3章
第1話 大変申し訳ありません!
ソックス……じゃなくて、レックスさんから逃げることに成功した私達は、リヴァイアさんの背に乗せて貰い、水路をひたすら進んだ。
一日はかかると言われて、狭く暗い空間を通ることがとても怖くなったけれど……私はいつの間にか寝ていた。
十分に寝たあとだったのに、恐怖から現実逃避しようとしたのか、それはもうぐっすりと寝ました!
リヴァイアさんはすごく頑張って泳いでくれたし、体を大きくした諭吉を筆頭に芳三たちも、周囲を警戒して私たちを守ってくれた。
ツバメもアイテムを使ってできるだけ快適に過ごせるように協力してくれて、ずっと起きていたようだ。
そして何より、虎太郎は爆睡している私を支えながら稀に現れる魔物に対応したりしてくれていた。
何もしていないのは私だけ!
水路の先の目的地までは、本当に丸一日かかった。
広い空洞の中にある湖の中に着いたのだが、この上に砂漠が広がっているという。
確かに、ところどころに黄色い砂が溜まっているところがあるし、上からサラサラと落ちているのも見える。
ここは砂漠の地下にある洞窟で、蟻地獄に飲み込まれると落ちてくる場所らしい。
現実には『蟻地獄や流砂に落ちて下の空洞に行く』なんてことは起こらないが、ゲーム通りになっているからか、この世界ではそうなっているようだ。
リヴァイアさんがかつて経験したという。
そして、この洞窟にはオアシスの近くに出る抜け道があるのも見つけたそうだ。
誰にも見つからずにオアシスに行く、というミッションは達成できそうなのだが……。
地に足をつけて、私がまずしたことは土下座だ。
「一人だけ爆睡してすみませんでしたー!」
「ほんまやで! そんなにわしの乗り心地はよかったか! こっちはくたくたや!」
「乗り心地は最高でした! すみませんでしたー!」
人魚の姿に戻った瞬間にばたりと倒れたリヴァイアさんと、土下座する私のやり取りに、みんなが笑っている。
本当にすみません……。
「休めるときに休んだ方がいいよ。一色さんはいつも大活躍だから」
「大活躍は奥村君だから! でも、いっぱい休んで元気チャージしたから、みんなの役に立てるようにがんばるね!」
ぶんぶん腕を振ってアピールしたら、リヴァイアさんがゾンビのように這って私の足にしがみついてきた。
「あーくたびれたー。あの気持ちええ水くれええええ、ぐえっ」
「あ、ごめんなさい! つい蹴っちゃった!」
急に触られたから、条件反射で……!
べしゃっと地面に倒れてしまったリヴァイアさんを慌てて支えつつ、魔法の流水を放ったのだが、気合を入れ過ぎて――。
今度はざぱーんとリヴァイアさんを流してしまった。
「ああっ! またやっちゃった! ごめんなさい!」
「ぎゃー」
「ぐぉー」
「にゃー」
小さいサイズに戻った諭吉と芳三たちも、気持ちよさそうに流れていく。
待って待って~! 行かないで~!
流れていったリヴァイアさんたちを追いかける私を見て、虎太郎とツバメが笑っている。
顔を逸らして必死に隠しているけれど、バレバレだからね!
自分でも「コントか!」と思うようなことをしてしまったので恥ずかしい。
とにかく、リヴァイアさんの元に駆け寄ると、水が気持ちよかったのか、流れた先の地面でいびきをかいて寝ていた。
「奥村君、リヴァイアさんが寝ちゃった……」
あとを追ってきた虎太郎とツバメに伝える。
美貌にそぐわない「ごおおおおっ」という豪快ないびきをかいているリヴァイアさんを見て、二人は苦笑いだ。
「ここまで僕らを運んできてくれてすごく疲れただろうから、しばらく寝かせてあげよう」
「そうだね。みんなも休憩してよ。私、何かご飯作っておくから」
「ぎゃ!」
ご飯、聞いて芳三を筆頭に三匹が私にくっついてきた。
みんなもお腹減ったよね。
私達も移動しながら果物を食べたりはしていたけれど、ちゃんとしたものが食べたい。
持ってきていた大きな桶に流水の水を入れ、そこにリヴァイアさんを寝かしておく。
寝ぼけたまま体を丸めて水の中に浸かっているが、溺れないのか心配だ。
ツバメが「人魚だから大丈夫ですよ。でも、念のために様子を見ておきます」と言ってくれたので、リヴァイアさんのことは任せよう。
あと、諭吉もご飯より疲れが勝ったのか、リヴァイアさんと一緒に水の中で休み始めた。
人魚と亀が仲良く寝ている姿に癒された。
私は調理器具と食材を出し、料理を始める。
体は濡れていないけれど水の中にいたから、温かいものを食べたい。
一番簡単なのは鍋だ。
「一色さん。ここに来る道中に取れた食材を全部渡すね」
「ありが……うわあっ」
受け取ろうとしたのだが、手で持てる量じゃなかった。
地面に山のように積まれた食材を見てびっくりした。
「一色さんが一緒にいるから、レアな食材ばかり出たよ」
「あ、寝てても私の運の効果はあるんだね! それにしても……海の幸! って感じ」
どんな魔物からゲットしたのか分からないけれど、まぐろっぽい切り身がたくさんあるし、たこやイカ、エビにカニまである!
「お正月より豪華なご飯にできそう! お鍋にするのは勿体ないかなあ?」
「僕は好きだよ、鍋」
「!」
推しの「好き」に反応してしまいそうになったけど、鍋の話だから! 鍋だよ、鍋!
「じゃあ、鍋にするね! やっぱり鍋にはうどんが欲しいよね。うどん作ろー」
「え! うどんも作れるの?」
「小麦粉と塩あるし、できるよ。生地を寝かせる時間が必要だけど、間に合わなかったら置いておけばいいし」
「ぎゃ」
「にゃ」
虎太郎と話していると、芳三と虎徹が肩に乗ってきた。
どうやら私の手伝いをしてくれるらしい。
肩に乗っていると、ちょっと邪魔なんだけど……可愛いからいいか!
さっそくうどんから作り始める。
食塩水を作り、小麦粉と合わせてこねていく。
芳三と虎徹がこねたいようだから、素材が何か分からないけれど、ツバメがくれたナイロン袋に近い袋に入れてこねこねふみふみして貰う。
か、可愛い……。
思わずにこにこしてしまった私と虎太郎だったが、ツバメはモノクルで鑑定しながらジッと調理の様子を見ている。
「相変わらず興味津々だなあ」
最初のからあげのときも、とっても感動してくれたなあ、と思い出していると、虎太郎が「あ」と声を出した。
何だろう、と首を傾げると、コソッと小さな声で教えてくれた。
「分かっているかもしれないけれど、一応伝えておくね? 今一緒にいるツバメさんは最初に出会ったツバメさんと別の人だよ」
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