第36話 2人の夫人は強い

「兄上、ハルがおびえているではないですか」

「おびえる事などあるものか。ハル、伯父様だ。さあ、呼んでみてくれ」

「あなた……いい加減になさいまし」


 おや、皇后が怒ったぞ。


「皇后よ、可愛いのだ。仕方ないであろう?」

「落ち着きなさいませ。ハル、ごめんなさいね。大丈夫よ。よく来たわね。ご挨拶できるかしら?」


 皇后が柔らかく微笑みながらハルに言った。


「あい……はじめまして、はりゅれしゅ。よりょしくお願いしましゅ」


 ペコリと頭を下げた。


「んん〜、可愛いのぉ〜! ハルよ、本当に会いたかったぞ」

「ありがちょごじゃましゅ」

「なんと! ちゃんと受け答えできるではないか! 可愛い上に利発だ! よし! ハル、伯父様のお膝に来なさい!」

「あなた! いい加減になさいと言いましたわよ」


 あぁ……キリがねー……て、表情のハル。その時だ。いきなり部屋のドアがバタン! と開いて、綺麗な格好をした男の人が2人入ってきた。


「父上! ちびっ子は!?」

「あーもう! だから今日はダメだって!」

「おぉぉ! この子ですね! かぁわいいぞぉー! 本当にちっちゃいんだぞぉ!」


 そう言いながら1人が、ハルを抱き上げクルクルと回り出した。

 ハルは訳が分からず、思わず……


「とぉッ!」


 パンチした! してしまった……

 突然のパンチで怯んだ隙にハルはリヒトの隣に避難だ。


「えぇー! いたぁーいんだぞーぉ!」

「これ! 何をしているの!」

「母上、申し訳ありません。駄目だと言ったのですが、急に走り出してしまって」

「だってー! 兄上! 僕だってちびっ子に会いたいんだぞぉー!」

「だから、今日じゃなくて今度って言っただろう!」

「やだやだー! 今日来てるのにそんなの我慢できないよーぅ!」

「もう! 黙りなさい! ステイ! 2人共そこに座りなさい!」


 皇后の声に反応して、シュバッとソファーに座った2人。


「ハル、ごめんなさいね。驚かせてしまったわね。ほら、貴方達」

「ハル、すまない。私は第1皇子のレオーギル・エルヒューレだ。弟がどうしても君に会いたいと言ってね」

「兄上! 僕も喋りたいです! ハル、僕は第2皇子のフィーリスだぞ。フィーだ! 一緒に遊ぶんだぞぅー!」


 第1皇子に第2皇子だと! 今ハルは第2皇子にパンチしてしまったぞ!? 平気なのか!?


「ハル、気にするな」


 リヒト、気にしなくていいのか? そうなのか? しかし……ハルはだな。


「おりぇは……」

「ん? ん? なんだ? 伯父様に言ってみなさい?」

「おりぇは……ちょうりょうに会いにきたんら!」


 お……ハル。とうとうキレたか?


「だかりゃ、ちょうりょうに合わせてくりゃさい!」


 そう言ってペコリと頭を下げた。


「ふおっほっほ! そうだ! そうだったな! アハハハ! ハルよ、すまんすまん。長老だな。案内させよう。テージュ」

「はい、陛下。では、長老に会いに行きましょう」

「あ、俺も……俺はハルの保護者だからな。ルシカ」

「はい、リヒト様」


 後ろに控えていたルシカも行くらしい。


「ハル、父様も行くぞ」


 あー、やはり言い出した。


「あなた……」

「いや、私もハルの保護者だ」

「あなた…………」


 夫人に睨まれて小さくなってしまった。どちらも夫人の方が強いらしい。

 リヒトは呆れているのか、スルーなのか。

 

「ハル、行くぞ」

「ん……」


 ハルは素直に両手を出す。


「えぇー! 僕も一緒に行くんだぞぉー!」

「これ! フィーリス!」

「だって母上! 僕も一緒に行きたいぃ!」

「レオ、お願い」

「はい! ほら、フィー! 行くぞ!」


 第2皇子が、第1皇子に首根っこを捕まれ引きずられながら出て行った。


「ハァ〜ルゥ〜! 一緒に遊ぼぉぉ〜うぅ!」


 まだ、叫んでいる。あれで第2皇子って大丈夫なのか?


「ハル、俺達も行くぞ」


 リヒトに抱っこされてハルが退出した。


「兄上、いきなりあれはいけません。フィーリス殿下はいけません」

「すまない、あれはどうしようもないのだ。しかし、ハルは何歳と言ったか?」

「来月3歳になるそうです」

「そうか。しかし、3歳とは思えん。しっかりしておる。あれで超大型を倒したか」

「はい、らしいです。それは見ていないのですが、国に来るまでの道中で大型を倒すのをリヒトが見ております。ハル自身は魔法を使った事がないと言っておりましたので無意識なのでしょうが、身体強化を使っていたそうです」

「身体強化か……それに、聖獣もか」

「はい、白い子リスでコハルと言います。コハルも身体強化が使えるそうです。しかも重力魔法も使えるだろうと」

「……聖獣だからか。しかし、よくリヒトが保護をしてくれた。あの様に可愛い子と聖獣が万が一にもヒューマン族などに保護されていたらと思うとゾッとするわ」

「はい」

「リュミ、あなたから見てどうなの?」

「実は昨日ほんの少しだけお勉強をしましたのよ」

「あら、お勉強?」

「はい。ハルが、自分は何も知らないから教えてほしいと」

「まあ……!」


 大人達はハルの話題で持ちきりだ。

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