第78話 じーちゃんが来た!

 朝食を食べたら、リヒト達と一緒に街へ出た。毒クラゲ騒動の事もあって、カエデとルシカにイオスはもう何度も街を行ったり来たりしている。使い走りだったり、食料の買い出しだったり。


「いおしゅ、おりぇ自分れ歩きたい」

「ん? まだ人混みは無理だな」

「えー、手をちゅなぐから」

「ハル、もう少し我慢して下さい。この通りを過ぎたら人通りも落ち着きますからね」

「ん、りゅしか。分かった」


 フードを深く被りイオスに抱っこされているハル。キョロキョロとまわりを見るのに忙しい。


「いおしゅ、ここもえりゅふの街とは全然ちがうんらな」

「そうだな。エルフは森と共生しているから街でも木が多いだろう? 出来るだけ木を残して街を作ってんだ。水路も必ず流れている。でも、ヒューマンはそんな意識はないからな。森もないし」

「しょっか……」

「そうね、これだけ不自然に自然がないと息がつまるわよね」

「ミーレ、そうだな。実際、空気も澱んでいるしな」

「あ! いおしゅ! ありぇ! 肉!」

「アハハハ! 肉かよ!」

「ありぇ、ホットドッグ!」

「ハルちゃん、食べたばっかりやん」

「しょうらった。今は満腹ら」

「アハハハ! ハルは食い気かよ」

「りひと、そりぇ何持ってんら?」

「あ? これか? これはだな、アイスだ!」


 リヒトがいつの間に買ったのか、手にアイスを持っている。


「りひと、じゅりーな!」

「ハル、そんなに食えねーだろ? カエデと半分ずつ食べな」

「うん! かえれ!」

「私が買ってきますから、待ってください」


 観光と言うより食べ歩きになってしまっている。そんな一行にチラホラと声が掛かる。


 ――兄さん達、アヴィー先生の知り合いか?

 ――いつも世話になってんだ。

 ――やだ、エルフて本当カッコいい!


「ばーちゃんは街の有名人なんらな」

「みたいですね。アヴィー先生は変わらないですね」

「りゅしか、しょうなのか?」

「ええ。私達の教師をされている時も、街では有名人でしたよ。それに、長老の奥様ですしね」

「ふぅ〜ん。じーちゃんも有名人なんら」

「そうですね。長老ですからね。お二人で国のために色々尽力されていましたから」

「へぇ〜……え、ありぇ!? じーちゃん!?」

「ハル、何言ってんの? 長老がいる訳ないじゃない」

「だってみーりぇ、あしょこ……!」


 ハルが指差す方に、人集りができていた。その中心には、確かに長老がいた。


「長老! 何でいるんスか!?」

「おお、リヒト! 丁度いい、アヴィーの店に運んでやってくれ」

「長老、どうしました?」

「おう、ルシカか。その屋根を修理していて落ちたんだそうだ。骨は大丈夫なんだが打ち身と捻挫をしているようだ」

「それは大変です。痛いでしょう?」

「リヒト様、ハルをお願いします。俺が背負いますよ」

「ああ、イオス」

「じーちゃん! じーちゃん!」


 イオスに抱っこされていたハルが身体を乗り出して長老に両手を伸ばす。


「おお、ハル! 元気そうだな! アハハハ! じーちゃんが抱っこしてやろう!」

「じーちゃん! なんれ来たんら? どーしたんら!?」


 長老に抱っこされ、首に抱きつくハル。嬉しそうだ。


「まあ、色々あってな。アハハハ」


 皆で、アヴィー先生の店に戻る。


「まあ! どうしたの!?」

「先生、怪我人です」

「あら、大変。そこのベッドに寝かせてちょうだい」


 アヴィー先生とニークが素早く処置する。


「じーちゃん、回復魔法は使わねーのか?」

「あの程度ならヒューマンには使わねーな。ヒューマン族は魔法に馴染みがないから反動が出る時があるんだ。アヴィーの湿布で充分だ」

「ほぉ〜」


 リヒト達は奥の休憩室へ移動していて、ハルはしっかりと長老のお膝の上だ。


「ハルちゃん、急に甘えっ子になったなぁ」

「かえれ、おりぇのじーちゃんら」

「君がカエデか。ワシはハルのじーちゃんだ」

「アハハハ! 長老、なんスか? その自己紹介は!?」

「リヒト、ハルのじーちゃんに間違いなかろうが」

「長老、まあそうですが。カエデ、以前に話した事がありますね? エルフの国の皇族で長老です。ハルの曽祖父で、アヴィー先生の旦那さんですね。カエデ、挨拶できますか?」

「うん、ルシカ兄さん。自分、カエデです! リヒト様やハルちゃんに助けてもらいました! よろしくお願いします!」

「ああ、聞いているぞ。まだ小さいのに料理も上手だそうじゃないか。ハルを頼んだぞ」

「はい! はい! 頑張ります!」

「アハハハ、そう緊張するな。ワシは唯のじーちゃんだ。なぁ、ハル」

「じーちゃん、おりぇ光りゃなくなったんらじょ」

「そうか、それはアヴィーだな?」

「うん、じーちゃん分かってたんら?」

「アハハハ! ハルはすぐに突っ込んで行くからなぁ。少しは抑止力にでもなるかと思ったんだが、無駄だったか? アハハハ」

「じーちゃん! やっぱじゅりー!」

「アハハハ、ズルくはないぞ。まあ、いいさ。カエデ、こっちに来なさい」


 長老がカエデを手招きする。一瞬だけ長老の眼がゴールドに光った気がした。

 ハルが陣取っている膝の反対側にカエデを乗せた。


「カエデ、ワシはハルのじーちゃんだ。遠慮する事はないぞ。よう辛抱したな」


 そう言ってカエデの背中を撫でる。


「え……え……そんなん、どうしたらいいんや? ハルちゃん」


 急に膝に乗せられて戸惑うカエデ。


「じーちゃんは何れもお見通しなんら」

「カエデは希少種だな。故に攫われたか? 故郷はもう覚えてないか?」

「う、うん。何も覚えてへん。自分、攫われたん? 親に捨てられたんと違うの?」

「違うな。小さかったカエデを攫った奴がいる。詳しくは分からんが、カエデは捨てられた子ではないぞ」

「そうなんや……そうか……」

「よく辛抱した」

「かえれ、えりゃいえりゃい」


 ハルがカエデをナデナデした。


「ハルちゃん……うにゃ〜ん。そんなん言われた事ないにゃ〜ん! 泣けるにゃ〜ん!」

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