第76話 魔法と言えばコレ!

「ニャハハハ! ハルちゃん、なんやのそれは!」

「かえれ、笑ったりゃらめ!」


 アヴィー先生の自宅の裏庭に、ハルとカエデの声が響いている。


「くっちょ、いけりゅと思ったんらけろなぁー」

「だから、ハルちゃん何したいんや? ピョンピョンして。可愛らしいなぁ」

「ひみちゅ! 出来るまれひみちゅ!」

「アハハハ! ひみちゅかぁ!」

「あー! かえれ! 笑うなー!」


 イオスが2人のお守りにやってきた。


「2人で何してんだ?」

「イオス兄さん! ハルちゃんが! ニャハハハ!」

「とぉッ!!」

「うおっ! ハル! 何してんだ!?」

「せやろ! 笑うやろ!? もう何しても可愛らしいわ」

「ハル、危ない! 落ちたらどーすんだよ!」

「いおしゅ! しゅごい!?」

「え? 何や?」


 カエデがハルの方を振り返る。


「えぇッ!? ハルちゃん何してんねん!?」

「エヘヘへ」

「エヘヘへ、ちゃうで!」

「ハル! 危ないから下りてこい!」

「いおしゅ、らいじょぶら! やった! やったー! れきたー! 飛べたじょー!!」


 さて、ハルは何をしていたでしょう?

 わ飛べたと喜んでますね。そう、飛んだのです。箒に乗って……

 箒に跨って、飛ぼうとピョンピョンとジャンプしていたハルだったが、なかなか成功しなくてカエデに笑われていた。それが、やっと成功してフワリと飛べた様ですよ。

 まあ、やってみたい気持ちは分からなくもないよねー。魔女の宅◯便みたく。


「アハハハ! 超うりぇしぃー!」

「ハル! ハル! 分かったからとにかく下りてこい!」


 イオスが何度もそう言っているのに、ハルは嬉しがって飛んでいる。箒に跨ってふわりふわりとそれはもう満面の笑みで。そのうち調子に乗って宙返りなんてしている。


「ふぉッ! 気持ちいいー!」


 ハルさん、超ご満悦。


「なんだ!? どーした!?」

「リヒト様! ハルが!?」


 イオスの声でリヒトが出てきた。イオスが上を指差す。


「はぁぁッ!? ハル! 何してんだ!?」

「何ですか? どうしました?」

「何? イオス」

「どうしたの? 騒がしいわね」


 ルシカやミーレ、アヴィー先生まで出てきてしまった。


「あー! りひとー! ばーちゃん! 見て見てー!」


 ハルが箒に乗りながらヒラヒラと手を振る。


「ハル! いいから手を離すな! 手を振るな!」

「アハハハ! りひと何れー!?」

「まあ! ハルちゃん凄いわね!」

「ばーちゃん、しゅげーらろ!?」

「ルシカ、信じられないんだけど」

「ミーレ、私もです」


 ハルはフワリフワリと飛ぶ。


「アハハハ! やっぱ魔法と言ったりゃこりぇらよなぁ~!」


 能天気なハル。見ている方はヒヤヒヤしているぞ。


「ハルちゃん! おばーちゃんも乗せてちょうだい!」

「うん! ばーちゃん、いいじょー!」

「アヴィー先生!」

「あら、リヒト。いいじゃない。凄いわよ、ハルは」


 フワリとハルが下りてきた。


「ばーちゃん、後りょに乗って。おりぇに捕まって!」

「ハルちゃん、分かったわ!」


 またアヴィー先生も年甲斐もなく何てお転婆なんだ。さすがハルの曽祖母だ。


「いくじょー!」

「いいわよー!」

「飛べー!」


 2人を乗せた箒がフワリと飛んだ。


「まあ! ハルちゃん凄いわ!」

「アハハハ! ばーちゃん、しゅごい!? アハハハ!」


 ――メキッ……


「あら?」

「ん……?」


 ――メキメキッ……


「ハルちゃん、折れちゃいそうよ?」

「ばーちゃん、しょうみたいらな」


 フワリとゆっくり下りてきた。が……


 ――バキッ!!


「あー!!」


 リヒトとイオスが下で待ち構えていた。


「あら、イオス。ごめんなさい」

「先生……」


 イオスにナイスキャッチされたアヴィー先生。


「りひと、ありがちょ」

「ハル……」


 こっちはリヒトにナイスキャッチされたハル。


「ありがちょじゃねーよ! 何考えてんだ!! アヴィー先生まで一緒になって何してんスか!?」

「だって、リヒト。飛んでみたいじゃない?」

「ばーちゃん、補強しなきゃらな」

「そうね、ハルちゃん」


 いやいや、そうじゃない。懲りていない。


「アヴィー先生、ハル。中に入って下さい」


 これはルシカだ。静かに怒っているぞ。


「ハルちゃん、ルシカが怒ってるわ」

「ばーちゃん、しょうみたいら」


 この2人、さすが曽祖母と曽孫だ。息が合っている。


「ハル、危ない事くらい分かりますよね?」

「あい、りゅしか。ごめんしゃい」

「先生もです。止めるどころか一緒になってするなんて、何を考えているんですか?」

「ルシカ、ごめんなさい」


 家に入って、ハルとアヴィー先生は2人並んでルシカに叱られている。

 ハルなんて、ソファーの上で短いプクプクの足を折って正座状態だ。さすが、元日本人。


「で、どうして箒などで?」

 

 ルシカに睨まれたハルさん。


「やってみたかったんら。箒に乗って飛んれみたかったんら」

「それだけですか?」

「うん、しょれらけ」

「意味が分かりませんね」

「ごめんしゃい」


 小さいハルがどんどん小さくなっていく。並んで座っているアヴィー先生もだ。教え子に叱られて小さくなっている。


「重量軽減してたんらけろなぁ。ちゅぎかりゃは箒を補強しちょく」

「そうね、ハルちゃん。強化魔法を付与してみたらどうかしら?」

「なるほろ……」

「アヴィー先生……」


 あ……懲りていないから……

 余計な事を言っちゃったから……

 ルシカがまた怒っているぞ。


「アハハハ! ルシカ、もういいだろう」

「しかしリヒト様、高さが出ていなかったから良かったものの、一つ間違えば大怪我でしたよ」

「そうなんなかったんだから」

「リヒト様、危ない事は駄目だとしっかり教えないといけません」

「ハルももう分かったよな?」

「うん、りひと。次はちゃんと強化しゅる」


 いや、だから。そういう問題ではない。


「アハハハ! しかしハル。よく飛べたなぁ。先生、あれはフライですか?」

「ね、リヒト。何なのかしら? 分からないわ」

「フライを使える者はいませんよ?」

「ね、ルシカ。そうよね」

「アヴィー先生……」

「だって、私だって分からないもの」

「とにかく、ハル。もうしちゃ駄目です」

「えぇー! りゅしかー! しぇっかく飛べたのにぃ!」

「アハハハ! ハル、1人でするな。俺かイオスがいる時にしろ」

「リヒト様」

「いいじゃん、ルシカ」

「仕方ないですね。極力しない事。もしするなら、リヒト様かイオスが側にいる時に限ってです。ハル、いいですか?」

「うん! りゅしか、分かった!」


 結局、ルシカが折れました。

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