第4話 うまうま

「ハル、食べさせてあげるわ」

「みーりぇ、いりゃない。おりぇ自分で食べりぇりゅ」

「でもほら、熱いわよ。フーフーして」

「フュー、フュー。もういいか?」


 プックリとした唇をタコさんのようにしてフーフーと冷ましているつもりみたいだ。結局ルシカが冷ましてやっている。


「はい、どうぞ。ゆっくり食べて下さい」

「りゅしか、ありがちょ」


 小さな手で、スプーンをしっかり握って口に持っていく。大きなお口をあけて、アーンッと口に入れた。


「りゅしか、んまーい!」

「アハハハ、それは良かったです」

「可愛いわねー。ハル、コハルは何も食べないの?」

「フュー、フュー。食べなくてもいいみたいらけろ、おりぇと同じの食べりゅって。こはりゅ、ほりゃ」


 ハルが差し出したスプーンをコハルがハムハムする。食べているのか? 齧っているのか?


「もう暫く安静にしましょうね」

「りゅしか、おりぇ元気ら。腹へってたらけ」

「ハル、一度エルフの国に行くぞ」


 横からリヒトがぶっきらぼうに言った。


「あぁ? りひと、なんれ?」


 ハルの雰囲気が急に刺々しいものに変わった。


「ハルの髪色と瞳の色だよ。国に長老がいるから会いに行こう」

「あぁ? なんれ?」

「だから、ハルが何でこの大森林にいたのかとか、神に会ったとかだよ。それに、ハルはまだ小さい。保護者がいないとな」

「いいよ、おりぇちゅよいし。なんちょかなりゅ。保護者なんていりゃない。長くいりゅつもりもなかったし。りひと達が迷惑なりゃ出てくかりゃいい」

「え? ハル?」

「ごっそーしゃん。じゃ、世話んなった。ありがちょな。こはりゅ、いくじょ」


 そう言ってハルは、よいしょとベッドから降りて出て行こうとする。コハルも慌ててハルの肩にのる。

 淡々と。何も期待していない。何も望んでいない。何も信用していないんだ。



「いやいや! 待てハル! そんな訳にいかねーよ!」


 慌ててリヒトが引き止める。


「あぁ? なんれ?」

「こんな小さなガキを放り出す訳ないだろ! まだまだ大人に守られてなきゃ駄目だ!」

「なんれ? 子供だかりゃって、大人の都合で監視さりぇて縛りゃりぇんのは嫌なんらよ。そんなのもう、うんざりなんら」


 ハルがハッキリと拒絶の意思を示した。

 子供らしくない。何があったのか?


「ハル、俺はお前を監視しようなんて思ってない。ただ、お前の色は特別なんだよ。ハッキリさせておく方がお前の身を守る事にもなるんだ」


 リヒトは本当に心配なのだろう。真剣にハルの目を見て話している。


「ハル、リヒト様の言う通りですよ。確かにハルは強いのでしょう。でも、それだけでは生きていけませんよ。何も、私達の国に居なければならない訳ではありません。ただ、ハルがもっと大きくなって自分で色々できる様になるまでリヒト様に甘えても良いと言う事です」


 ハルは考えている。何がそんなに嫌なのか?


「ねえ、ハル。国に行くのが嫌なの?」

「みーりぇ、そうじゃねー。大人はじゅりゅい。子供らかりゃって、自分達の都合の良いように監視して管理して縛りょうとすりゅ。保護者らかりゃって言う通りにしゃせようとすりゅ。おりぇの意思は無視ら。そりぇが嫌だ。信用できねー」

「ハル、大丈夫よ。リヒト様はそんな方じゃないわ。保護者兼お友達くらいに思っていればいいわよ」


 ハルがジッとリヒト達を見る。コハルがハルの肩に乗っている。ハルと話しているのか?


「クククク……ピルルル」

「こはりゅ、しょう?」

「ピヨピルルル」

「わかった。れも、おりぇが嫌な事はしねー。管理や束縛さりぇりゅと思ったりゃしゅぐに出てく」

「それでいいわ。ハル、そんな事はないからね」

「みーりぇ、しょうか?」

「そうよ。リヒト様がそんな人に見える?」

「人は見掛けらけじゃわかりゃない」


 とことん信じていない。警戒心MAXだ。まだ小さいのに、一体何があったのか。


「とにかく、ハルは3日も眠っていたのです。国に行くとしても、まだ無理です。まだ安静にしていないといけませんよ」


 ハルは仕方なしにベッドへ戻る。


「しゃーねー。本当におりぇは3日も寝てたのか」

「そうですよ。普通の食事が食べられる様になるまではまだ無理です。リヒト様、気持ちは分かりますが焦ってはいけません」

「あ、ああ。ルシカ、すまん。ハルも、すまん。警戒しないでくれ。放っておけないんだ。お前の悪い様にはしないと約束する」

「……わかっちゃ」


 でも、まだかなり警戒をしている。目が鋭いままだ。


 ハルは一体どこから来たのか。

 何故、一人だったのか。

 神と会ったと言うのは、どう言う事なのか。謎だらけだ。




 まだ疲れているのだろう。ハルがスヤスヤと寝ている。


「こうして寝てると、可愛らしいのにな」

「リヒト様、そうですね。しかし、ハルの知能は高いですよ。私たちの言う事は完璧に理解しています。喋り方は辿辿しいですが、使う言葉は大人の様です」

「ああ。まだこんなちびっ子なのに、管理とか監視とか縛るとかって……どういう事だよ」

「そのせいでしょうか……まず説明して、納得がいかないとハルは動かないでしょうね。それに、気に入らないと躊躇わず出て行くでしょう」


 どうして、そこまで冷めているのか。普通はあんなに小さいと大人に頼るものじゃないのか? まだまだ甘えたい歳なのじゃないのか? 知らない場所にたった1人でなんて、泣いていてもおかしくはない。

 なのに、誰も頼ろうとしない。誰も信じていない。ハルはそう見えた。


 その原因は、ハルの前世にあった。

 ハルは転生者だった。この世界の神に突然連れて来られ、その上小さくなっていた。

 まずは、ハルの前世のお話からしよう。

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