ね! 私たちが悪いのよ! 私たちがした事で国のみんなに迷惑かけんの! 分かる!? 私達のせいで、もう採掘できなくなんのよ! 私も悪かったわ。軽はずみだった。あんたが壊しているのをただ見ていたもの。でも、間違っていたと気付いたの。だから、謝るの! 分かる!?」
「ジャーノ……俺、間違えたのか……?」
「そうよ。ヴォルノだけじゃなくて私も悪かった」
「どうしよ……親方に何て言ったら……」
「ヴォルノ、先に謝るの。それからよ」
「お、俺……俺、すんません! 魔鉱石採って帰んなきゃって、そればかり思っていて……すんません! 許して下さい!」
2人して頭を下げている。
「やっと理解したか? それにしても何でだ? ドワーフの国で採れない鉱石はないだろう? どうしてそんなに魔鉱石を?」
「それは……その……ジャーノ」
「ええ、ヴォルノ。全部話すわ。確かに私達の国『ツヴェルカーン王国』で採掘できない鉱石はありません」
ジャーノと言う少女のドワーフが話し出した。少女の方が歳下なのに、しっかりしている。
『ツヴェルカーン王国』では、勿論魔鉱石を採掘できる。魔鉱石の鉱脈があるからだ。それが最近、その鉱脈に魔物が棲みついたのだそうだ。
国でも冒険者ギルドへ討伐依頼を出したり、国の守備隊が出たりして討伐しようとした。しかし、どれも失敗に終わった。
そうこうしているうちに、魔鉱石のストックが残り少なくなった。仕方なく、親方と相談して2人が遺跡まで魔鉱石を採掘に来たのだそうだ。
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