第56話 追跡

「伯爵!!」


 邸の中で大声で叫ぶ。


「イオス殿、聞きました! 申し訳ない! 我が邸で誘拐など!」


 伯爵が慌てて出てきた。伯爵にメイドの事と、門番に衛兵を探してほしいと頼んだ事を報告する。邸の者は誰も外に出さない様にとの指示も忘れない。


「俺とミーレは出ます!」

「分かりました! お気をつけて!」


 イオスがミーレの元へ取って返す。


「ミーレ、どうだ? いけるか!?」

「もちろんよ! 行くわ!!」


 いや、場所は分かったのか? 闇雲に街を探しても見つからないぞ。


 街の道をエルフのイオスとミーレが走る。そりゃあ目立つ。なんせ2人は眉目秀麗、容姿端麗。その上走るのが超早い。キラッキラの髪を靡かせて疾走だ。街の中だと走れないだろうと判断して2人は馬を置いてきた。


「ミーレ、本当に分かってんのか!?」

「分かってるわよ!!」


 ミーレは街の中をどんどん走る。街の中央にある領主邸から大森林側にある街の出入り口に向かって走る。え? まだ走るのか? 街を出てしまうぞ!?

 街の防御壁に設けられた門近くに差し掛かった時、ミーレは急に防御壁に沿って曲がった。そして、近くの建物の陰に隠れた。イオスもそれに倣う。ミーレは、一つの建物を注視している。


「おい、ミーレ。あそこってさぁ……」

「そうよ。衛兵の詰所よ」

「あのさ、念の為確認だけどさ」

「イオス、何よ?」

「衛兵がハルを保護してくれているとかじゃないよな?」

「馬鹿じゃないの? そんな筈ないじゃない。だってハルは地下にいるのよ」

「地下!? 地下なんてあんのか!?」

「隠し部屋か何かじゃないかしら? 一連の人攫いへの関与もあるかもね」

「なんだよそれ!? ちょっと待て、リヒト様に連絡しとくから」


 そして、イオスはまたパーピを飛ばす。

 ヒューマン族には見えていないが、大きさはアゲハ蝶くらいか。その蝶が七色の羽をフワリと舞わせて飛ぶ。と、次の瞬間光を纏いながら消えた。


「衛兵は黒だと見ておく方がいいな」

「そうね。この街、どうなってんの? 本当ヒューマンて、どうしようもないわね」

「どうする? 踏み込むか?」

「イオス、どうしよう?」

「俺の意見を言っていいか?」

「何よ?」

「あのさ、どうせなら一網打尽にしたいんだよ。で、リヒト様が戻るのも待ちたい」

「だから?」

「だからだな。このままここで見張る」

「何それ!? あそこにハルはいるのよ! 怖い思いをしているかも知れないじゃない!」

「いや、ハルはまだ寝ているらしいんだ」

「え……? もしかして薬を!?」

「ミーレ、違う違う。お昼寝だ」

「お、お昼寝……!?」

「ああ、コハルが言ってた。まだ寝てるって」

「そう……怖い思いはしていないのね。じゃあハルが起きる前に……」

「いや、だからさ。せめてリヒト様を待つ」

「イオスー! 待てない! 待ってらんない!」

「馬鹿、もう直ぐそこまで戻って来てるから」

「そうなの?」

「ああ、多分今頃は馬を隠してこっちに向かってるんじゃないか?」

「そうなの? ねえ、コハルにもう1度聞いてみてよ。ハルは大丈夫かって」

「あ? 分かったよ」

『コハル、イオスだ』

『イオスしゃん!』


 とうとうコハルは『イオスしゃん』なんて呼んでいる。


『ハルは平気か?』

『まら寝てるでありますれす!』


 あー、やっぱ喋り方がおかしい。ちょっとテンパっているらしい。


『コハル、大丈夫だからな。落ち着け。もう居場所は突き止めた。リヒト様が到着次第助けるからな』

『分かったなのれすなの!』


 コハル、落ち着けー! 言葉が変だぞー!


『よし、コハルはそのまま亜空間で待機だ。もしハルがピンチの時はハルを守れ。頼んだぞ』

『もちもち守るなのれす!』


「あー、コハル。テンパってんなぁ」

「どうして? ハルに何かあったの?」

「いや、まだハルはお昼寝中だ。ただ、コハルがテンパってて言葉がおかしい」

「え? 意味分かんない」


 うん、そうだろう。これはコハルと話したイオスにしか分からない。確かにコハルの言葉がおかしい。その時、パーピが……


「あ、リヒト様着いたぞ」

「え? どこ?」

「ここだ、ミーレ」


 後ろから頭をコツンとされたミーレ。


「リヒトさまぁ! すみません! 私が付いていながら!」

「ああ、もうデカイ声出すなよ。バレるだろ?」

「すみません……」

「あの地下か?」

「はい、リヒト様」

「あの地下、スゲー広いんだよ。戻ってくる時に片っ端から衛兵を鑑定したんだ。今、門の出入り口でチェックをしている衛兵は白だ」


 そうか。ショボいとハルが言っていたから忘れていたが、リヒトも鑑定が出来るんだった。


「俺達が一緒に出た衛兵も皆白だった。衛兵が怪しいと連絡があったから出来た事だ。イオス、よく冷静に情報を集めた」

「いや、リヒト様。俺も一緒にいたのに申し訳ないです」


 そう、そしてイオスは冷静な訳ではなかった。結構テンパっていた場面もあった。俺のバカー! と、何度か言っていた。それは黙っておく事にしよう。


「確実に白だと分かっている衛兵達が反対側を見張っている。中にいる奴等はまだ俺達が戻ってきたのを知らない筈だ。俺が見た限りだと地下はかなり広い。よくこんな空間を作ったもんだよ。だがな、一網打尽にするぞ。そしてハルを無事に助け出す!」

「「はいッ!」」

「リヒト様、反対側には衛兵が何人位いるのですか?」

「イオス、15名だ」

「分かりました」

「イオス、何だ?」

「いえ、ヒューマンはアテにしてません。俺達がハルを助け出しますよ!」

「ああ。必ず無事に助け出す。で、今ハルは?」

「お昼寝中です」

「そ、そうか……クフフフ」

「リヒト様、寝ていてくれて良かったのですよ。怖い思いをしている事を思ったら」

「ああ、ルシカ。そうだな。よし、ハルが寝ているうちに踏み込むぞ!」

「「「はいッ!」」」


 さあ、メンツは揃った。

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