第6話 ハル 2

 ハルの父は父で、自分は両親には似ていない。何もかも敵わないと劣等感を持ち、勝手に拗らせていたのだろう。そして反抗して祖父の事業の跡を継がずに地方公務員となった。

 なのに、自分の息子であるハルは両親似だった。極め付けがハルの瞳だ。虹彩にグリーンの入った瞳。父の両親と一緒だった。ハルの祖父母の瞳にも虹彩にグリーンが入っていたんだ。


 父は余計に拗らせ、ハルには冷たかった。

 だからと言って父が祖父母にまったく似ていない訳ではない。祖父母が可愛がっていない訳でもない。

 普通よりはずっと目をひく整った容姿、能力だって普通以上だった。だが、それでも祖父母には敵わなかったんだ。

 祖父母はそんな事は気にしていなかった。自分達の息子だと大事に育てた。

 だが、息子は両親と自分の能力の差に劣等感を抱き両親から距離をとるようになり、ハルがお腹にいると言って突然母と結婚した。


 祖父母はハルの家の向かいに住んでいた。祖父母は資産家だった。

 2人共、孤児だと言う。戸籍さえなかったのだと。なのに、2人で支え合い何もないゼロから頑張って資産を作った。その資産があったからこそ、父親は愛人との二重生活の様な勝手もできていた訳なんだが。


 祖父母は、ハルが小さな頃から色んな話をしてくれた。ハルの事を両親に意見もしてくれた。可愛がってくれた祖父母がよくハルに言っていた。


「可愛そうに。悪い事をしたな。何とかしてやらないと」

「私達のせいね……ごめんね、ハル」


 いつも、何かと気にかけてくれていた祖父母。優しかった祖父母も、ハルが高校生の頃に相次いで2人共亡くなった。

 亡くなった祖父母と同じだった、日本人なのに光の加減で虹彩にグリーンが入っている様に見える瞳。珍しい色。母親から、事あるごとに気持ち悪いと言われた色。

 だが、ハルにとってはそれが大好きだった祖父母との唯一の繋がりになってしまった。


 祖父母が亡くなってから、ハルには居場所がなかった。逃げ場がなくなった。

 それでも、いつも通りの時間に帰宅しないと母親がヒステリックに叱ってくる。余計に監視しようとする。

 雁字搦めだった。ハルの心は締め付けられた。苦しかった。身体が普通に健康だったなら、こんな家にはいないのに。弟には優しい母なのに、自分にだけはどうして? 一体何をどうしたいのか?

 そんな事も、もう何も思わなくなって久しい頃にハルは神に呼ばれた。



 刺された訳ではない。車に轢かれてもいない。何日も徹夜した訳でもない。普通にいつも通りにベッドで寝た。

 なのに、ハルは白い雲の上にいた。

 目の前には、白く長い髭をはやし白いフサフサの眉毛で目がよく見えていない白い衣装の翁がフワフワと浮いていた。


「やっと見つけたわいよー。遅くなってすまんすまん」

「とぅ!」


 ハルはいきなり翁にパンチした。が、翁はヒョイと避けた。


「いきなり何するんだわい!」

「いや、怪しいから取り敢えずパンチしとこうと……」

「怪しくないわい!」

「なんだ? じーさん、誰だ?」

「ワシか? 神じゃわい。決まっとるじゃろが。こんなシチュで悪魔な訳ないんじゃわい。怪しくないんじゃわい。ウヒョヒョ」


 フワフワと自称『神』は飛ぶ。


「あー、夢か……」

「いやいや、夢じゃないわい。お前、王道じゃ。テンプレじゃ。まぁ、ちと違うが。ウヒョヒョ」


 また、フワフワ飛んでいる。


「意味不明」

「説明してやるわい。まあ、座れ。ウヒョヒョヒョ」


 目の前に丸いちゃぶ台が突然現れる。


「とりま、茶でも飲むか?」

「お、おう」


 自称『神』がそう言うと、また突然目の前に湯呑みに入った日本茶が出てきた。

 ズズズ〜と、翁が茶を飲む。髭が濡れている。


「で、何なんだ? ここはどこだよ」

「ここか? ここはワシの世界じゃわい。ちと手違いと言うか遺伝子の影響でな、お前さんの身体は地球仕様じゃなかったんじゃわい。見つけるのが遅うなってしもうた。悪い悪い」

「意味不明(2回目)」

「お前のじーさんとばーさんはマジ可哀想な事をしてしもうてなぁ。戻してやれんかったんじゃわい。その縁でお前さんの身体もあっち仕様になってしもうたみたいでな、お前のじーさんに聞いた時は、いやぁマジびっくりしたわい。ウヒョヒョ」

「……」

「お前のじーさんとばーさん、ワシ知っとるぞ」

「俺はお前を知らねーぞ」

「お前のじーさん、亡くなった時にな、無理してわざわざワシにお前さんの事を頼みに来よったんじゃわい。地球じゃあ長く生きれんからと言ってな。じーさんとばーさんの故郷に送ってやってほしいとな。ウヒャヒャヒャ。じゃが、そこそこ成長してくれんとな、こっちに引っ張ってくる時に魂が消えて無くなってしまうんじゃわい。じゃから、お前さんが成人するまで待っとったんじゃわい。そろそろ頃合いじゃろう思うて見に行ってみたらお前さん前おった場所におらんようになっとって焦ったわい」

「あー、じーちゃんとばーちゃんの資産を整理するとか言って引っ越したんだ」

「それから、お前さんの魂の気配を辿ってやっと見つけたんじゃわい。危ないとこだったわい。ギリギリじゃったもんでな。ウヒャヒャヒャ」

「え? じーさん何言ってんだ? 俺、徹夜してねーぞ」

「なんじゃ?」

「刺されてねーし、車にもひかれてねーぞ」

「何言うとるんじゃい?」

「だから、俺死んでねーよ?」

「いや、死んだんじゃわい」

「寝てただけだぞ?」

「お前さんの身体は地球仕様じゃないと言うたじゃろうが。地球の空気や環境に合わないんじゃわい。内臓がやられていくんじゃわい。地球の大気の構成だと、お前さんの身体には負荷が掛かりすぎるんじゃ。ずっと身体が重かったろうにのう。よう頑張ったわい。ま、そのおかげで色々スペックが高くなっとるわい。ウヒョヒョヒョ」

「意味不明(3回目)」

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