第51話 ヒューマン族

「ハル、あたちまだ出たらだめなのれすか?」

「コハル、食べりゅ?」

「食べるなのれす!」

 

 ハルの上着の内側からコハルがヒョッコリと顔を出した。令嬢が一緒の間はずっと亜空間で我慢をしていた。と、言ってもコハルはまだ小さいので、寝ている事が多い。


「コハル、ヒューマン族の前では出る時も気をつけろ。で、喋ったら駄目だぞ。念話はできるか?」

「もちろんできるなのれす」

「じゃあ、話す時は念話にしよう」

「分かったなのれす」

「りひと、ねんわってなんら?」

「ああ、頭の中で思った事を伝えるんだ」

「おりぇ、できねー」

「できるなのれす! ハルが思う事は分かるなのれす!」

「コハルだけ分かっても仕方ない。宿に入ったらやってみるか。また光っちゃうかも知れねーからな。アハハハ!」

「りひと、笑うな! おりぇも光りたくて光っちゃってんじゃねーし」

「アハハハ、悪りい悪りい。でも母上が初級魔法なら大丈夫だと言ってたぞ?」

「うん、くりーんもらいじょぶら」

「クリーンかよ!」

「うん、覚えちょいて良かった。ありぇは便利ら。れも、風呂はべちゅ」

「リヒト様、色々買って宿に入りますか? ハルも今日位はゆっくりとお昼寝させてあげたいですし」

「そうだな。ミーレ頼む」

「はい、じゃあルシカ行くわよ」

「え、私もですか?」

「当たり前じゃない!」


 ミーレに連れられてルシカも行く。


「ハル、ヒューマンの国では俺達から離れたら駄目だからな。絶対に1人にはなるな」

「なんれ?」

「ハルを攫おうとする輩がいるかも知れないからだ」

「しょっか……」

「ハルは強いけど、気絶させられたらちびっ子のハルなんてヒョイと担いで連れて行かれちまうだろう?」

「うん」

「だから、気をつけないとな」

「ん、分かった」


 暫く待つと、ミーレとルシカが両手いっぱいに何やら買い込んできた。


「リヒト様、ハル、行きましょう!」

「おう」


 てか、宿屋はどこだ? 場所を知っているのか?


「こっちですよ」


 おう、ルシカが知っている様だ。やっぱルシカは頼りになる。

 そんな一行を陰から見ている者がいた……



「うわ、めちゃきりぇいじゃん」

「ハル、一応この街で1番の宿ですからね」

「りゅしか、ちっさいけろ風呂もついてりゅ」

「ええ。この国の平民は入る習慣がないのですが、この宿は貴族が泊まるからでしょうね」

「えッ!? 風呂入んねーの!? みんなくりーん?」

「いえ、ヒューマンは魔力がある人は少ないのですよ。クリーンもそう一般的ではないですね」

「じゃあ、ろーすんら?」

「水を浴びるか拭くかでしょう」


 マジかよ……! て、顔のハル。


「魔力がないと湯を貯めるのも大変なんですよ」

「しょっか……エルフってスゲーんらな」

「何言ってんだ、ハルもだろ!」

「ん〜……おりぇはまら光っちゃうかりゃ」

「アハハハ! そうだったな。ほら食べな。食べて今日はゆっくり昼寝しろ」

「ん、いたらきましゅ」


 ハルも疲れていたのだろう。食べたら自分からベッドに入って即寝落ちした。スヤスヤと寝息をたてるハル。


「本当、可愛いし良い子だわ」

「ミーレ、あの令嬢と比べましたね?」

「だってルシカ、本当にハルは良い子よ。それに賢いわ。あの令嬢は1から100まで言っても理解できないけど、ハルは1を言えば100まで理解しているわ。その上、次からは言わなくても分かっているもの。本当にお利口だわ」

「そうだな。聞き分けはいいし。最初の頃の警戒心が無くなってからより良い子だな」

「リヒト様、そうですね。より可愛くなりましたね」

「アハハハ、そりゃあんだけ警戒されてたらな」

「ハルのルーツが分かったのも良かったのでしょうね」

「ルシカ。私、聞いてびっくりしちゃったわ」

「俺もルシカもその場でびっくりし過ぎて固まったさ」

「そうですね。まさかあのハイヒューマンの血を継いでいるとは……」

「ああ。マジでこの国にいる間は気をつけないと」

「はい」

「ええ」


 そうだ。ハルの祖父であるハイヒューマンを絶滅に追い遣ったのは、この国に住むヒューマン達の先祖だ。ハイヒューマンの高い能力を脅威に感じ、ヒューマン族が団結して数の暴力で絶滅させた。約2000年前の出来事だ。

 ヒューマン族は長生きしたとしても70年〜90年だ。この世界のヒューマン族は100年は生きられない。そんなヒューマン族にとって2000年前等、遥か遠い昔なのかも知れない。

 しかし、長命種であるエルフにとってはそうではない。その時に生きていた者がまだ生きている。長老もそうだ。忘れられない出来事の一つだろう。

 そして、他種族にヒューマン族の悪い印象を植え付けた出来事だ。


 エルフ族は決してヒューマン族には心を許さない。だが、稀にヒューマン族と婚姻する者もいる。

 婚姻中、相手が生きている間はヒューマン族の国で暮らし、相手が亡くなったらエルフ族の国に皆戻ってくる。子供がいる者は子供を連れてだ。そう決まっている訳ではないのに自然と皆がそうする。

 ヒューマン族は他種族を迫害する。いや、同種族であっても脅威と判断したら殲滅する。

 そんな、ヒューマン族の国に半分でも他種族の血を継いだ者がいるとどんな仕打ちを受けるか分からないと言う思いからだ。

 エルフはヒューマンとのハーフであっても迫害したりはしない。小さな子供がいれば、同じ様に皆で慈しみ育てる。

 そして、どの子も不思議とエルフ族特有の身体能力や精霊魔法を受け継がないし、ヒューマン族と同じ年数しか生きられない。成長速度が違うのだ。エルフの親は自分より先に老いていく子供を看取らなければならない。それは、親にとって辛い事だが、何故かそうなるのだから仕方がない。

 それでも、長く生きるエルフはいつしか悲しみを乗り越え、また別の者と婚姻して幸せに暮らしていたりする。

 そんな感じで、エルフ族の特徴を強く継いでいる子がヒューマン族の国には出ていないのだ。

 よっぽど、ヒューマン族の遺伝子が強いのか……ヒューマン族にはエルフ族特有の力を持たせないと決められているかの様だ。

 誰が決めたのか……? 神のみぞ知る。

 いや、決して決まっている訳ではない。

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