第3話 あいちゅはショボかった!

 バタバタと女性が入ってきた。

 ブロンドの長いストレートヘアを顔の横の片方だけ編み込んでいる。

 耳がリヒトより尖っていて、瞳はブルー。見るからにエルフらしいエルフだ。


「良かったわ、なかなか目を覚まさないから心配したのよ」

「ハルと言うんだそうだ」

「そうなんですね。ハル、よろしくね。私はリヒト様の侍女でミーレよ」

「ん、よりょしく。こりぇは、こはりゅ」

「まあ、コハルちゃんもよろしくね。可愛いわね」


 ミーレと自己紹介した女性はハルとコハルを撫でる。ミーレは普通にハルと会話が出来る様だ。


「ちっしぇーし女の子らかりゃ、こはりゅってゆーんら」

「そう、女の子なのね」

「ミーレ、お前なんで分かるんだ?」

「リヒト様、何がですか? ハル、お腹がすいたでしょう? もう少し待ってね。今、ルシカが美味しいものを作ってくれてるわ」

「ん。ありがちょ。みーりぇはわりゅいやちゅじゃないな」


 スゲー! 会話してるよ! て、顔で見ているリヒト。


「あー、ハル。それで何であんなとこにいたんだ?」

「わかりゃん。白く光ってブワッて落ちて、気がちゅいたりゃあしょこにいた。でっかいのがいてビックリした! おりぇちっちぇーし。マジ、ビビった!」

「まあ! そうなの! 無事で良かったわ!」

「ミーレ、ハルは何て?」


 ミーレは理解しているのに、リヒトは全く理解できない様だ。


「え? リヒト様、分からないんですか?」

「りひと、ばか?」

「何でだよ! 馬鹿じゃねーよ!」


 ふーん、馬鹿は分かるんだ。とでも言いたそうな顔のハル。

 ミーレがリヒトに会話の内容を説明している。


「そうだよ、あの超大型はどうしたんだ? もう、絶命してたのか?」

「ううん。おりぇとこはりゅでやっちゅけた」

「えッ!? ハル、本当に? どうやって?」

「え、みーりぇ。ふちゅうに、ちゅどーん!! て。こはりゅのキックも決まった! 超ちゅよい!」

「まあ! まあ! 凄いわね! ハルもコハルも!」

「まーなー」

「ピルルル」


 リヒトをおいてけぼりにして盛り上がっている。


「ミーレ、ミーレ、何て?」

「あー、もう。リヒト様、ウザイですね」


 うわ、侍女にまで酷い言われ方だ。また、ミーレに説明してもらっているリヒト。通訳みたいだ。


「マジかよ!? あんな超大型、そう簡単に倒せねーぞ!」

「しょう? こはりゅと2人で、ちゅどーん一発らった」

「マジか……!? ちゅどーんて何だよ? いや、それよりもお前……いや、ハル。その髪と瞳の色だよ。お前はハイエルフなのか?」

「あ? なんちぇ?」

「ハイエルフだよ。俺と同じ種族だ」

「わかりゃん。おりぇは人間。りひとは、はいえりゅふなのか?」

「おう。この大森林はエルフが管理しているんだ。その中でもハイリョースエルフは皇族だ。ハルの色がそうなんだよ」


 そんな事知らねー。て、顔のハル。


「おりぇ、ふちゅうら。変か?」


 リヒトが言う、ハルの髪と瞳の色。

 髪はエメラルドの様なグリーン掛かったゴールドで肩位の長さだ。今はボサボサで寝癖がついていて、何故か前髪をピョコンと結んでいる。誰が結んだのか?

 瞳はゴールドで虹彩にグリーンが入っている。このゴールドに虹彩のグリーンが希少だった。

 色がどうこう以前に、ハルはパッチリとした瞳に綺麗な二重でちょっぴりタレ目気味のバンビアイ、マシュマロの様な白い陶器肌に薄いピンク色のぷっくりした頬、これまたピンク色に色付いたぷるぷるした唇。誰が見ても、超可愛い幼児だった。


「ハルの髪の色はな、ヒューマン族には絶対に出ない色なんだ。ハイエルフ特有の色だ。瞳の色はもっとだ。虹彩にグリーンが入っているのはかなり特別なんだ。ハイエルフでも滅多にいない。神の祝福を受けている神聖な色だと言われている」


 リヒトの話を聞いて、ハルは見るからに嫌そうに可愛い顔を歪めた。


「ハル、何だ?」

「神って……あいちゅはショボかった」

「はあぁ!? お前、神に会ったのかよ!」

「こっちに来りゅ前に呼ばりぇた。あのじーしゃん、今度会ったらじぇってーにパンチしてやりゅ! 超むかちゅく!」

「おいおいおい!」

「らって、あんなデカイのがいりゅとこにいきなり落としやがって! おりぇ、また死ぬとこらった!」

「え……? ミーレ……」

「はい、リヒト様。一度連れてお戻りになりますか?」

「ああ、その必要がありそうだな。」

「ハル! お待たせしました!」


 場違いな声が部屋に響いて、ルシカが食事を持ってきた。


「あれ? どうしました? ハルの食事を持ってきたのですが?」


 ルシカが手にトレーを持っている。何かとっても良い匂いがする。


「りゅしか、食べりゅ! 腹へった!」

「はいはい。でも、ハル。何日も眠ってましたからね、今日は軽い粥で我慢ですよ。少しずつ慣らしていきましょうね」

「おう、わかっちゃ!」


 ルシカから食事を貰って嬉しそうだ。子供らしくて、可愛い。

 『神』の話に気をとられ、ハルはもう一つの事を忘れている。まだ自分の髪と瞳の色が変わった事に気付いていない。いつ気が付くのやら。

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